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俺の黒歴史ノートが異世界で魔導書になっていました:連載版  作者: きり
第三章 明かされる彼女の過去! 魔法少女襲来編
14/30

3-4

 それは、幼き頃の記憶。


「フェノンちゃん、あーそーぼ!」

「ふっ、マリアンヌちゃんか」


 すぐ近くに住んでいるお友達のフェノンちゃんを誘いに行くと、フェノンちゃんはシニカルな笑みを浮かべつつ読んでいた本を横に置いた。


「何よんでいたのフェノンちゃん? ましかしてまた?」

「そうだ。魔縛教典だ」


 フェノンちゃんが読んでいた本を見せてくれた。それを見て私の心が躍る。


「またお父さんに黙って持ち出したの? けどそんな細かいことはどうでもいいから私にも見せて!」

「当然だとも」


 今思えば少々不用心だったと思いますわ。この世界の魔術の基盤ともなる魔縛教典をこのように軽々しく持ち出すのなど。それができた理由は、フェノンのご両親はこの世界における神官であり実家の奥にある神殿に魔縛教典は保管されていたのです。そしてそれをこっそり持ち出しては読みふけるのが当時のわたくしとフェノンちゃんの流行りでした。


「わあ、これかっこいいね! 次はこれにしようよ!」

「ふむ。そうだな……。私もそう思っていたところだ。だがこれは中々大変だぞ?」

「大丈夫だよ! 山は高いほうがブチ壊し甲斐があるっていつも言ってるじゃない!」


 そうして魔縛教典の内容を読んではそれを再現、つまりは『ごっこ遊び』をしてたいたのは10にも満たない頃でした。ですが歳をとるにつれて次第に『ごっこ遊び』で物足りなくなってきたわたくしたちはより完璧な再現を目指し、それに比例するように魔術等を学んでいきましたの。そして更には魔縛教典を基に、自分達独自の発想を持った新たな力の研究すら進めましたわ。残念ながら完全なオリジナルは不可能でしたが、既存の術や知識の組み合わせで新たな可能性を見つけ出しましたの。


 その結果!




「うふふ、懐かしいですわね。フェノンと共に研究し生み出した魔法魔女シリーズ。この姿になると心が躍りますわ!」

「へ、へえ……」

「見ないで……こっちを見ないで……」


 どうしよう。思い出ににふけるマリアンヌさんと純潔を奪われた乙女の様に顔を手で覆って蹲っているフェノンに挟まれ非常に対処に困る。


「さあフェノン! 貴女もピュアブラックリリーに変身して下さいませ! そしてまたいつの日かの様にお互いを高めあいましょう!」

「いや、フェノンもう聞いてないっぽいぞ?」


 フェノンがこんな状況なので代わりに答えてあげるとマリアンヌさんはショックを受けたようにふら付いた。そのたびにフリルが揺れて何とも言えない気分になる。


「そんな……!? フェノン、一体どうしたのですか!? ほんの二年前、最後に会うまでは一緒に魔法魔女としてあらゆる悪と時たま正義っぽい何かを殲滅していたではありませんか!」

「に、二年前……?」


 フェノンの年齢はおそらくだが俺と同じくらいだと思う。つまり十代後半か二十代前半といった所だろう。その二年前って事は最低でも日本でいう高校生くらいの年頃までフェノンは魔法魔女だった訳で。


「見ないで……見ないで……」


 いかん、震えて蹲るフェノンがちょっとかわいく見えてしまった。いつも弄られてる側だからこういうのは新鮮だ。だがマリアンヌさんはそれが気に食わなかったらしい。悲しそうに顔を歪める。


「お願いですからこっちを見てくださいフェノン! わたくし、貴女に会うために頑張ったのですよ? つい昨日も道端にたむろっていた魔族軍法魔四天王ノームルン配下の魔ヌンチャク七塵将直下の湿地愚連隊ゴレーム三兄弟とか言う妙な連中を倒してきましたのに!」

「そいつは大変ありがたい!」


 どうやら俺の知らぬ所で魔族軍を潰してきてくれたらしい。というか魔ヌンチャクって当時の俺はいったい何を考えていたのだろうか。そしてその部隊名を聞いてももう殆ど狼狽えなくなってきた。これが慣れるという事か……。

