3-1
章タイトルつけてみました
見ればわかると思いますが完全に悪ノリです、ええ
○の部分は今はあえて伏字。何が入るかはそのうちに
「うーん」
「どうしたカズキ?」
それはある日の朝の事だ。旅を続けている俺とフェノン。そしてそれに追随する兵士たちは新たな街へと立ち寄っていた。ついたのは昨日の夜だったのとフェノンの強い希望により、俺たち二人は湯浴みができるそこそこいい宿屋にて一夜を明かし、夜が明けた朝、出された朝食を食べていたのだが、
「いや、なんというかこの世界の料理って美味いよな」
「そうなのか?」
うん、実際美味しいほうだと思う。海外旅行などしたことないが現代日本ではそれなりに色々な料理を食べてきたと思う。この世界の料理はそれと比べても十分に美味しいレベルだ。
ちなみに今食べているのは日本でもよく見た人参やキャベツのような野菜と肉が具材のスープとパンの様なものだ。様なものと言ってもどう見てもパンだが原材料を知らないので何とも言えんが。
「最初は結構心配だったんだよな。全然知らない世界だろ? それに皆ナチュラルに頭が危篤状態だし食い物も変なものが出てくるんじゃないかと思ってたんだ」
「まあお前の言いたいこともわかるがな。しかしそういう割には不満げな顔だな?」
「そうかあ?」
まあ少しだけね? なんというか料理は美味しいんだけど故郷の料理というかお袋の味というか。そんなものを恋しくなってしまっただけだ。この世界に来てまだ少しだが、それなりに濃い時間を過ごしているせいか体感時間はもっと長い。そんな合間合間でやはり故郷の事を考えてしまう。加えて先日の幻魔三魔人が見せた学校の光景のせいで余計に懐かしくなったというかなんというか。いわゆるホームシックってやつなのか、これは?
あー母さんが作ったカレーとか親父が張り切って作ってたハンバーグとか恋しいなあ。牛丼とかラーメンも良いなあ。
「まあ今はどうにもならないし飯は美味いからいいよ」
「…………そうか」
ないものねだりをしても仕方がない。妙に冷静なのはいつだったかぶち込まれた冷静になる魔術のおかげかもしれないが今は感謝するとしよう。
フェノンはちらりとこちらを一瞥すると興味を無くしたかのように茶が注がれたカップに口をつけていた。
「そういえば、この町ではなかなか面白い大会が開かれるそうだ」
「ん?」
なんだいきなり?
「なんでも賞品はこの町特産の酒らしくてな? 味はかなりのものだが価格もそれ相応らしくしかも数が少ないために滅多に手に入らないそうだ」
「へえ? それはちょっと気になるな」
未成年? この世界、というか国に飲酒に関しての法律はないので問題ない。俺だって時たま飲んでいる。主に何もかも忘れてしまいたいときに。
「そうか、ならばよろしく頼む」
「へ?」
「私もこの町の酒には興味があってな。ぜひ飲みたいと思っていたのだ」
「いやだからそれで何をよろしくって……」
「行って来い」
いや意味わからんて。なんでそんな当たり前のように言ってるの?
「いやいや、フェノン。それじゃまるで俺がパシりみたいじゃねえか」
「つまり、嫌だと?」
「そりゃその酒には興味あるけど大会となるとなあ」
「安心しろ、カズキなら入賞間違いなしだ」
「……なんかお前がそうやって褒めてくると嫌な予感しかしないんだけど。というかそんなに飲みたいならフェノンが出ればいいんじゃね?」
「私はこれから用事がある」
「えー」
用事て。しかしなんだろう、ものすごい嫌な予感がする。やっぱり酒は諦めるほうが……。
「そうか……。ところでカズキ、実は昨日こんなものを手に入れたのだが」
そういってフェノンが取り出したのは小瓶に入った液体だ。少し濁って見えるけどなんだあれ?
「これはそれなりに値の張る石鹸でな。どんな汚れにも効いてしかも人体にも影響がないそうだ。そう、例えば…………『誰か』の額にいまだに薄らと残る『何か』を書いた汚れとかも消えるかもなあ?」
「っ!?」
「だがたまたま手に入れたこいつだが使い道が見つからないようだ。どれ、馬車の汚れにでも使ってみるか?」
「待ってろフェノン! 俺が必ず優勝して酒を手に入れてきてやる!」
俺は一目散に宿を飛び出した! 待ってろフェノン。そして石鹸!
