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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

夜鐘の運び手

掲載日:2026/08/08

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 うあ~、今週も終わりだ~。

 翌日に休みが約束された仕事終わりほど、気持ちのよいものはないね~。明日のことを考えずに、がっつり休める。考えただけで、安らぎに体がとろけてヨーグルトにでもなりそうな勢いだ。

 くつろぎの時間がないと、生き物も機械も持たないのはよく知られている。ただただ効率を求めるなら、ずっと動き続けていたほうがいいと思えそうだけど、実は気づかないところで時間あたりの効率は減少していくそうなんだよねえ。

 熱や疲れをはじめとする、様々なマイナス要因。これらをうまいこと取り除いていくことが、最終的に長く効率よく働くための秘訣になるのだねえ。

 夜に休み、眠るというのも、この流れに沿っているのだろう。夜目がききづらい人にとって、その時間の活動はパワーがいる。見えづらいものを、なんとか見ようと力を尽くし、あらゆる神経を鋭敏にする。おそらく寿命が縮まっているんじゃないかと思うよ。

 その命を短くしても、やらねばいけないこと。世の中にどれほどあるのだろうね。

 僕が少し前に聞いた話なのだけど、耳に入れてみないかい?


 むかしむかし。

 とある村に、夜回り組が存在したというんだ。

 拍子木をうち、「火の用心」をうながしながら、住まいと住まいの間を抜けていく……典型的なスタイルかな。

 火は命以外に財産も消し去る可能性を持っている。ゆえに殺人よりも重い罪に問われることが多い。現代のような消防力を持っていないむかしであれば、ことさら注意が必要だったわけだ。

 その夜回り組の目的だが、何も家々へ火の後始末をするよう注意していたばかりじゃない。その拍子木の打ち合わせによって、夜の間に訪れるものたちの気配を感じ取っていたというんだ。


 カチカチ、と音を形容されがちな拍子木たち。

 その夜回り組の活動の中では、別の響きが観測されたことが幾度かあった。それらのうち、僕が聞いた中で一番印象的なものを話そう。

 その晩の見回り組は二人。一人が木を打ち、一人が注意を呼び掛けていた。

 村内をぐるりと一回りした後、念のため、逆回りにもう一度回るのが彼らの慣習。その道のりの三分の二を過ぎたあたりだった。

 ご~ん、と釣鐘を鳴らしたような、重厚で低く長い音が響く。てっきり、寺社などで打ち鳴らされたものかと思ったが、特別な行事などはない時期。夜間に時間経過を告げるような鐘を鳴らすことは、少なくともこの地域にはないことだ。

 二人はしばらく手も足もとめて、続くかもしれない音を待ったが、こない。いぶかしく思いながらも、やがて拍子木を再び打ち直したとき。例の鐘の音が響いたんだ。

 ほかでもない、打ち合わせた拍子木の近くからはっきりとね。


 先ほどよりも、明らかに距離が詰まっていた。

 音源が、手に持つ拍子木ならば当然かもしれないが、先の一回はずっと遠くで打ち鳴らされたかのような間隔が感じられた。

 それが今回は、ほんの数尺ほど前方から届いてきたかのよう。見回りの二人は、いよいよ顔を見合わせて、懐からおまもりを取り出した。

 例の鐘を持つ寺社で、以前に用意してもらったものだ。よからぬものの気配が見えたときには、これを取り出して握りしめろ、とも。


 いつも、布地の冷たさをたたえていたおまもり。

 それが音のしたほうへ掲げるや、どんどんと熱を帯びていき、ついには生地の端からおのずと焦げ目がついてくる始末。

 しかし、おまもりが炭への道をたどっていく中で、見回りたちが耳にする音もまた激しいものになっていく。

 先ほどまでの鐘らしき音は、余韻を残さない連打へと変わっていき、耳はおろか見回りたちの身体をぶるぶると震わせんばかりの強さとなる。

 その音はやがて遠ざかっていったのだけど……奇妙な傷痕を村へ残していった。


 音が鳴るたびに家屋の屋根の一部が、削れていく。

 はじめは、この音の揺れによって屋根を構成している藁や石などが、落ちているのかと思った。しかし、厳密には異なっている。落ちていくものなどなかった。

「崩れていく」。

 鐘のごとき音が響くと、いずこかの屋根の藁や石がたちまち粉粒と化して、散っていくんだ。見回りのものたちに、このような芸当を行う道具などの見当はつかない。

 屋根のみならず、家々の壁も。自分たちの手にしたおまもりも、身に着けている服も、数を重ねていくうちに同じ目に遭っていく。

 一瞬前までは、一部の乱れもほつれもなかったそれらが、鐘の音とともに形を失って、元のものとは異なる砂へ変じていく。


 やがて鐘がすっかり聞こえなくなるとき。見回りの二人の身に着けるものは、ふんどししか残っていなかったという。

 家屋たちも屋根や壁はやられたものの、内部まで穴をこじ開けられたものはなく、家の中の者は外に出るまで被害に気付かなかったとか。

 いまだ、あの鐘の音の正体は分からない。しかし、一夜にして姿を消す村々のうわさを作っているのは、あいつなのだとも伝わっている。

 夜、誰かが起きて備えねばならないのだと。

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