 しかしなー。ちょっとマリアンヌさんが気の毒に思えてきた。フェノンがこうなったのは俺がこちらの世界に来た際に俺と同調とやらをして感性が俺に近づいたからと以前言っていた。逆に言うならそうなるまではフェノンも頭かおかしい人たち側だったという事を考えると色々頭痛がしてくるが今はいい。まあつまりは俺がこの世界に来たことが原因と言えば原因だろう。だからと言って自分が悪いとはさすがに思わんが。こっちだっていきなり連れてこられたんだし。けど仲の良かったらしい二人がこういう風に行き違うのはちょっと不憫だな。


「…………どうしても見てくれないのですね。わかりました」


 未だに動こうとしないフェノンを見てマリアンヌさんは諦めたかのように肩を落とした。まあフェノンがこんな状態だし仕方ないだろう―――


「ならば、いつもの様に力づくで行きますわ!」

「へ?」

「≪ホワイト・リリック≫」


 じゃきん、と音を立ててファンシーな杖がフェノンに向けられた。そしてその先端のお星さまに光が集まっていく。


「この一撃で目を覚まして、あの頃のフェノンを思い出して下さいませ! ≪メモリーオブホワイト≫!」

「その技名は絶対思い出させる気がねえだろおおおおおおおおお!?」


 マリアンヌさんの杖から放たれた眩い破壊の光から逃げるように、俺はフェノンを抱きかかえて裏口へとダッシュした!






「こ、ここまでくれば大丈夫か?」


 宿からだいぶ離れた路地裏で俺はぜえはあ、と息を切らしながら周囲を見渡す。遠くからなにやら爆音やら人の騒ぎ声が聞こえる。おそらくあのマリアンヌさんとうちの兵士達が戦っているのだろう。兵士たちが勝てるとは微塵も思っていないが時間稼ぎは出来たようである。


「なあ、カズキ…………」

「フェノン! 正気に戻ったか!?」

「若さって、なんだろうな……?」

「いい加減戻ってこいフェノン!? お前がそうだと収拾がつかないんだよおおおおおお!?」


 いやもうマジで無理です。フェノンの肩をつかんで思いっきり揺すると次第にフェノンの眼の焦点があってきた。よし、戻った。


「くっ……すまないカズキ。私は弱い……」

「なんだか調子狂うな」


 マリアンヌさんから離れた事で多少回復したらしいフェノンがふら付いた足取りで頭を押さえている。いつも弄られてるしここで仕返ししてやろうかとも思っていたがここまで来るとちょっと可哀想に思えてしまう。フェノンプライド高そうだもんなあ。


「しかしどうすんだフェノン。マリアンヌさんあの調子だと諦める気なさそうだぞ?」


 今も遠くで轟音が鳴り響き、天に光が放たれ悲鳴が聞こえてくる。迷惑すぎるだろあれ。


「大体なんで魔法魔女だったんだ? 他にもいろいろ選択肢はあっただろ?」

「…………その残った選択肢が魔族軍のコスプレ軍団なのだぞ?」

「そうだったあああ!?」


 言われて気づく、選択肢の少なさ。しかしならばなぜ密林ビキニ部隊桃色大三元を真似てくれなかった! お前がそれやってくれれば最高だったのに!


『おーほほほほほほほほ! フェノン! どこにおりますのフェノン!? さあ、わたくしと共にイキましょう! おーほほほほほほほっほほほっほ!』


 いかん、遠くからマリアンヌさんの声が聞こえる。というか完全にイッているようにしか思えない。やはりこの世界の連中は頭がおかしいに違いない。

 フェノンを見ればその声に怯えたように震えていた。そしてどこか縋る様に俺の腕をつかんできた。


「か、カズキ、逃げよう」

「いやいやそこまで怯えんでも。それに変身するのが嫌なら真っ向から別の方法で倒せばいいんじゃない?」

「いや、駄目だ。元々あの魔法魔女シリーズはお前の作った魔甲少将クリティカルあげはをベースに生み出した私の過去の汚物。だがベースがベースなだけに下手な魔術より強いのだ……」

「つーかやっぱり俺のが元なのか!?」


 やだ泣きたい。マリアンヌさんことピュアホワイトチューリップさんに引いてた分、それが自分のが元ネタだと知ってしまった今になってダメージが響いてきた。


「なあカズキ。お前が元の世界に戻る方法は必ず見つけてやる……。だから今は、今だけは逃げないか? 私達二人で逃げても問題ない。兵士たちはもともと居てもいなくてもあまり変わらないし置いて行っても問題ない」

