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俺の黒歴史ノートが異世界で魔導書になっていました:連載版  作者: きり
第三章 明かされる彼女の過去! 魔法少女襲来編
17/30

3-7

たまにはバトルをしっかり書いてみようかと思ったがネタがネタなだけにいろいろアレでした

 戦場にひらひらと粉雪の様に光が舞い落ちる。黒い光を放つそれを幻想的感じつつ、俺はその光の中心に居るフェノンを改めて見た。


「さあいくぞマリアンヌ。今度こそ終わりだ」


 勇ましい言葉とは裏腹にフェノンの格好は何とも可愛らしい。黒のミニスカートはフリルをあしらいつつも以前より豪奢になっているし、ノースリーブの上半身も豊かに盛り上がった胸の中央にある大きなリボンがやっぱり可愛い。スカートから伸びる白い肌は途中からフリル全開な靴下が膝下まで伸びていてなんとも可愛らしい。両手には黒のウェディンググローブをはめ、その手にはブーケ。極めつけはツインテールの頭に被る黒のベールと背中から伸ばした妖精の様な羽だ。

 漆黒の妖精花嫁とかいうなんかもうこれでもかとばかりに乙女な夢を全開にしつつどこか厨二的な雰囲気を残すその衣装に俺は目を丸くしていた。


「あれがフェノン様の……」

「え? ククスさんも始めて見るの?」

「はい。第二形態は奥の手の様でしたので今までは一度も」


 ということはかなりレアな光景という事か。というか今更だがククスさんもあの姿見てるけど良いのだろうか? やっぱ弟子はノーカンか? それとこの世界の結婚の様式とか知らないけどあれ見る限り同じっぽいなあ。


「おーほほほほほほほふぉふぉふぉ!! その姿を引き出せたことに私は喜びを隠せませんわ! イイ、イイですわよフェノンッ! わたくしのチョンマゲがいきり勃ちますわああ!」

「オイコラその漢字はやめろ! これ以上俺の故郷を汚すな!」

「今更あなたが何を言いますか! ヨゴレの癖に!」

「ああああぁカズキ様! 大丈夫です、大丈夫ですから泣かないで下さい! ヨゴレなんて洗い流せば良いんですから! ほら、私とあっちに行きましょう? 飴をあげますから」

「ヨゴレじゃない……ヨゴレじゃないもん……」


 空を見上げながら涙を流す俺の口にククスさんが飴玉を放り込むと引っ張っていく。というかククスさん。優しいのとってもありがたいんだけど今ヨゴレって認めたよね?


「マリアンヌ。これ以上好きにはさせん」


 そんな俺たちをよそにフェノンが腰を落とし、そして飛んだ。跳んだのではない飛んだのだ。なにそれ凄い。


「≪ブラック・リリック・アサルト(強襲する)ライスシャワー(豊かなる散弾)≫!」

「≪ホワイト・リリック・ホワイト(白き)ツッパリ(連撃)≫!」


 空高く舞い上がったフェノンがブーケを振るうと光の粒が溢れだし、それが嵐の様にピュアホワイトチューリップに降り注ぐ。だがピュアホワイトチューリップも負けてはいない。バッドを一度しまうと、女を捨てたどっしりがに股でしこを踏みその両手を凄まじい速度で交互に前に押し出す。するとそこから手のひら型の光が溢れ、フェノンの放った光をはじき落としていく。


