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4-2

「な、なあ! デートって何を着てけばいいんだ!?」

「知らん」


 昼下がり馬車の中、俺の質問にフェノンはどこか不機嫌そうだった。


「というか本当に行く気か? 正気か?」

「当たり前だろ!? この機を逃さすでおくべきかっ!」

「いや、どんなキャラだそれ」


 呆れた目で腕を組んで見つめられるが俺は気にしない! 今の俺は人生の最盛期に違い無い。モテ期って奴だ。そうだ、そうに違い無い。なぜなら先ほど俺に告ぅってきた女性からデートのお誘いを受けているからだ。


「だがな、いきなり会ったことも無い人間が告白してくるなんて、どう考えてもおかしいだろう」

「……悲しいな、フェノン」

「何……?」


 俺は小さくため息をつき、そして優しい笑顔を浮かべてフェノンを見る。


「大丈夫だって。フェノンにもいつかそういう日が来る。最初は信じられないかもしれないけど、こういうのは突然来るものなんだ。だからきっとこれは大丈夫」

「おい何だその腹の立つ笑みと気遣ったような言葉は。まるで私がお前に対して嫉妬している様に聞こえるんだが」

「ハハハ、無茶するなよ」

「どうしよう。こいつ殴りたい」


 何故かフェノンがこめかみに青筋浮かべて震えている。どうしたんだろうか? 何か悪い物でも食べたのか?


「あのーカズキ様? 私も行かないほうがいいと思うんですけど」

「ククスさんまで何を?」


 外から馬車の窓を覗き込むようにして現れたククスさんは、『えーと』と一拍挟んで続けた。


「いやだって私達は今日この町に来たんですよ? それなのに馬車から降りた途端に告白ってどう考えてもおかしいじゃないですか」


 確かに、俺たちは今日この新たな街に辿り着いた。そしてあの子が告白してきたのは俺達が馬車から降りてきた途端であることも事実。

 けどそれがどうしたというのか。


「ククスさんこそ何を。この世界の人達は頭おかしい状態がデフォルトなんですよ? だから突拍子も無く告白されても問題ありません。むしろ段階踏んで現れたら俺は疑います」

「……何故でしょうか。しれっと馬鹿にされた気がするのは」


 顔をひくつかせるククスさん。どうしたのかな? 顔面神経痛かな?

 フェノンはフェノンで額に汗を垂らしつつ、『ぬう』と唸っている。


「今までの経験が悪い方向に作用しているな……しかも現実を知ってしまった身としては微妙に否定し辛い」

「フェノン様? 現実ってどういう事ですか? フェノン様も頭おかしい人に心当たりが?」

「…………知らないほうが幸せかもしれん」

「?」


 どこか憐みを込めた目でフェノンに見つめられるククスさんだが気づいていない様だった。だが今はそんな事はどうでもいい! 問題は俺に告白してきたあの女性の事だ!


「苦節19年……。彼女は出来ず野郎とばかり遊んでいた今までの日々。妄想ばかりが膨らみ続けた思春期! ドキドキしたけど勇気を出して買ったゴム。だが相手はおらず予行演習に全て消えた俺がっ! 数年したら吉原とか福原に行こうと加藤と誓い合っていた俺が! そんな、そんな俺が遂に……っ!」


 拳を握ると涙が溢れてきた。これは決して直近の自分の痛々しい過去を思い出して泣いてるわけではない。歓喜の涙。うん、本当にそうだ。絶対そうだ。


「フェノン様、ゴムってなんの事ですか?」

「知らん。その辺りの知識はカズキと同調した私でも持ち合わせていない。より印象が強い知識が優先されて同調したのでな。恐らくはカズキにとっては全く持って完全に一かけらの親和性も無い無縁極まりないものだったがゆえに優先度が低かったのだろう」

「さらりと人の心抉らないでくれませんかねえ!?」


 全く失礼な連中である。ああ、それよりも準備をしなくては。この後に彼女と約束しているのだ。町のはずれにある森を小一時間程進むと小さな小屋があるらしい。そこでデートだ。そう、小屋でデート。それはつまりはアレがそれな感じのそういう事でいいのだろうか!?