「それは確かに」


 しかしあれだ。美女から一緒に逃げてくれと懇願されるシチュエーションに俺の心は大きく傾いている。魔縛教典もとい俺の黒歴史ノートを取り戻す旅もまだまだ長い。その間に残る法魔四天王とかその部下達が襲い掛かってくるんだろ? 正直それは勘弁願いたい。いやマジで。


「なあ……カズキ……」


 魔法魔女一つでここまでフェノンが弱気になるとは余程のトラウマなのだろう。それはよくわかる。この世界で誰よりも俺が理解できるだろう。そしてプライドの高そうなフェノンだからそのダメージは計り知れない。


『うふふふふふ! フェノン! さあフェノン! お友達の私があなたを目覚めさせてあげますわあああああ!』

「うわあ」


 もう完全に駄目な人だあれ。正直もう出会いたくないレベルにイっている。

 けど友達か。あくまでマリアンヌさんからすれば友達の事を思っているんだよな。それにフェノン自身も、きっとマリアンヌさんのこと自体は嫌ってないと思うんだよ。だってフェノンの事だから本当に嫌いな相手にはガン無視か問答無用でヤキ入れるタイプだし。それをしないって事は友人としては認めていると思うんだよ。だからこそこのまま逃げてもいいものか。

 震える目でこちらを見上げるフェノン。その視線を受けつつ色々と考える。この世界に来てからの事とか向こうの世界の事とかフェノンの事とか色々と。元の世界には帰りたいと思う。それは間違いない。そしてその方法として一番可能性が高いのが俺の黒歴史ノート。だからこそそれの奪還の旅なのだ。そして必要な情報だけ得たらそれを抹消するのが俺の目標。

 そしてそんな旅にフェノンはついてきてくれている。フェノンにも目的はあるらしいがそれでも一緒にいてくれる人がいることはとてもありがたい。なんだかんだで気を使ってくれてるのは分かるし、フェノンの話すのは楽しいのも事実だ。それに、


「昨日のハンバーグ、美味かったなあ」

「カズキ……?」


 うん、決めた。ここらでちょっとくらい恩を返すのもいいのかもしれない。べ、別にフェノンの為だけじゃない。借りっぱなしじゃ後が怖いってのもあるだけだ。


「なあ、フェノン。よく考えろ。俺はこの世界に来てからいったいどうなってた? アホみたいにチャラチャラした黒ベースの雰囲気格好いい服来て頭痛ものの魔術を使ったり、バカみたいな名前の銃を使って怪我したり、ドン引きレベルの炎を纏って戦ったり……たた、かった、り……えっぐ……ぇぇ」


 自分で話してて泣けてきた。ほんと何やってんだろう俺? こんなの友人に知れたら死ねる。


「と、とにかくだな、自分でも布団の奥でガタガタ震えて命乞いするレベルの恥ずかしい事をしてきたんだ。それに比べれば魔法魔女なんて遥かにマシだろ? ほら、俺もフェノンの魔女姿見てみたいし!」

「しかし私は知っている……。お前の世界には目くそ鼻くそを笑うという言葉があるということを」

「詳しいなオイ!?」


 おのれ過去の偉人め! 余計な言葉を残しやがる。だがまあいい。少々荒療治になるが俺には他の方法が思い浮かばない。


「わかったフェノン。お前のその怯えや恐怖。羞恥心を吹き飛ばしてやる。だがそれには時間がいる。だから少しでいい、少し待っててくれ」

「カズキ?」

「逃げるのも良いけどさ、やっぱ友達は大事にしようぜ? 俺だってオタクで彼女なし歴=年齢で我ながらしょうもない人間だって自覚はあったけどやっぱり友達は大事だったしな」

「あ……」


 戸惑うようなフェノンから一歩離れて俺は笑う。


「少しだけ勇気を出してみようぜ? その為の手助けはするからさ。だから少しだけ待っててくれ。俺を信じろ」


 未だ戸惑うフェノンに頷くと、俺は一人町へと駆け出した。






 一体、何をするというのか。

 私はそれがわからぬまま、途方に暮れていた。


「俺を信じろ、だと……」


 わからない。全くわからない。そもそも普段は弄られてるのでこういう時に仕返しするものだと思っていたがそんな気配も見せず私を励まそうとしてくれている。本当に、妙なやつだ。


「やるしか、無いのか」


 あれから少し経ったがカズキが戻ってくる気配はない。代わりにマリアンヌの声と戦闘の音はだんだんと近づいてくる。もはや猶予はない。私は覚悟を決めると自ら足を踏み出し、大通りへと姿を現した。