「なんか昔……ゲームであんな技があった気がする……」


 加藤がひたすらあの技を出してくるので俺はひたすら全身から電気ビリビリで勝負したなあ。ゲーセンでやったら怖いお兄さんたちに絡まれたのはいい思い出。


「おーほほほほ! この程度は今のわたくしは倒れません事よ! 今度はこちらから行きますわ!」


 ピュアホワイトチューリップがバッドを再び抜きそして構えた。するとバッドから光が生え、釘の様な形になった。そしてそれを振りかぶりフェノンめがけて跳ぶ。


「≪ホワイト・リリック・シャイニング(輝く夢を)釘バッドォッ(失う過ち)≫!」


 ねえ、お前らの魔法本当に俺の黒歴史ノートが元なの? 俺が忘れてるだけなのかもしれないけど何をどう研究したらそんな魔法が生まれるのか俺にはもうわかりません。


「接近戦か……だが!」


 フェノンもまたブーケを天に掲げ、叫んだ。


「≪ブラック・リリック・ヴァージンロードプレス≫!」


 フェノンの前にまるで絨毯を広げるようにして光の線……いや、あれは道か? とにかくそれが生まれピュアホワイトチューリップの攻撃を阻んだ。なんかすげえなオイ。


「ぐぬぬぬぬ!? や、破れませんわ!?」

「当然だ。お前と別れてから私とて研鑽は積んだ! それにこの光の道を歩んでいいものは限られたものだけ! どうせまだ独り身のお前には絶対通れん!」

「それを言いましたわねえええええええ!?」


 あ、キレた。どうやら女を捨ててる様に見えてやっぱりそういうのは気にするんだなあ。


「カズキ様。はい、次はこの味です」

「うん」

「どうですか?」

「おいしい」

「それはよかったです」


 因みに今現在俺は道の端っこで体育座りでそんな戦いを眺めていた。その隣にはククスさんも座り定期的に俺に飴をくれている。俺は出来るだけフェノン達から目を逸らさずにいるので飴もククスさんが口に入れてくれたりする。何でそんな事してるかって? 油断して視線を逸らした時に今の自分の格好見たらさ、ほら? 死ねるじゃん? 

 一度だけチラッと下半身見たときはキレッキレのビキニから微妙にはみ出る謎の毛を見てしまってやっぱり死にたくなりました。


「それでも! 今度こそ私はフェノンに勝つのですわ! 勝って、そして認めて貰うのです!」

「マリアンヌ。そんな事せずとも私はお前を――」

「いいえ! これはわたくしの矜持! 引けませんのよぉぉぉ!」


 効果の無かった釘バッドを放り捨てピュアホワイトチューリップが吠える。なんか男より男らしいその叫びになんだか俺はじーんと来ていた。なんだろう、たとえ格好がイカレてても彼女の想いは本物だという事が伝わってくる。


「フェノンはわたくしの大切なお友達! だからこそそれに恥じない女に私はなるのです!」

「……わかった。お前がそこまで言うのら最後まで付き合ってやろう」


 フェノンも空中で静かに構えた。どうやらこれで決着がつく様な雰囲気だ。


「行きましてよ!」


 最初に動いたのはやはりピュアホワイトチェリーだった。見事なまでのしこを踏み、大きく息を吸い込んでいく。それに応じて彼女の周囲が光輝いていく。なんだかどえらくヤバそうな気配がしてきます、はい。


「≪ホワイト・リリック――――シャイニング(閃光の)DOSKOI(肉弾戦車)!

「棄てた!? 完全に女を棄てきったぁぁぁ!?」


 女の身で自分の事肉弾戦車とか言っちゃったよあの人!?

 だがそれが彼女の想いの強さなのか。光輝く彼女はその技の名の通りフェノン目掛け、まるで空高く発射するロケットの如く飛び上がっていった。

 流石にあの速度でどすこい体当たり食らえばフェノンも不味いんじゃないか? そんな不安に駆られ上空のフェノンを見ると丁度目が合い、そして彼女は小さく笑った。


「≪ブラック・リリック・グレネードフェアリー≫!」


 え? あの子も今なんて言った?

