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長編として書いてみました

出オチ一発ネタ臭いのは承知の上で、やりたいことやってみようかなと

1~3話は短編を分割して少し加筆修正したものです

「閃天交差し我放つ――死を具現する破竜の咆哮」


 低く、どこか儀式的な声が戦場に響く。それは俺の口から発せられる魔を帯びた言葉だ。着ていた黒のコートが靡き、指無しグローブを嵌めた手のひらに光が収束していく。眩しいばかりのそれだが、サングラスをしているので自分は問題ない。

 そして俺のその声を聴いた敵兵たちが血相を変えた。


「で、出た……! アテン大陸同盟イサマティの破限魔術師……っ!」

「何だと!? 魔導原典『魔縛教典』を生んだと言うあの……!?」

「に、逃げろ! 早く逃げるんだ!」


 泡を食って逃げ出す敵兵たち。しかし俺は構うことなく光を纏う腕を向けた。


「もう遅い……。砕けろ――《ネオ・ディスクリプション》!」


 俺の手から放たれた光が敵兵たちを飲みこんでいく。空気を震わせ轟音を撒き散らしながら膨れ上がった光は目前に居た敵の部隊を一気に瓦解させた。


「お、おお! 破限魔術師殿が勝ったぞぉぉ!」

「皆の者! 今が好機だ、進めぇぇぇぇ!」


 敵の瓦解と共に俺の背後に待機していた部隊が進撃を始めた。口々に勇ましい雄たけびを上げながら武器を手に敵へと襲い掛かっていく。俺が放った破壊の魔術から逃れた敵兵達は、部隊を整える事も出来ず怖れをなして逃げていく。だが、


「くだらない」


俺はそんな光景に興味は無い。踵を返すと俺と一緒に来た部隊の兵士が目をキラキラさせて俺に敬礼した。


「ありがとうございます! 流石はカズキ様です!」


 歳は10代半ばか。自分より二つ三つ低いほどだろう。そんな兵士の羨望の眼差しに俺は『ふっ……』と笑った。そしてぽんぽん、と頭を軽く叩くとそのまま去る事にする。頭を叩かれた兵士はまるで子犬の様に目をキラキラとさせたまま何時までも俺の事を見つめていた。




 全てが終わった後、俺は速足にテントに戻った。テントの入り口を閉じると着ていたコートを脱ぎ捨てる。そして誰も居ない事を確認し俺は、


「あああああああああああああああ!? もう嫌だこんな世界!?」


 頭を抱えて地面に突っ伏した。


「何だよ破限魔術師って!? 意味わかんねえよ何を突破したんだよ破壊されたのは俺の羞恥心と理性だよ畜生ぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 頭を抱え、床を転がりながら身悶えながら悶絶する。だって仕方ないじゃない。あんな痛々しい格好で痛々しい呪文を唱えて最後は『ふっ……』だぞ!? 世間一般的な感性を持つ男なら恥ずかしくて死んでしまうわ! あんなのが許されるのは小学生か良くて中学生だろ!? なのに、なのに俺は!


「毎度毎度飽きないなあお前も」


 不意に女の声が聞こえた。その声に嫌な予感をしつつ顔を上げると、いつのまにか黒の法衣を纏った長髪の女が面白そうに笑いながらこちらを見下ろしていた。


「フェノン……なんでお前がここに居る……」

「それは当然、いつものように恥ずかしい格好で恥ずかしい呪文を唱えて威力だけは無駄に素晴らしい魔術で敵を殲滅してきたカズキを見る為だろう。その為に姿を消していた」


 そう言って笑うのはこの国で魔女と呼ばれるフェノン。小柄ながらも艶やかな黒の長髪と出るところが出て引き締まる所は引き締まった見事な体形の持ち主だ。通常ならこんな美人と出会えた事に感謝するところだが俺は知っている。この女がドSだと言う事を。


「というか! お前が居るなら俺が出る必要無かっただろ!? 何で俺にやらせてんだよ!」

「そんなの決まっている。私はあんな恥ずかしい呪文を人前で唱えたくないからだ」

「言うなぁぁぁぁぁ! 指摘される度に死にたくなるからお願いだから言わないで!?」

「何を言う、お前が考えた呪文だろう。なあ魔縛教典作者殿(マテリアルマスター)?」

「いやあああああああ!?」


 頭を抱えガンガン、と床に叩きつける。穴が有ったら埋まりたい。というかもう自分で掘ろうか。


「お前が幼い頃に書き記した妄想ノート。またの名を黒歴史ノート。まさかそれがこの世界では最高峰の魔導書となるとはなあ?」

「俺だって知りてえよ!? 俺の痛々しい妄想書き綴ったあのノートは高校三年の時こっそり処分したんだぞ!? 何でそれがこの世界にあって魔導書扱いなんだよ!?」

「高校三年まで大事に持っていたのか……。まあそれはさておき理由は私も知らん。大方何かの拍子に次元の狭間にでも落っこちてこの世界に流れ着いたんだろうよ」

「何その適当な回答!? というかだからって! 何でそのノートの内容が実現するんだよ!? あれは唯の俺の妄想だぞ!?」


 俺の渾身のツッコミ。それに対しフェノンの答えは簡潔だった。


「そういう世界だからだ」

「理屈もへったくれもねえ!?」


 頭を抱えて突っ伏すこちらをフェノンはニヤニヤと眺めている。畜生……! こいつが男なら間違いなく顔面に蹴り入れるのに!