 もう服は何でもいい。いや、良くないが時間が無いので仕方あるまい。しかしデートって手ぶらでいいのか!? 何か持っていくべきか? 花束とか……いや、それはいくらなんでも。それじゃあ他に準備は……。そうだ小屋に行くという事はアレがあるかも知れないわけでここらで知識の補充をしなければ。そう、ずっと昔から気になっていたが知らないままだったアレを!


という事でフェノンに聞いてみた。


「なあフェノン、恋愛のABCってたまに聞くんだがどういう意味なんだ?」

強襲(Assault)する爆弾(Bom)(Crusher)


 どこか投げやりな感じでフェノンが答えてくれました。

 つまり恋は先手必勝という事か!





「そもそもだ。カズキこの世界に来たのは我々の勝手だ。あいつにはあいつの生活があった」

「はい」

「だがそれすら厭わずあのアテン大陸同盟の馬鹿どもが召喚してしまった。しかも奴らは反省していないと来た。まあそんな連中への制裁は残してきた部下どもにネチネチとやらせているので今はいい。問題は、私たちはカズキを無事に元の世界に帰す義務があるという事だ」

「その通りです」

「そうだ。重ねて言うが私達にはあいつを無事に帰す義務がある。だからこそ、危険や不信を感じたらそれを調べるのも必然と言う訳だ」

「今まで色々と危険やらなんやらスルーしていた気も否めませんがそんな記憶は心の奥にそっと仕舞いました。なので否定しようがないくらい正論です」

「ああ、そうだろう? だから――――私達のこの行動に何ら後ろめたいことは無い」

「見事な理論ですフェノン様」


 よし、ククスもそう言っているからやはり正しい。私は自分の行動に自信を持つと、目の前の茂みを掻き分けその先を見た。

 私の視線の先には小屋があり、そこでカズキがソワソワとしながら立っている。件の待ち合わせの場所だ。そしてまだあの女は来ていない。そう、私たちは意気揚々と出かけたカズキを密かにつけて来ているのだ。


「どう考えても怪しすぎますよね。そもそも普段のカズキ様は正直に言うと惚れられる要素がたいしてありません。普段は基本的にモブ側の方です。それなのに突然告白など裏があるとしか思えません。それにあの小屋だってこんな所に建っている時点で怪しさ満点ですよ」

「なんだか妙に燃えているな。というかククス。お前そんなにカズキと仲が良かったのか?」


 何故だか隣で同じように茂みに隠れてご丁寧に頭に枝まで射したククスがどこか据わった目で呟いていた。


「いやーそれが。ほら、先日の騒動の時にガチ凹みしてたカズキ様に優しくしたら妙に懐かれてしまいまして。こう、野良犬を従順な僕に変えていくような感覚? ですが今回の件で折角の餌付け――じゃなくて交流も途切れてしまうのはあまりにももったいないと思いまして」


 そういえばカズキに飴玉やクッキーやらを与えている姿を最近よく見かけた。あれは餌付けだったのか。というかカズキ。お前はそれでいいのか。


「しかしいかにも怪しげな場所ですね。こんな所で呼び出している時点で罠確定ですよ? 止めなくて良かったんですか?」

「言っても聞かないのだから仕方あるまい。童貞特有の妄想力と舞い上がりで前が見えていない状態だからな。普段のあいつならあそこまで馬鹿では無い……無い……はず……無い、よな……?」

