3-2
めずらしくほのぼの
主人公ボーナスステージ(棒
『第二問! ≪俺には翼は無い。だから空へと飛んでいくお前を追いかけることはできない。だけど俺は――――≫この後に続く言葉は!?』
「≪どこに行ってもお前を見つけ出す≫ですっ!」
『正解! 第三問! ≪僕らは弱者だ。大人にも政治家にも勝つことは出来ないそれでも僕らは―――≫さあこの後に続くのは!?』
「≪僕らは決して諦めない。なぜなら僕らには大人にはない若さがあるから≫ですわ! 若さこそ正義!」
『正解ィィィィィ! さあ盛り上がって参りました『第37回ミルキ大会~真の魔縛教典マスターは誰だ!?~』。皆さんとても博識ですね!』
「はは……殺せ……誰か俺を今すぐ殺せ……」
司会の煽りに応じるように『うおおおおおお!』と歓声が響く。この会場に誰もがこの大会を楽しんでおり、盛り上がっている証拠なんだろうな、俺以外は。え、俺? 過去に作った意味のあるようで全く意味のない自作ポエムを目の当たりにして目の前の机に頭を叩き付けながら泣いてます。
『おや? 一名だけ未だ未回答の方が居ますね?』
「カズ……マグロ様―! ファイトですよー!」
黙っててくれないかな君達? 今俺は輪廻転生について考えているんだ。異世界転生があるくらいだからきっとそれくらいあるよね? 俺は生まれ変わったら鳥になるんだ。自由な鳥に。
「まずいですよマグロ様! このままマグロ様が一回戦敗退等したら商品を楽しみにしているフェノン様にマグロ様も私も何をされるか……! というかガチで私も巻き込まれるので何とかしてくださいマグロ様! テ・ナンダア様!」
「真顔でその名を呼ぶなあああああああ!?」
俺の脳裏で死にかけのカジキマグロが虚ろな目でこちらを見ている。そのマグロがピクピク震えながらこう言うのだ。『こっちにおいで』と。待ってて、多分もうすぐ行くからさ。
『どうやら相当悩んでいるようですね! 目も濁った魚の目の様ですがそんな貴方にもビッグチャンス! 次の問題は一発逆転チャンスです! こちらのボードをご覧ください!』
「…………ん」
相変わらずハイテンションな司会はもう無視だ。俺は顔を気だるげに持ち上げそのボードとやらを見て、今日何度目かわからない悲鳴を上げた。
≪聞こえていますか? 僕の声が 届いていますか? 昼前に送ったメッセージ
既読になっているのに答えてくれない そんな貴女の気まぐれが 僕の心を震わせる
僕のraison d'être キミへのI need you oh 僕は今日も眠れない 眠らない
だから だから キミに会いに行く―――――――≫
『これは第七章の中でも最も長い、歌の様なものです! しかしこの歌のタイトル部分は未だ解読できていません! なので今日、ここではこの歌にもっととも相応しい題名をつけてみようではありませんか!? 判定は観客の皆様です! その反応次第で点数が決まります!』
「マグロ様! チャンスですよ! マグロ様なら一発逆転間違いなしです!」
「ヴぁあああああぁぁぎゃおうこぺぐぬいにゃああああああああああああ!?」
「ま、マグロ様!? 何ですか!? 何かの呪文ですか!? 初めて聞く呪文なのでメモを取りたいのでもう一度お願いします!」
やめて! もうやめて! キラキラした目で拳を握ってこちらを見ないで! そしてあのボードをこの世から消し去ってぇ!? っていうか自作ポエム晒しの後に加藤と合作した歌の歌詞を大公開とかどんなコンボだよ!? 完全に殺しにかかってきてるよね? 殺る気に満ち溢れているよね!? あとラテン語と英語混ぜてんじゃねえぞ加藤! そして歌詞の内容が完全にストーカーだぞ俺ぇぇぇぇぇ!?