俺は未だ額から消えぬ邪炎王の呪い(油性)を断つために大会への出場を決意した。
あんなに濃く太く書くんじゃなかった。畜生っ!
「しかし良いように使われてる気がする」
大会の会場はすぐにわかった。町のあちこちにポスターが貼られているのだ。それに人の流れも会場へ向かっており迷うことなくたどり着くことができた。そして少し落ち着いた所でようやく現状に気づく。これって完全にパシりじゃね?
「そりゃ賞品も気になるけどな……。なんか扱いがひどい気が」
首をひねりつつ周囲を見渡す。結構な人数が集まっており受付にはまさに老若男女、様々な人たちが並んでいる。あれも全部参加者?
「『第37回 ミルキ大会』って書いてあるんだよな、コレ? ミルキってのはこの町の名前だったけど内容が何も書いてねえ」
そのせいで尚更嫌な予感が拭えない。それでも石鹸の為にも俺は勝たねばならない。とりあえず自分も列に並んで受付を待つことにする。
「カズキ様」
「ん? あれ、えーと……」
「ククスです。フェノン様の部下の」
そういって声をかけてきたのは先日見かけたフェノンの部下だった。相変わらずフェノンに似た黒の法衣を纏い、紺色の髪を両サイドで纏めて流している。いわゆるツインテールだ。何気に実物を見たのはこの世界が初めてだったので密かに感動している。
「フェノン様より伝言です。『お前の姿は広まっていないが名前は結構知れている。騒動になるかもしれないから偽名を使え』だそうです」
「ああなるほど」
大変遺憾な事にも俺の名前は妙に知れ渡っているらしい。理由はあまり考えたくないが、確かにフェノンの言うことも一理ある。しかし偽名、偽名か……。
「いきなり言われてもなあ」
「そうですか? ならば私が考えましょうか?」
「お、それはいいかも」
こんな可憐な少女にあだ名をつけてもらうという状況に少し興奮してきた。ククスさんはうーん、と可愛らしく唇に指を当てつつ考える素振りを見せている。うん、かわいい。
「じゃあ第二の創生なんてどうですか? ほかにも憤怒を縛る覇王とか限界無き錬金術師なんてどうでしょう?」
「何いい笑顔で恐ろしい事言ってますかねえ!?」
なんだそのRPGのボスキャラネーム集は! というか忘れてた。フェノン以外は総じてこの世界の連中の頭がおかしいことを! いや、フェノンも大概な気もするけど!
「却下だ却下! んな名前名乗れるか!」
「そうですか? とてもカッコいいと思うのですけど」
残念そうに首を傾げてんじゃねえ! いやちょっとかわいいけどそんな仕草に騙されねえぞ!
「はーい次の方。お名前をどうぞ」
「げ!? もう順番!?」
いつの間にか前に並んでいた人たちの登録が終わって俺の番に。どうする、どうすればいい俺!? 偽名、偽名……昔ラノベ作家目指した時に決めたペンネームを使うか!? いや、駄目だ。あれを思い出すと付随して封印した痛々しい記憶が解放される! じゃ、じゃああれか! いつの日か大人なお店に行った時に使う予約用ネームとかは……? いや駄目だ! あれはここぞいうときに使おうと決めた平凡の極みを追求した偽装ネーム! ここで使うわけには……しかしどうすれば……!
「あのー? お名前が無いと登録できないんですけど」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
どうする? どうする俺? ハヤシ・カズキの偽名……。いっそハヤシだけにするか? いや、この世界では日本の名前は目立ちそうだ。ハヤシカズキの偽名。ハヤシカズキ……。ハヤシ……カズキ……カジキ……カジキ……マグロ?
「マグロってなんだああああああああああああああああ!?」
「はい登録しましたー」
え?