 フェノンの周囲で先ほどの様に光が溢れだす。そしてそれは収束して黒く光る妖精の形となっていくと、猛スピードで飛び上がってきたピュアホワイトチューリップ目掛けて一斉に放たれた。

 放たれた妖精たちはまさに特攻の如く次々とピュアホワイトチューリップに突撃しては爆発を起こして無残に散っていく。妖精の造形が妙にリアルな為にその光景は中々に惨たらしい。乙女はどこに行った乙女は。

 だがその甲斐あってかピュアホワイトチューリップの勢いが少し弱まった。その好機を逃さんとばかりにフェノンが更に叫ぶ。


「≪ブラック・リリック・ダークネスエンゲージリング≫!」


 ダークネスて。というかわかったぞ! なんとなくそんな気はしていたけど間違いない。フェノンは乙女趣味だが同時に―――――俺に劣らぬ酷い厨二病だったに違いない!


「こ、これはあああ!?」


 フェノンから放たれた黒い光のリングが突っ込んでくるピュアホワイトチューリップと激突し、その輪の中で遂に捕え、身動きが取れなくなった。何度も出ようと身じろぎするが、リングが狭まり完全にピュアホワイトチューリップを縛り上げる。


「そんな! こんな技、知りませんわ!?」

「言っただろう。私もまた研鑽を積んだと。それにカズキが見ている前でこれ以上無様は見せる訳にはいかないからな」


 ふっ、とフェノンは笑うとマリアンヌさんに背を向けた。そしてずっと手に持っていたブーケを持つ手をゆっくりと持ち上げる。


「マリアンヌ。お前のその気持ちは嬉しくもあった。だからこそ受け取れ。この一撃を」


 フェノンがその手を勢いよく振り上げ、ブーケを背後に向かって投げた。そしてそのブーケは空中で拘束されて身じろぎを取れないピュアホワイトチューリップへと落ちていき、


「ふぇ、フェノン! わたくしは――」

「≪ブラック・リリック・デス・ブーケ≫」


 何かを言いかけたピュアホワイトチューリップにブーケが落ちると同時、凄まじい爆発が彼女を包み込んだ。


「うわあ…………」

「えげつないですね……」


 妖精自爆特攻に加えて拘束しての大威力攻撃ってなにそれ怖い。俺とククスさんはビビりながらその光景を見ているしかなかった。というかデスて。やっぱりフェノンも俺の同類なんじゃねこれ?


「あ! 落ちてきましたよ!」


 ククスさんが指さした先、爆炎の中からなんだか煤汚れた白い塊が落ちてきて、凄まじい音を立てて地面に激突した。言うまでもない、ピュアホワイトチューリップだ。そしてフェノンもそんな彼女の前にゆっくりと降りていく。


「ぅ……フェノン……わたくしは……」

「あ、生きてた」


 あの爆発浴びて存命ってどうなってんだおい。ああけど流石にフェノンも友人を殺す訳ないか。


「ふ……うふふ……やはり、フェノンは強いですわ……わたくしなんて……」

「そんな事は無い。現に最初は私も苦戦した。それはお前の強さだろう」

「ですが、わたくしは負けて、しまい、ましたわ……。これではもう」

「……」


 ピュアホワイトチューリップ……いや、もはやただのマリアンヌさんと化した彼女にフェノンが近づいていきそして、


「いい加減にしろマリアンヌ」


 げし、と蹴りつけた。うわあ。


「い、痛いですわ!? 何をするんですの!」

「うるさい黙れ。勝手に決めつけて暴走したお前が悪い。いいか? そもそもお前の考えそのものが勘違いなのだ。確かにお前は人の話は聞かないしすぐ暴走するし駄目な所が目立つ」

「ぅぅ……」


 容赦ねえ。完全に泣いてるぞマリアンヌさん。


「だがそれでもお前が私の友人である事には変わりない。なのに勝手に友人の理由だの矜持だのと言うな。勝手に友人辞められては私が困る」

「ふぇ、フェノン……」


 泣いていたマリアンヌさんが潤んだ瞳でフェノンを見上げると、フェノンは呆れた顔で、しかしどこか気恥ずかしそうだった。そしてそれを見たマリアンヌさんがぼろぼろと涙を流し、


「びえええええええええん! ふぇ、ふぇぼんっんん!」

「ええい!? 泣くな抱きつくな!? 鼻水が、鼻水がつく!」


 大泣きしながらフェノンに縋りついていた。フェノンは慌てて振り払おうとするがマリアンヌさんは放そうとしない。


「ずいまぜんでじたぁぁぁぁぁ! ごれきゃあらもわだくじと、おどもだじでええええ!」

「何を言っているのかわからん!」


 ……あーなんか和むなぁ。ちょっと騒がしいけどどうやら二人は仲直りしたみたいで俺も嬉しい。だってあれだけ犠牲払ったのに喧嘩別れなんてしたら嫌じゃん?