「フェノン様。正直私も自信ありません」


 い、いや、一応いいところはあるんだぞ? こないだも色々捨て身で私の為に動いてくれたのは、その、嬉しかったし。


「ああ、フェノン様が乙女の様に顔を赤らめて何やら考えていらっしゃる。とても二十歳を超えているとは思えない乙女思っぷけらっ!?」

「そんなに死にたいか?」

「いきなり叩かないで下さいよぅ」

「ふん」


 私はたった今ククスを叩いた拳を下して改めてカズキの様子を見る。

 妙にソワソワしつつそれを隠そうと小屋の壁に背中を預けてクールを装っている。何だか見ていて痛々しい。完全に思春期の中学生レベルの行動である。


「しかしあの女、何が目的だ? 敵であるならばあの小屋ごと爆破してやるのだが」

「そうですねえ。なんでわざわざこんな回りくどい事を。いつもの様に真正面から襲撃してきてくれれば――――来ましたよ」

「む」


 カズキの近くに例の女が現れた。背が高く私より上だろう。青色がかった長髪を腰まで伸ばしたすらりとした体躯。少したれ目の穏やかそうな印象を受ける顔。そして細身故に目立つのは平均より大きめのバスト。まずい、あれはカズキの好みにどストライクだ。

 二人は何やら話しているが声は聞こえない。それにやきもきしていると、なんとあの女がカズキの手を取り小屋の中へ連れ込んでいった。


「………………フェノン様爆破しましょう」

「いや待て落ち着け」

「落ち着いていられますか! 何ですかあのヴィィィッチは!? いきなり連れ込みましたようちの犬を!」

「今お前犬と言ったか」


 しかしククスが慌てたお蔭で逆に冷静になれた。というのも実は私も思わずあの小屋へ氷結魔術を撃ちこみたくなる衝動に駆られていたからなのだが。


「とにかく落ち着け。奴が敵だったらカズキが不味い。なので合法的超法的理論的な判断によりあの小屋へ侵入するぞ。他意は無い」

「うふふふ、久しぶりにこの釘バッドが血を吸えますね―――」


 私たちは頷き、動き出そうとした時だ。


「え?」


 小屋自らが突然膨れ上がり、盛大な音と共に爆発した。


「――――カズキッ!?」


 思わず私は飛び出した。ククスも私に続いて飛び出している。こういう時の対処は流石に早い。

 小屋まで辿り着くと燃え上がる熱風に思わず眉を顰めた。この状態では中に居たカズキが……


「痛っええええええええ!?」

「カズキ、無事か!?」


 不意に聞こえた声。その方向に駆け寄ると小屋から少し離れた地面で悶えているカズキを見つけて思わずホッとした。


「あれ? フェノン? なんでここに?」

「言ってる場合か。それより何が起きた? というか良く無事だったな」

「いや、それが……」


「ほんと、油断したわ……」


 不意に聞こえた新たな声。その声の主は燃え上がる小屋の中からゆっくりと歩み出てきた。


「あの女は……」


 間違いない。つい先ほどカズキと小屋に入った女だ。その姿は爆発の影響かボロボロであり、顔には憎悪が浮かんでいる。って、ちょっと待て。


「もしかしてあの爆発はお前がやったのか?」

「…………」


 何故だかカズキは目を逸らした。何だ? いったい何が起きていたのだ?


「ちっ、流石は破限魔術師。私の事を見破り突然爆弾を投げつけてくるとは……」

「爆弾?」


 ちらり、ともう一度カズキを見ると彼は顔を逸らし、


「いやね? フェノンも言ったじゃん恋は爆発って。あの言葉を俺なりに解釈した結果、ナチュラルに頭のネジが飛んでるこの世界ではまず先手必勝で爆弾をプレゼントするのがトレンドだという帰結に至りまして」

「――それで?」

「小屋に入るなり爆弾を投げつけました」

「お前いくらなんでも馬鹿になりすぎではないか!?」

「だって! この世界に来てからその馬鹿が標準になってるんだぞ!? 境界線がわからないんだよぉぉぉぉ!?」


 いかん、重症だ。この世界に大分毒されているのに加え、初めての告白に舞い上がり正常な思考回路が消え失せている。しかもカズキのいう事も微妙に納得できてしまうのが痛い。