『さあお集まりの皆様! 第37回ミルキ大会の始まりです! 長ったらしい話は抜きにしてさっそく選手紹介と行きましょう! 因みに対戦組み合わせはクジにて設定いたしました! それでは第一回戦の面子はこの方達です!』
司会役らしいおっちゃんがメガホン片手に妙にハイテンションで盛り上がる中、町の中心に作られた特設ステージの上に俺は立っていた。というかこの世界にもあるんだなメガホン。
『エントリーナンバー32番! どこか異国を感じさせる佇まい! 町から町への根なし草! お前はいったい何者だ!? それはこの眼で確かめろ! マグロ・テ・ナンダアさんです!』
うおおおおお、という歓声の中俺は観客たちの注目を一斉に浴びつつ一歩進み出た。そんな観客席の最前列にはククスさんの姿があった。
「カズキ様―! 頑張ってくださいね! ところでそのお名前は結局なんなんですか?」
「何も…………言うな…………っ」
厨二的ボスネームと魚介系疑問形ネーム。マシだったのはどっちだろう?
俺は解けない疑問の迷宮に入り込みつつ、決して涙は流すまいとお空を見上げていた。太陽がまぶしいや。
『それではルールを説明しましょう! 一回戦は早押し勝ち抜き戦です! これから出す問題の答えがわかりましたら誰よりも早く手元のベルを鳴らしてください!』
「つーかこれクイズ大会だったのかよ」
俺は『マグロ・テ・ナンダア』と書かれたプレートが置かれた席でようやくこの大会の趣旨を理解した。しかしだとするとかなり不利じゃないか? クイズって言ったら常識とか歴史や地理が出されるのが当然だけど俺この世界に全然詳しくないぞ?
『では第一問! 《死に行く覚悟があるのなら、生き抜く者を守りなさい。生き抜く覚悟があるのなら――――》この後に続く言葉はなんでしょう!?』
「ぶほっ!?」
その言葉に俺は思わず咽た。ちょっと待て、今のは!?
そんな俺の混乱を余所に俺の隣に並んだ対戦相手達が一斉にベルを鳴らした。
「それは一般公開された魔縛教典資料の第三号にあった、第7章の文です! 答えは≪死にゆく者を守りなさい!≫です!」
『正解っ!』
「ちょっとまてええええええええええええええええええええええええ!?」
うおおおお! とガッツポーズをしている正解者に思わず駆け寄った。
「ちょ、ちょっと待てコラ!? 何だ!? この問題は何だっ!?」
「な、なんだいいきなり!? こんなの基礎中の基礎問題じゃないか」
「基礎!? 基礎って何!? そもそも今の問題はどういうことなんだよオイ!?」
「君こそ何を言っている? この大会はそういうものだろう?」
そういって正解者が指を指す。その方向を見ると俺たちの後ろには大きな看板が設置されておりそこには『第37回ミルキ大会~真の魔縛教典マスターは誰だ!?~』と書かれている。
「これは魔縛教典の内容を誰もがもっと理解しようという崇高な心から開催された大会だろう? 出題内容はすべて魔縛教典関係だ。原本は奪われてしまったが一部は写しなどもあり一般公開もされているからね! 第三号というのは三番目に公開された資料の事だろう?」
「あ……ああ……あああああああああああ!?」
正解者の語る内容を理解すればするほど俺の頭が真っ白になっていく。
「まあ一般公開されている部分は魔術とはあまり関係のない部分でね。一説には魔縛教典作者の日記や生き方を綴っているんじゃないかと言われているんだ。さっきの言葉もその一つさ。僕はあの言葉が好きでね……。頑張ろうという気になってきてそれで――――」
今、ようやく理解した。なぜフェノンが俺をこの大会に送り込んだか。なんであんな自信満々だったか。
「なあ、君はどう思う? さっきの言葉はやはり激しい戦いを生き抜いてきた作者が己の生き方を後世に記した一文だと思わないか?」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
俺は頭を抱えて机に突っ伏した。
なんて、なんてとんでもないところに送り込みやがったあの女っ!? 魔術は痛い。キャラも痛い。変な武器も痛い。そうだけど、そうだけどこれはある意味それ以上の何かがある! 何故かって? そんなの決まってる!
魔縛教典こと俺の黒歴史ノート。それは内容や書いた時期によって章に分かれていた。
そして第七章とはずばり、自作ポエムの章である。
自作ポエマー襲来