「良かったですね、カズキ様」

「うん。俺もこれで報われる」

「自分で言いましたね」


 だって事実だし。


「ヴェノンっっ、ごれからも、ずっど、ずっど一緒でずわぁぁ!」

「纏わりつくな!」

「嫌でずわぁぁぁ! だっで、フェノンだっでぇ、どうぜ彼氏のかの文字もないにぎまってますじ、問題ありまぜんわぁぁっぁああああああ!」

「…………おいちょっと待って。どういう意味だそれは」


 あれ? なんかフェノンの顔が険しくなったぞ?

 だがそれに気づいていないのかマリアンヌさんは鼻を啜りながら首を傾げた。


「ぐずっ、ぐす……だって、だってそうなのでしょう? フェノンが未だに男性とお付き合いしたこと無いのは調査で知っていますわ」

「何を勝手に調査している!? というかそれを言ったらお前もだろうが! どうせ未だに独り身なのだろう!? 無縁の生活を送っているのだろう!?」

「そ、そんな事ありませんわ!? つい先日だってちょっとお高めの壺を買ったらお付き合いをしてくれるという方がいましたもん! 何故か壺を買った後連絡が付きませんけど!」

「馬鹿がお前は!? どう考えても騙されてるだろう! そんな風に考えなしだから相手が出来んのだ!」

「そ、それをフェノンに言われたくありませんわ! どうせまだ処女の癖にぃぃ! 未だに緑豊かな丘の上の白くて赤い屋根の一軒家で大きな犬と旦那さんと共に暮らすのが夢なんでしょう!?」

「そ、それこそお前に言われる筋合いは無いっ!? お前だって処女だろう!?」

「わたくしはいいんですの! いつか白カバに乗ったヨコヅナ様が私を迎えに来てくれますので!」

「いい加減現実を見ろ!」

「フェノンこそ!」


 あれ? おかしいな。さっきまで感動的に友情リカバリーしてたはずの二人が言い合いから徐々に物理でお互いを叩きあうキャットファイトに移行したんですけど。

 二人とも先ほどまでの魔法はどこに行ったのか。文字通りの泥試合を開始してしまった。しかし何故だ……! 先ほど空に居たときからずっと見ているのに、あれだけ短いフェノンのスカートの中身が見えないのはどういうことなんだ! 魔法か!? やっぱ魔法なのか!?


「あのーカズキ様。どうしましょうか」

「……放っておこう」


 うん、それがいい。一応友情は回復したはずだしなんだか本人たちの聞いちゃいけないことまでいくつか聞いちゃったけどそれは心にそっとしまっておくとしよう。ほら、あれじゃん? 喧嘩するほど仲が良いっていうし後は二人次第って事で。


「あ、カズキ様。住民がまた……」


 ククスさんが指さした先、懲りずにまた様子を見に来たらしい住民達の姿が見えた。


「……」


 ちらりとフェノン達を見る。二人のバトルはしばらくは終わる様子は無い。見ているこっちとしては艶めかしい太ももとか腋とか見えて大変眼福なのだが、それを見ず知らずの連中に見せるのがなんとなく嫌だ。つまり俺の仕事はまだ終わって無いらしい。


「俺、行くよ」

「か、カズキ様!? 本気ですか!?」

「ああ。フェノンにも頼まれたしさ。やっぱここは俺が行かなきゃ」


 そう言って笑うと俺はゆっくりと近づいてきた住民たちを見据える。もうどうにでもなるが良い! そんな気概の下、俺は一気に住民たちへ向けてダッシュした。


「き、来たぞ! さっきの変態だ!?」

「構えろ! さっきの様にやられるわけにはいかない! この町の子供たちの情操教育の為にも!」


 何やら好き勝手騒いでいるが今の俺には関係ない。俺は泣きながら笑うという我ながら不気味な行動をしつつ、相棒の為に叫んだ!