「なんて難解な歌詞なんだ……いったいどんな想いでこれを書いたのかが鍵だな……」
「どこか魔術的な響きもあるわ……何かの儀式召喚術の可能性もあるかも。一部は違う言語も混ざっているんじゃないかしら? そこがきっと召喚する者の名よ!」
「流石、というべきか。やはり魔縛教典の作者は私たちの及ばない高みに居るんだな……」
「お願い……お願いだからもう何も言わないで……」
回答者達が真剣に考察すれば考察するほど俺の目から涙が止まらない。遠くではククスさんが『マグロ様! ここで一発逆転で敵をブチ殺せますよ!』とかなんかかわいい笑顔でバイオレンスに叫んでる。畜生、頭がおかしい人しか居ないのか。
『さあ皆さん、回答をどうぞ!』
「そ、そうだな……。≪天地満天星≫なんてどうだ!」
一番最初に答えたのは一問目を正解したおっさんだった。だが観客の反応は良くない。俺の心の星も曇り通り越して大嵐である。涙で前が見えない。
「な、ならば私は≪攻凶楽編術鬼魅召喚≫なんてどうかしら!?」
歌詞の中のキミって鬼魅じゃねえよ! どこぞの魔獣かよ! 俺は頭をかきむしる。観客の反応はまあまあだ。
「ふ、なら俺はシンプルに行くぜ! ≪創生≫、これでどうだ!?」
始まってねえよ! むしろ俺の人生が色々終わってんだよぉぉ!? もう意味わかんねえよ!? 俺は頭をただひたすらと机に叩き付けた。観客の反応? もうどうでもいいよ……
『ふーむ、それなりに反応はありますが今一つ足りませんね……。では最後にマグロ・テ・ナンダアさん! 是非回答をどうぞ!』
ぐいっ、とメガホンを持った司会が身を乗り出してきた。顔を上げた俺は崩れかけた思考の中、こう思う。もうどうでもいいや。
「…………スニーキング加藤」
『お…………?』
『おおおおおおおおお!?』
え?
「スニーキング……意味は分からないがどこか深い言葉に思える……」
「ええ、そしてカトウとは一体……? 意味は分からないけど何か神々しい響きを感じるわ」
「くそっ、なんだこの意味は分からないけど胸にすっと入り込んでくる題名は……!」
なんか会場が盛り上がった。投げやりで言ったあれで良いの? お前ら本当に頭大丈夫?
『これはものすごい盛り上がりです! 意味は分かりませんが何か意味のあるような言葉が観客に響いた様です! これは文句なしに満点でしょう! 他の回答者の方たちはどう思われますか!?』
「ふっ、完敗だよ、マグロさん」
「ええ、あなたの活躍を期待してるわマグロ」
「やるじゃねえかマグロ! 完敗だぜ、勝ち抜きはお前で決まりだ!」
「…………」
湧き上がる会場。そして惜しみない賞賛。俺はそれを浴びながら空を見上げた。
すまない加藤。日本より遥か遠いこの地で、お前という存在はストーカーになった。俺も悲しい。だからお前もきっと許してくれるよな? というかもうこの世界の人達頭がおかしすぎてもう俺の理解の範囲超えてるんだ。
「やりましたねマグロ様! ところで結局カトウとは一体……!? それにスニーキングとはどういう意味なんですか!?」
「……知らないほうがいい」
俺の脳内マグロ……いや、マグロ先輩がどんどん解体されていく。スーパーの鮮魚売り場で子供たちに見守られながら気前よく解体されていく。そう、まるで俺の心の様に。
『お前もこうなるんだぜ?』脳内マグロ先輩が俺にそう語りかけてくる。わかっています先輩。多分俺もそろそろそちらへ行きます。
『これは素晴らしい回答が出ましたね! ではここは皆さんで歌ってみましょうか! 音楽はこちらで適当にアレンジしますので!』
「もういやだあああああああああああああああああああああああああああああ!?」
脳内マグロ先輩のかぶとに板前の包丁が叩き付けられた。
「む、カズキか。帰ったようだな」
宿の扉を開けると一階の食堂で優雅にティータイムしているフェノンの姿があった。
「用事が……あったんじゃなかったのか……?」
「ああ。それが早く終わったのでお前を待っていたところだ」
あっけらかんと言うが正直疑わしい。コイツ絶対理由付けて俺をあの大会に送り込んで酒を飲みたかっただけだろ!
「それより大会はどうだったんだ?」
「…………」
俺は無言で優勝賞品の酒が入った瓶をフェノンが座るテーブルに置いた。それを見てフェノンが『おお』と感嘆の声を漏らす。
「やるではないか。優勝したのだな」
「ぇぇ、まあ」
そう、俺は優勝した。あの後もひたすら続く自作ポエムや名言。果ては作詞俺&加藤のラブソングなんだか呪いの言葉なのかわからない歌詞の応酬に耐え、そして正解し続けたのだ。心は何度も折れかけたけど負けたら負けたでフェノンに何を言われるかわからないと思い直しひたすらにだ。だけどもう疲れたよ……。
「俺は……寝る。もう、寝る……。寝て寝まくってそして酒を飲みまくって今日の事は忘れるんだ……はは、ははははは」
「ふむ、だいぶ疲れている様だな。ところで君へのI need youって文章として大分おかしいと思うぞ」
「なんで知っているんですかねえ!?」
用事は? ねえ用事はどうなってたの!?
