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7.二回戦『異世界編』 閑話、試合開始


 外は、どこまでも続く、薄緑色の草原世界だった。


 螺旋階段の中腹の扉を開けたにも関わらず、出た先は地上だったが、深く考えないでおく。


「綺麗なところだ……」

「綺麗ですね……」


 俺たちはその自然が産んだ美しい絵画を前に、少しだけ茫然自失となる。


「どこまでも草原が広がっている。いつか、ここでピクニックするのもいいかもな。お弁当とか広げて」

「そういうのが余裕だって言っているんです」


 冗談を飛ばし合い、笑い合う。

 しかし、すぐに自分たちの境遇を思い出し、咳払いして話を続ける。


「それで、この先には何があるんだ?」

「文明レベルの低い次元世界が広がっています。当たり障りのない世界の場所を借りて、『最果ての塔ホライゾンヘヴン』を建てたわけですね。ただ、文明レベルが低いとはいえ、ルイさんの次元世界と比べると面白いと思いますよ。おそらく、ルイさんにとって、超常現象のオンパレードです」

「超常現象……?」

「俗に言う、モンスターとか魔法とか出ます。時間の余った『賭命者プレイヤー』に次元世界群を理解してもらうため、最もフォーマルな世界が選ばれています」

「ということは、俺の世界はフォーマルじゃないのか?」

「科学技術特化はフォーマルとは言い難いですね。むしろ、嫌われやすい傾向にある、珍しい次元文化です」


 どうやら、魔法のない俺の世界のほうがマイノリティのようだ。しかも、嫌われている。道理で、『魂の写本マニュアル』で、機械類が不遇になっているわけだ。


「よし、行こうか」


 俺は首を鳴らして、歩き始める。


「え、行くんですか? 危険ですよ!?」

「正直、三十分、暇だしな……」

「暇と言いましたね。暇と……っ」

「いや、余裕じゃないぞ? ただ暇なんだ」


 正直、この『ゲーム』――本当は『ゲーム』なんて軽く言っていいものではないが、今はわかりやすく『ゲーム』と表現する。――の方向性はほぼ把握できている。


 『魂の書』の最後の一文。「全ては主催者の意に沿うため」、という言葉がこの『ゲーム』の全てだろう。


 主催者の意、それはおそらく――。


 とにかく、その意に沿う形の、最適な攻略手順は頭の中に構築済みだ。

 

「もう何も言いません。けど、時間になったら現れた扉に、ちゃんと入ってくださいよ。300秒以内に入れなかったら負けです。ぶっちゃけ、死にます」

「300秒以内ね。わかった」


 暢気に歩く俺を見て、ナインは諦めたように後ろをついてくる。


 俺とナインは適当な話をしながら、草原を歩く。

 途中、ただ広がっている草原に飽き始め、預かっている『魂の写本マニュアル』を開く。


「とうとう、ルイさんの強化タイムですね」

「ま、『才能』がないから、『機敏』を上げるくらいしか――、あれ?」


 俺は『魂の写本マニュアル』をぱらぱらとめくりながら答えようとして、以前と変化したページを見つけ驚く。


――

『才能』

User 想本累

器数1

狙いエイムレベルⅠ』:ランクFスキル:-5:修得可/売却可







――


「『才能』が増えてる……?」


 一回戦では白紙だった『才能』に、文字が増えていた。

 確か、俺の『才能』は金輪際増えないとの話だったはず。


「え、え? 増えてる? どういうことでしょう……。増えるなんて話、聞いたことありません……」


 ナインも驚いている。『助命者アドバイザー』の立場から見ても異常なことのようだ。


「おい、何が魂レベルで才能がないだ、おい」


 俺が文句をつけると、ナインは顔を背ける。


 つんつんとナインの頬をつつきながら、俺は繰り返す。


「何の可能性もないとか言われて、結構、ショックだったんだぞ。大丈夫みたいじゃないか」

「い、いや、そんはずはないんですが……。とりあえず、すみません……」


 渋々といった様子で、ナインは謝る。


「じゃあ、一応取ってみるか……?」

「まってください。あるから取るなんて危険です。まず、『狙いエイムレベルⅠ』の説明をします」


 そして、ナインは目を閉じる。「むむむ」と唸っていることから、何かを感じ取っているようだ。電波を受信しているようで、少しばかり気味が悪い。


「『狙いエイムレベルⅠ』、プレイヤーの身体から放たれたもの全ての的中精度の上昇。詳細情報:ランクFスキル:-5:障害がない場合。十メートル先の対象へ的中させる。――です」