「だった今命名! ≪クリティカル・シェル・アポカリプスギャランドゥ≫!」


 住民達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した! 

 住民の精神にクリティカルダメージ!

 俺の精神もクリティカルダメージ!






 ゆっくりと奏でられるギターの音。それに乗せて響く女性の歌声。それを聴きながら私はゆっくりとグラスに口を付けた。


「美味いな」

「ええ、そうですわね」


 そう言って同じくグラスに口を付けたのはマリアンヌだ。その顔は青痣や引っ掻き傷が残っており、更には所々煤こけていてなんとも無残である。まあ今の私も人の事をあまり言えないが。


「色々な方に迷惑をかけてしまいましたわ」

「ああ」


 あの後、お互いに流石に疲れてきたあたりで漸く自分たちが何をやっているか気づいた私たちは我に帰ったのだ。そしてそれに気付いたククスが呆れた様な顔をしつつ私たちを誘導してその場を離れた。

 そして日も落ちた今は街の酒場で二人、こうして酒を飲んでいる。流石にもう喧嘩する気力ない。


「けど色々ありましたが、フェノンのこうしてまたお酒を飲めるのは嬉しい事ですわ」

「まあ、そうだな」


 それは否定しない。私だって友人は大事だ。たとえそれが色々アレでも。


「破限魔術師様……カズキさんにもお礼を言わなくていけませんわ。いえ、その前に私は謝罪ですか」

「それは私も同じだ」


 何せ私たちが住民の目につかないようにとあの格好のまま街中を走りまわったらしい。そのおかげで私のあの姿や、その後の泥試合はカズキとククス以外には見られる事はなかったのだから礼と謝罪はするべきだとは自分でも思っていた。