「まあいい。それより寝る前に食事をしておけ。もう昼を回っている。
「食事……」
確かに腹は減っている。それにやはり食べた後の方がぐっすり寝れるだろう。俺は力なく頷くと席に着き、そして気づいた。
「あれ? 食堂の主人は?」
「居ないな。今日は閉店だそうだ」
「はあ!? じゃあ俺は何を食えば良いんだよ!?」
というか知ってるなら先に言えよ! それは流石にちょっと酷く無いか!?
「何を、か。少し待て」
「へ?」
フェノンが立ち上がると食堂へと姿を消した。そして数分後、何かを皿に乗せてやってきた。
「これを食べろ」
「…………え?」
その皿に乗っている物をみて俺は目を丸くした。
「ハン……バーガー……?」
そう、それはどう見てもハンバーガーだ。いつも食べてるようなサンドイッチの様な物ではなく、パン部分も、肉の部分も。どうみても現代日本で食べなれたジャンクフードのそれだったのだ。
「へ? なんで? これ?」
あまりの事に唖然としつつフェノンを見るが、フェノンは席に戻ると涼しい顔でティーカップに口をつけている。
「用事が早く済んだと言っただろう? 暇だったのでお前の記憶を頼りに作ってみただけだ」
「え? けどこれって材料とかそもそもパンの形とかこの世界来てから見たこと無かったのに……」
「たまたま材料があったんだ」
フェノンはこれ以上は話すつもりは無いのか、本を取り出し読み始めた。短い付き合いだが知っている。フェノンがこうするときは『話しかけるな』という意味だ。
「…………サンキュ」
だから俺は小さく礼を言うとそのハンバーガーを手に取った。ああ、どう見ても向こうの世界で食べてたのと同じだ。記憶を頼りにって言ってもここまで再現できるものなのか。
その姿に俺は感動しつつ、思い切って齧り付いた。
「…………美味い」
「………………そうか」
俺の感想に、フェノンは小さく答え、そして満足したかのように頷いていた。俺はそんなフェノンにもう一度笑うと、故郷でよく知った味を心のそこから味わっていた。
何故かカレー味だったけどこれはこれでOKなのだ。
「さて、と」
感動しながら『はんばーがー』を食べるカズキ様と、無関心を装いつつ少し機嫌がよさそうなフェノン様。私はそんなお二人の姿を見て思わず苦笑してしまった。
「フェノン様はほんと素直じゃないですねえ」
ふう、とため息をつくと私は背後、カズキ様からは死角に入る食堂の調理場に目を向けた。
「く、ククス先輩……」
「もう、駄目。吐く……」
「舌が……舌がおかしいんですぅ」
そこにいるのはフェノン様の部下達であり私の後輩だ。フェノン様の部下には段階があり、私の様な正規の部下兼弟子の下には、フェノン様に挑みかかって返り討ちにあい下僕と化した者たちもいる。今私の前に居るのがその連中だ。
「貴方たち、よく頑張りましたね。カズキ様も満足されています」
「ぅ、み、水を……」
おや、ずいぶんと満身創痍ですね? まあ仕方ありませんが。何せカズキ様が食堂を飛び出してからすぐさまフェノン様の命令で材料集めに走りまわされたのですから。そして材料が集まるが否や、フェノン様は調理場を借り切ってひたすら料理を始めたらしい。
作っては『これは違う』と部下に食べさせ反応を確認し、また作る。それをカズキ様が戻る寸前まで繰り返していた結果、私の後輩たちは食べすぎでダウンしその体重も素敵に増えたらしい。
まあ、つまりだ。料理をする為に、そしてその姿を見られたくないのでカズキ様をあの大会に送り込んだのでしょう。
「誇りなさい貴方たち。貴方たちの尊い犠牲によりカズキ様はとても感動しています。これからも精進しなさい」
私のありがたいお言葉を彼女らには聞こえていないのか口々に呻いていた。
「く、薬を……」
「もう、歩けない……
「体重が……彼に怒られる……」
「待ちなさい!? いま彼とか言った裏切り者は誰ですか!?」
因みに私は募集中です。
ね? ほのぼの