「まあお前も哀れだと思う。だが件の魔導書を奪い返してこの世界から消し去らない限り永遠にこのままだぞ? 話によれば大本は奪われ幾つかのページは各地に分散してしまったらしいからな」


 ツンツン、と爪先で頭を小突いてくるフェノンに俺のこめかみがピクリ、と跳ねる。


「こ、この女……いつかその胸揉みしだいてやる……!」

「ほう、やってみるがいいさ。……所で聞いていいかな? 救世主にて破限魔術師殿?」

「その名で呼ぶなと言ってんだろうが! もう、キレた。キレたぞ俺は! 今すぐその胸をこの手で――」

「先程の呪文の最後の言葉……ネオ・ディスクリプションだったか」

「……!?」


 その言葉を聞いた途端、俺の背筋が凍った。そんなこちらの様子を楽しむように笑いつつ、フェノンは続ける。


「ずっと疑問だったんだが……『真・説明書ネオ・ディスクリプション』とはどういう意味なんだ?」

「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!」


 ハヤシ・カズキ19歳。異世界で黒歴史抹消の為に奮闘中。

 因みに件の呪文は小学5年の時に響きがカッコ良くて適当に付けただけであり、当時の自分は意味なんて二の次でした、はい。

 




 異世界とやらに飛ばされた。

 

 いきなり何だと思うが事実そうなのだから仕方ない。それが俺の事件の始まりだった。

 何時もと同じ大学の帰り道、品川駅のホームで欠伸をしていた所で背中に衝撃。驚き振り返ると大急ぎで駆けていくサラリーマンと俺にぶつかったキャリーバックの姿が見えたのが最後。すぐそこまで来ていた山手線に見事に吹っ飛ばされたと思ったら突然視界が暗転し、気が付いたら―――――変態に囲まれていた。


「ふっ……召喚に成功したな」

「流石竜王級(ドラグーン)の魔術師だ。精練結晶(フェルシオン)の強化無しでやり遂げるとは」

「この程度の事当然です」


 俺を囲む者達。全員真っ黒のコートを羽織りコートの各所には用途不明のベルトが巻かれ指無しグローブを嵌めて薄暗い室内にも関わらずサングラスをかけてトドメに何やらぎらつくシルバーアクセサリーを身に付けた男達が口々に何やら話していらっしゃる。だがその話の内容よりその姿に目が行く。いや、話の内容もなんか心の奥底を疼かせるものがあるけど今はいい。それ以上に男たちの恰好が、


「なにコレカッコイイ……って違うっ!」


 そ、そういうのはもう卒業したもんね! 羨ましく何て無いもんね!


「おお! 平面結界を超えた破限魔術師殿が叫んだぞ」

「ふっ、突然の事態に混乱してしまうのも無理はない」

「この程度の事で騒ぐとは」


 何こいつらウザい。というか何だよその平面結界とか破限魔術師とか心躍る様で口にしたら色々捨てなきゃいけないような単語は! 


 それが俺のこの世界とのファーストコンタクト。その時は未だ状況が掴めておらず突然の事に混乱しつつもどこか異質な雰囲気に恐怖と不安、そして少しの興奮を感じていた……あの時までは。

 状況がよくわからぬまま変態達に案内されて俺が辿り着いたのは大きめの会議室の様だった。中心には旗が掲げられ、その旗には何やら地図の様なものが描かれている。そしてそれを囲うように六角形に机が配置されており、机には厳つい男から妙齢の女性までが座っているのだが、何故か全員机に肘を乗せ、組み合わせた手を眼の前に置いた状態でのしかめっ面……どこかの育児放棄司令官の様な格好で沈黙している。なにコレ怖い。


「来たか……」


 部屋の奥に座ったサングラスをかけて同じような格好をした男が渋い声を上げた。というかこの会議室、真ん中の旗が邪魔で向こう側がよく見えないのだが色々おかしくないだろうか? だが今はそれどころでは無い。とにかく状況説明を求めたい。その旨を伝えると会議室の面々が意味深に『ふっ』と笑った。いちいち癇に障る連中である。

 席を促され一応座る事にする。すると黒髪のメイドさんが現れて俺に茶を薦めてくれた。その姿を見て感動してしまう。だってメイドだよ? メイド! 秋葉原に居る様なフリフリキャッピーな感じのメイドじゃくてどこか落ち着いた雰囲気の服装と雰囲気の清純メイド! しかもこの人何気に胸がデカい。なんかもうそれだけで全てを許せる気がした。 