 因みに当の本人は今は宿屋の布団の中に潜り込んでいるらしい。流石にそれを非難する事は出来なかった。それよりも――


「うふ、フェノン。嬉しそうですわ」

「何?」


 隣に座っていたマリアンヌは私の顔を覗き込み、そして笑った。


「やり方は少々イカれてましたけど、自分の為にあそこまでしてくれて嬉しいのではありませんか?」

「そんな事」

「わたくし覚えてましてよ。フェノンの好み。『馬鹿でも欠点があっても、やるときにはやってくれる熱い人』でしたわよね」

「…………お前は普段は馬鹿っぽい癖に余計な事は覚えている」


 苦々しい気分でグラスに口を付けるとマリアンヌは嬉しそうに笑った。


「ええ。とても大切なお友達の事ですから。それで実際のところどうですの?」

「それは……まああれだ。あいつとはまだ短い付き合いだが、悪い奴で無い事は確かだ。それになんだかんだで度胸や思い切りも良い。それに――」

「それに?」


 なんだろうか。色々と想う事はあるが少なくとも嫌っては居ない。いやそれどころか好ましくも思っている。それが相棒としてか、それとも異性としてかと言えば――

 ふとマリアンヌの顔を見ると、なんだかにやにやと笑っていた。それが気に食わない。まるで見透かされているようだ。


「これ以上は言うつもりは無い」

「あらあら」


 なので話を打ち切ったがマリアンヌは面白そうに小さく笑っただけだった。


「なんだその顔は」

「言いましたでしょ? 大切なお友達の事は良く知っていますと」

「……ふん」


 勝手に想像していろ馬鹿。


「ここにいるか! 金髪の魔女めぇ!」

「ん?」

「あら?」


 突然店のドアが外から破られ三人の男が現れた。全員が岩や土を固めた様な鎧を着ており、その眼は血走っている。


「あらあれは」

「知り合いか?」

「知り合いと言いますか。先日道端で見つけてとりあえず潰した魔族軍法魔四天王ノームルン配下の魔ヌンチャク七塵将直下の湿地愚連隊ゴーレム三兄弟とかいう連中ですわ」

「あれがか?」


 つまりマリアンヌに復讐に来た訳か。向こうもこちらを見つけたらしくその血走った目を向けてきた。


「見つけたぞ金髪の魔女!」

「それにお前は破限魔術師と一緒に居る魔女だな! 丁度いい!」

「先日の恨み! 晴らしてやる!」


 男たちが叫びその手に武器を取り出す。それを見て私は小さくため息をついた。


「無粋だな」

「ええそうですわね」


 マリアンヌも頷きゆっくりと立ち上がった。


「ですが私たちに喧嘩を売るとはお馬鹿さんですわね」

「ふっ、違いない」


 私も立ち上がり男たちに向き直る。そしてまだ手に持ったままのグラスをマリアンヌに掲げた。マリアンヌもそれに気づき、同じくグラスを掲げる。


「少し変ですけど素敵なフェノンの相棒に」

「そして私とお前の友情に」

『乾杯』


 こんっ、とグラスをぶつけ合う。それを合図として魔女二人と湿地愚連隊ゴーレム三兄弟の戦いが始まった。






「振り向かないことが若さ……俺は19歳……だから若い……強くなれ……強くなれ……」


 翌日。俺はいつもの様に馬車にゆられて次の町への旅に戻っていた。

 昨日の事は散々ベッドの中で悶えた挙句、綺麗さっぱり忘れる努力をすることにした。そうでもしないと俺の精神がヤバい。


「大丈夫か?」

「あ、ああ。大丈夫。俺は若い、若い……」


 対面に座るフェノンに頷いて返すとフェノンも『そうか』と頷く。うーん? その反応に俺は思わずフェノンの顔をまじまじと見てしまった。


「どうした?」

「い、いや~」


 うん、やっぱり変だ。いつもならここで『昨日は凄まじい格好だったなあ?』とか『破壊力が凄かったぞ』とか言って俺を弄ってきそうな物なのにそれがない。いや、それどころか妙に優しい気がする。何故だ?


「私の顔に何かついているのか? それとも腹が減ったか? 軽食なら作ってきてるが」

「…………変だ」

「何?」


 やっぱり変だよフェノンさん! 何か妙に優しいもん! それに今まで食事を作ってきたことなんて無いのにいったいどうした?


「いやさ、なんかフェノンの様子がいつもと違うな~って」

「ぅ……」


 どうやらフェノンも自覚はあったらしい。俺の言葉に顔を逸らした。そして少し躊躇いがちに、口を開く。


「お前こそ」

「え?」

「お前こそ何も言わないのか? 私の昨日の格好見ただろう? 普段あれだけ私が弄っているのだ。ならばお前もここぞとばかりに言うものでは無いのか?」


 昨日のあれってつまり魔法魔女やミニスカ妖精花嫁の事か。うん、あれは色々目の保養だったなあ。あとツインテールも何気に好みでした、はい。

 だがこれで理由は分かった。確かにフェノンはいつも俺を弄っていた。だから俺が仕返ししてくるものだと思ったのだろう。ならばここで俺が言うべき言葉は、


「弄ってほしいの?」

「違う!」


 ですよねー。俺は思わず笑ってしまうがフェノンは困惑顔だ。なんだかこれも新鮮だな。


「まあその辺は俺のキャラじゃないし。弄りたくなったら弄るかもしれないけど今のところそういうのは無いなあ。むしろ俺は昨日の事忘れたいくらいだし……」

「それはその……すまん」

「それだよそれ!」

「な、なんだ?」


 気づいてないなやっぱり。


「だからさ。そうやって殊勝なフェノンも良いけどやっぱりいつもみたいに自信満々な方が俺は良いな。いや別に弄れと言ってるわけではないけどなんというか……」


 俺の言葉にフェノンは目を丸くしている。そんなに驚くことなのか?