「やはりこんな回りくどい手より、直接叩いた方がよかったわね。破限魔術師め……」


 あっちはあっちで普通にカズキが見抜いたと思っていたらしい。やっぱりカズキの方が正しい気がしてきたあたり私も大分毒されている。


「しかしその言い分だとお前はやはり敵だったか。何が目的――かは聞くまでも無いか。だが何故こんな回りくどい事をした?」

「決まってるわ。復讐よ……。その男に対する復讐」

「復讐だと?」


 カズキを見るが彼もわからないと言ったように首を振る。そもそもカズキのこの世界の交友関係などかなり限定的だ。あの女の言う意味がいまいちわからない。


「惚けるな! だったら見せてやる。私の復讐……その意味を!」


 そう言うと女は手を高く上げ、そしてパチンッ、と指を鳴らした。


「な、なんだ!?」


 突如、どこからともなく太鼓の音が聞こえてきた。軽快なリズムに乗って、オーエーオーェイーと謎のコーラスが追加されていく。やがて太鼓の音は増えていきそれは連なっていく。高鳴るビート。響き渡る謎のコーラスというか雄叫び。女のバックで炎が上がり、謎の模様が施された仮面を被った半裸の男たちがどこからともなく現れ、褌一丁で太鼓を叩きながらコーラスを加えていく。それはまさに大地への賛歌。生きとし生ける物へ捧げる呪術めいた高鳴り。これは儀式だ。大地を、空を、精霊へ何かを捧げ、何かを祈るための儀式に違いない。

 更に高鳴るビート。絶叫じみてきたオオィォオィェェイオォオッ! というコーラス。仮面の男たちから汗が舞い、私とククスの不快度指数がうなぎ上りに上がっていく中、女はボロボロになった服に手をかけ、そして憎悪に満ちた目でカズキを睨んだ。


「破限魔術師。私は貴様を許さない……。私をこんな目に合わせた貴様を!」

「な、何を……」


 カズキは呆然とその光景を見ている。だがそれすら構わず、シーズルはそのボロボロの服を自らはぎ取った。そして現れた光景に私は絶句した。


 肌色だった。問答無用な位に肌色を露出していた。豊かな胸の先端と股間を申し訳程度に覆う布地。それを繋ぎとめる紐には謎の羽やら骨やら短剣やらがふんだんに取り付けられ、その姿はまるで人型の孔雀。いつの間にか頭部にはサークレットを身に着けそこにもまるで鶏冠の様に羽やら骸骨やらが取り付けられている。

 そして何よりも目を引くのがそれらの装備は全てピンク色だという事だ。考えても見てほしい。明らかに20越してる女が、どピンクの紐ビキニに謎の部族の様な羽やら骨やらを括り付けた謎とか神秘を通り越して混沌とした服装で立っているのだ。それがもう少し意味のある配色だったら見方は変わっていたかもしれない。未開の部族の神秘性を感じていたかもしれない。だがあの女の場合はピンクがメインな為に、そんな神秘性は皆無だ。はっきりと言おう。痛い。前回の自分以上に痛い。もうどうしようもないくらいに痛い。


「お、お前は!?」

「ふふ、ふふふふふふ! ようやく気づいたからしら破限魔術師!」


 カズキも何かに気づいた様だ。というか私ももうなんとなく気づいてきた。つまりはそういうことかと。そして彼女がカズキを恨む理由、それは――


 高鳴る太鼓のビートは最高潮。

 コーラスは限界を超えシャウトと化し、ついには謎のダンスまで加わった。

 炎が上がり火の粉が舞い落ちる中、その舞台の中心に居る女かっ、と目を見開き叫んだ!


「そう。私は法魔四天王ネプチュネル配下の魔弓七塵将直下の秘密女傑部隊―――密林ビキニ部隊桃色大三元のシーズル!」


 見開いた目からぶわっ、と涙を流しつつシーズルは力の限り叫んだ。


「貴様のせいでこんな格好をするハメになった28歳の独身女だぁぁぁぁぁ!」


 私は心底シーズルに同情した!


今年ラストです。今日から実家に帰省します

さらに転勤決まりました。しかも来月。今度は名古屋です。

急いで新しい家さがし&引っ越し準備進めているけれど肝心の不動産屋が休みという。HAHAHA

一応3日は戻るけれどもその3日後に新天地なのでちょっとドタバタしてるので、もしかしたら半月か一月ほど空くかもしれません。

そんな自分ですが今年はいろいろありがとうございました。来年もよろしくお願いします

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