そんな俺の視線を静かな笑みで受け止めつつ、メイドさんはティーカップにお茶を注いでくれた。喉が渇いていたのでありがたい。メイドさんに礼を言ってそれを口に付けつつ話を聞いてみることにする。


「我々はアテン大陸同盟諸国の者だ。簡潔に言おう。君の力で魔導書『魔縛教典』を取り返してほしい」

「OKあんたらが説明苦手なのは良くわかった」


 簡潔過ぎて意味がわからん。そんなこちらの様子に同盟諸国とやらの皆さんは『あれ?』と首を傾げ顔を見合わせていた。


「……少々簡潔すぎたのでは?」

「しかし第一印象で舐められたら問題ですぞ」

「状況をコントロールしこちら等が主導権を握らなければ」

「そして大事なのは雰囲気です。押せ押せです」

「左様、情報は小出しにして交渉するに限ります」

「……ですが小出し過ぎて意味不明な気が」

「あんたら内緒話するにしたらこの会議室絶対失敗だろ。全部聞こえてんぞ。あと最後の人正解」


 指摘してやると全員が『ぬぅ……』と額に脂汗を浮かべた。何なのこれもう帰りたい。そんなこちらの苛々が伝わったのか、どこか自信なさ気に先程の男が手を上げた。


「えーと、では説明するとですね。我々がとっても大切にしていた魔導書が魔族軍に奪われてしまいまして。それを取り返す為にお力添えを頂けたらなーと」

「いきなり弱腰になったなオイ」


 というか魔導書だの魔族だの聞く限りやはりここは今までの世界とは違うようだ。だが何故だろうか? 当初こそ混乱していたが今は妙に気分が落ち着いている。いきなり異世界とか普通に考えれば発狂ものじゃね? 我ながらこの落ち着きように違和感を感じた。


「あ、それは貴方に精神安定の魔術をぶち込んだからです。やり過ぎると安定しすぎて素直な良い子になりつつ感情失いますけど先っちょだけならOKなので問題ありません」

「大有りだコラァ!?」


 朗らかに言い放った男に思わずティーカップを投げつけると男は『ひぃっ』と身を竦めた。というか何なのこの人たち。いきなりわけわからんこと言って来るし何かを頼むにしても態度と言う物があるだろうが!


「アンタらが何を言いたいのかはよくわからない! だがこれだけははっきり言うがお断り――」

「本当にいいのかな?」


 不意に首筋に怖気が走った。慌てて振り向くと先程のメイドさんが何やら妖艶な笑みを浮かべている。あれ? さっきの清純そうなメイドさんはどこいった? 


「な、なんだよいきなり……」

「いや、本当にいいのかと思ってな。これを見てみると良い」


 怪しげな笑みを浮かべつつメイドが懐から数枚の紙片を取り出した。それを見た会議室の面々がおぉ、と声を上げる。


「それは魔導書の写しか! しかし何故女中如きがそんなものを!」

「失礼な輩だな。まだ気づかないか?」


 メイドさんがそう笑うとその姿が影に包まれ、そして黒の法衣を纏った女の姿へと変化した。なにコレ凄い。そして驚いたのは俺だけでは無いらしい。


「な、フェノン殿!? 何故ここに……!?」

「なあに、異界から態々呼び出された者とやらを見に来ただけだ。しかし……これは中々面白いな」


 メイドさん改めフェノンさんとやらがニヤリ、と笑う。そして紙面を渡してくれた。というか凄い美人だなー。スタイルも凄いし肌も白いしどこか強気な印象が何気に好みだ。歳は俺と同じくらいだろうか? こんな人が彼女だったらなぁ

だがいつまでもじっと見ていたら唯の変態だろう。誤魔化す様に渡された紙面に目を落し……俺は絶句した。


『最強ま法 アブソリュートイグニッションゼロ:ま剣使いゼロスのおうぎ。相手をこおりつかせ、それを粉々に砕くま法』


「こ……これは……!?」


 そこに記された内容を読むと同時、ダラダラと冷や汗が流れる。動機が激しくなり肩が震える。だってこれは……これは……!


「これは魔導書『魔縛原典』の写しだ。魔導書の中身は解読不能な文字も多いが作者名は判明している。そう、解読された作者名はハヤシ・カジキ!」

「カズキだ! って俺かぁぁぁぁぁッぁぁぁぁぁぁぁッぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 悪夢の始まりであった。


短編との変更点


・ジャンルはコメディーよりはファンタジーよりじゃね? という意見もあったのでファンタジーに。ビバ剣と魔法の世界


・1~3話は短編を分割しつつ加筆修正した形なので流れはあらかた同じです。なぜ分割したかと言えば短い方が勢いつけやすいかなーと。長いともいわれましたし

それでもだいぶテンポ落ちてる点は反省です

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