「やっぱあれだ。いつも通りが一番って事だ。昨日の事はお互い忘れて前を見ようぜ。俺の心の先輩宇宙刑事もそう言ってるし。振り向かない事が若さって」

「そういう……ものなのか?」


 困惑気味にフェノンが首を傾げている。


「そうそう! だからいつも通りで行こうぜ! それでもフェノンの気が済まないならあれだ。時たまあの姿……は無理でもツインテール見せてくれよ。あれは正直有りだと思います!」

「何故敬語なのだ」


 呆れた様に呻きつつもフェノンが小さく笑う。


「そうそう。それでも駄目なら…………いや待てよ? 今の殊勝なフェノンなら行けるか? いや、行ける!?」

「カズキ……?」


 首を傾げるフェノン。それに俺は笑顔を向け、


「いつも通りに戻る前にその胸揉ませてくだしゃぁぁがぁつ!?」


 飛びつこうとした瞬間叩き伏せられました。


「お前は……本当に、本当に馬鹿だな」


 呆れた様に言いつつもフェノンが笑う。だが今の俺はそれどころじゃない。

 畜生! もう少しだったのに! 復活する前にやることやればよかったじゃないか俺!

 ドンドンと悔しさに馬車の床を叩いていると、フェノンがため息をつきつつ小さく呟いた。


「まあ、髪くらいならたまには良い」

「へ?」


 思わず起き上るが既にフェノンは顔を逸らし窓の外を眺めていた。


「えーとフェノン。今のは……」

「うるさい。何も言うな」


 フェノンは振り向いてくれなかったが、その口元は小さく笑っていた。それを見て俺もなんとなく笑ってしまう。まだいつも通りとはいかなくても、最初よりは大分元気になったみたいだ。


「うん、やっぱりそっちの方がいいや」


 俺はうんうん、と頷きつつ起き上る。やっぱりフェノンは今みたいに強気な位が良いよな。俺は満足しつつ席に戻ろうとして、足元に転がっていた新聞に気づいた。これは乗る前に準備されていたもので今日の日付のものだ。いつも移動中にフェノンや俺が暇つぶしや情勢の確認に読んでいるのである。

 なんとなく手に取り紙面を開く。そこにはこう書かれていた。


『真昼に起きた地獄絵図! 謎の変態と彼方に見えた妖精の謎!』

『変態は狂ったように笑いつつ己の姿を見せつけ住民に絶望を与え続けた』

『目撃者は語る!【毛が……! 黒い毛がっ!】と!』

『また、詳細は不明だが変態が来た方向の空に妖精らしきものを見たという証言もある。だが近づこうとしても変態が邪魔をする為、もしやあの変態は妖精の使い魔の可能性もあるとの事!』

『【あれは悪魔よ……。え? ただの人間じゃないかって? 馬鹿言わないで! あんな事をする人間なんて居る訳ないじゃない!】』


「…………」


 ぱたん、と新聞を綴じる。そしてしばし目を瞑りうん、と頷いた。


「飛び降りよう」

「おいカズキ!? 待て! 何をしてる!」

「離せぇぇぇぇぇ! 俺は! 俺はぁぁぁ!?」


 馬車から飛び出そうとする俺をフェノンが必死になって止めてくれました。けど離してくれフェノン。今ここから飛び出して頭ぶつければいい感じに記憶喪失になれる気がするんだ!

 そんな俺たちの攻防は次の町に着くまで続いた。




 因みに。

 この日以降、ときたまフェノンが馬車の中だけ髪形変えてくれるようになりました。

 言ってみるもんだね! 次はポニーテールでお願いします!


ゴーレム三兄弟は当然のごとく返り討ちにされました

長引きすぎたので無理やり決着

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