「よし、取ろう」


 迷いはない。

 才能なら何でもよかった。反省する気もない。


「即答ですね……。確かに、今のルイさんにとって悪くない力ですが、丁度、値段も5枚ですし……」

「取ろう、今すぐ取ろう」

「はいはい、私の助言なんて聞かないんですから……。――ちゃりーんっと」


 ナインの言葉と同時に『魂の写本マニュアル』の記述が変化していく。


――

『才能』

User 想本累

器数1

狙いエイムレベルⅠ』:ランクFスキル:-5:修得済/売却可







――


 『修得可』から『修得済』へと書き換わった。これで、俺は『狙いエイムレベルⅠ』という『才能』を手に入れたことになる。


「けど、実感ないな」

「そこらへんの石を投げて試しましょう」


 ナインは地面から手頃な石を手渡す。

 そして、草原の奥で走っている小動物を指差す


「ちょうどいいですね。あれ狙いましょう」

「兎のような何かだな」


 兎と似て非なる白い四足動物が走っている。


「えーっと、『デイフ』という名称の動物ですね。ルイさんのところの兎さんと、さほど変わりません」

「兎狩るのって、めっちゃ難しいイメージあるけど……」

「感触を掴むだけですよ」

「わかった」


 できるだけ音を立てず、俺はデイフとやらとの距離を詰めていく。

 しかし、十メートルまで近づく前にデイフがこちらの気配を察する。俺は慌てて駆け出し、石を投げつける。


 目測で二十メートルほどの距離はあったものの、狙いは正確だった。およそ、投擲の訓練をしていない一般人と思えない軌道で石はデイフに襲い掛かる。


 しかし、そこまでだ。

 着弾までの時間に、兎は悠々と狙いを外し、走り去っていった。


「外したけどすごいな……、確かに『狙い』をつける技術がおかしくなってる……」


 仕留めることはできなかったものの、その技術の一端を感じることは出来た。確かに十メートルくらいの距離ならば、必中できる気がする。


「色々と試しながら、進みましょうか」

「ああ」


 俺は道中、的を見つけては物を投げる。

 投げナイフが主力になると思い、短剣を投げる練習も行う。


 そして、数十分ほど経ったところで、野生の小動物に投げナイフを当てることに成功する。

 デイフのような機敏な動物ではないが、それなりに動き回る小動物を仕留め、俺は自信を持つ。


「――おっ、やっと当たった」

「すごいですね。もはや、投げナイフの達人と言っても過言でない気がします」

「これが才能……。ひどいな、才能あるやつらにとっては、こんなにも簡単なものなのか……」


 自信を持つと同時に、妬みも混じる。


 何の才能もない人生を歩んできた俺は、少しの練習で成果が出ることに不快さを感じる。もし、これが素の俺ならば、何ヶ月、何年もかけなければ、このナイフを小動物に当てることは叶わなかっただろう。


 しかし、この『狙い』の才能を持っているやつらは、数十分でそれを叶えてしまう。


「そうですね、『才能』ってのは酷い存在です。平等でないところが特に」

「『才能』が一杯あるやつって、どんな気分で人生過ごしているんだろうな……」

「けど、今、ルイさんは『狙い』の才能を得ました。気分の悪いことばかり考えていないで、明るいことを考えましょう」

「そうだな。……うん、そうだ。その通りだ」


 ナインは俺の才能の考え方に肯定的だ。どうやら、彼女も才能がないことに共感できる何かがあるようだ。しかし、今、話すことではないと話を切り上げる。


 その話を切り上げたところで、景色に変化が現れる。


 草原の彼方、地平線にでこぼこが見えた。

 建造物の群れが遠目で確認できる。


「おっ、町だ」


 俺は異世界の町を見つけ、喜色の声をあげる。


「けど、そろそろ時間ですよ」


 しかし、ナインは足を進めようとする俺を止める。

 どうやら、そろそろ『準備時間』が終わるようだ。


 そして、何もないところに扉が出現する。


「タイミングが悪いな」


 俺は悪態をつきながら、集中力を高める。

 遠ざかった意識を、さらに遠ざけていく。自分をコントロールする自分を生み出し、最適な行動を取るための準備を行う。


 俺の自信の拠り所、『悪いところ』を呼び起こし、『普通なところ』を引っ込める。

 これが俺の持つ最大の武器であり、リラックスできている理由でもある。


 このスイッチを完全に掌握することが、戦いの鍵だ。


「ご武運を――」


 ナインは軽く手を振って、俺を見送る。


 俺は軽く頷いて、扉をくぐる。


 そして、二回戦が始まる。


 今の俺は一回戦と違う。

 あのときは、『普通なところ』と『悪いところ』が混ざってしまい暴走してしまった。しかし、今の俺ならば、背中を見せている人だって刺せる。刺してみせる。


 そう心に決め、二回戦の舞台へと進み、その先には――



――黒く巨大な『生物』が呻りをあげて、待ち構えていた。


 俺は冷や汗を流す。


 対戦相手は人間でなかった。

 一週間かけて作り上げた心構えが無駄になった瞬間だった。 



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