「おーほほほほほほほほぅぁ!? フェノン! 見つけましたわ!」

「くっ、マリアンヌ……!」


 友人は先ほどと変わらぬ姿でそこにいた。そう、すなわちフリル全開の白き魔法魔女、ピュアホワイトチューリップの姿で。胸元の黄色のチューリップの輝きが何とも痛々しい。あれを来ているのが十にも満たない子供ならまだ良かっただろう。だがそれを来ているのは今年で確か二十歳になる大人だ。そんな大人がフリッフリのフリルとチューリップを身に着け、頭にも大きな花弁の形のリボンを付けているその光景。それが過去の自分と重なって眩暈がしてきた。


「さあフェノン! 今度こそわたくしの力を見てもらいますわ!」


 びしぃっ! とマリアンヌが両手を突出し、その指をあわせてハート形を作り出す。やめろ! お前はもう二十歳なんだぞ!? その行動はギリギリのラインを大幅に超えている! 


「さあ、フェノンも変身してくさいませ!」

「ぅ…………」


 駄目だ。意識すれば意識するほど自分の姿が重なって体が動かない。このままでは私は、私は……!


「さあ! さあさあさあさあさあ!」


 凄まじいい笑顔で迫ってくるマリアンヌ。すまないカズキ。やはり私は駄目だった―――


「待てぇぃ!」

「っ!?」

「何者ですの!?」


 突如、声が響いた。驚き振り向いた先、近くの建物の屋根の上に男が立っていた。


「あなたは!?」


 マリアンヌの呻き。それに応えるようにその男は手にもった何かを天に掲げ、叫ぶ。


「≪クリティカルパーセンテージ・ゲッドレディ≫!」

「え?」


 ぞわり、と何かが私の体を駆け巡る。私はあの呪文を知っている。知っているけどそれはつまり……!


「とうっ!」


 屋根から男が飛び降りる。その際に私は確かに見た。男が天に掲げていたのは妙な凝った意匠が施された手のひらサイズの金槌だ。そしてその金槌が光り輝き、


 男の服が弾け飛んだ。


「ひっ!?」


 マリアンヌが声にならない悲鳴を上げる。その間にも男の変化は続く。

 どこからともなく現れた光が男の大事な部分を隠していく。ナイス地上波! と思っている間もなくさらに光が溢れそれが鋼へと変化していきそして男の体に装着されていく。間違いない、あれは…………!?


「――――総体重は決意の重み。スリーサイズは乙女の秘密」


 ずどんっ、と重量感を感じさせる鈍い音と共に光に包まれていた男が地面へと着地した。その衝撃で宙に舞った砂埃。それを分かつようにしてゆっくりとその姿を現していく。



 見よ、その姿―――

 鋼鉄のミニスカートから生える脚と純白のソックス。絶対領域と呼ばれる部分に生える無数のすね毛。その一部は純白のソックスすら突き破りどこか野性を感じさせ見るものを圧倒させる。乙女の戦いは常に先手必勝なのである。

 (くろがね)のカフスが鈍く煌めくその腕は服の意匠とは合わぬごつごつとしており、やはり毛が生えている。それは何億年前に失われた野生の名残。乙女にだって野生は眠る。

 胸元の軽鎧に申し訳程度に添えられたピンクのリボンは鋼鉄製。乙女のハートはガードが堅い。

 そして首筋が大きく開いており、そこに見えるのは逞しい喉仏とサイズが合っていないために鎖骨の隆起が服の上からでもわかってしまう、ピンクと鉄が入り混じった鋼鉄の乙女衣装。乙女だって声変わり位するかもしれない。

 右手に握るのは巨大な金槌。ピンクと黒が入り混じったその武器はどこか美しさと威圧感を感じさせる。乙女は武器にだって気を配るのだ。

 そして頭部には重量感あふれる鋼鉄製ながらも可愛らしさを残したファンシーな帽子。戦場の鋼鉄乙女だってお洒落したいお年頃。

 そしてその中で鈍く光る階級章。そのランクは―――少将。

 そう、彼女……いや彼は……!


「魔甲少将クリティカルあげは……参上っ」

「へ、変態っ!?」


 違うマリアンヌ。それは私の相棒だ!

私、墓守あげは9歳!

 偶然公園で拾ったウーパールーパーを素揚げにしようとしたら、実はその子は魔法世界からやってきた妖精さんだったの! そんなウーパールーパー型妖精のベンゾウ君との出会いが、私を魔甲戦士達の政争に巻き込んでいく! 

 墓守あげは9歳! 今日も一撃滅殺頑張ります!


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