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47話 九章 国王フィークシス

屋敷襲撃から一か月。


改装された荘厳な王城。

その私室で、フィークシス国王は静かに立っていた。


側近が差し出す深紅のマントに腕を通し、留め具が整えられる。


「……城の修復も、ようやく終わったか」


背後で控える大臣が一礼する。


「はい。

改装中であった西棟も含め、すべて完了しております。

本日の落成式には、各領主や貴族に加え、諸外国の使節も多数参列を――」


「分かっている」


国王は短く遮った。


「それにしても……」


ふっと、吐き捨てるような声。


「勇者ごときに、余計な手間を取らされた。

余計な手間ばかり増やしおって……外法の手も借りて、出費ばかり増えたわ……」


大臣は言葉を失う。

部屋の隅に手を揃え頭を下げたまま待機するメイド達も、心の中で恐れていた。


「次に選ぶ時は、もう少し“扱いやすい”者にせねばならんなぁ……勇者ほど、見世物としても駒としても割りの良いものは無いからな……」


その声に、後悔も躊躇もない。

ただ、面倒事が終わったことへの苛立ちだけが滲んでいた。


「……演説の内容は?」


「は、西方の反乱での犠牲者や勇者を悼みつつ、今後の糧にして王国の威信を上げる内容にまとめ上げております」


「それでいい……まったく、愚民共の機嫌取りも面倒なものだ。

だが、一言二言で信頼されるのであれば、儲け物だがな、ははは」


王の笑い声が部屋の中に響く。

側にいる大臣や側近も合わせ、苦笑する。


国王はマントを翻し、大臣や側近達と共に私室を出た。


私室には頭を下げたメイドが数名残る。

足音が聞こえなくなると同時に頭を上げた。


その中の一人、まとめ役であろうメイドが口を開く。


「分かってると思うけど、口外厳禁だからねっ。さあ、仕事をしなさい」


指示を受け、それぞれが私室のベットメイキングや掃除を行う。


「あれ?」


「どうしたの?」


1人のメイドが、ふと首を傾げる。


「……もう1人いなかった?

背の高い金髪の人……」



王城前広場。


新たに整えられた白い城壁。

広場には民衆が集っていた。


諸外国の使節、貴族、騎士団。

祝賀の空気が、場を包んでいる。


民衆の雑談が飛び交う


「色々あったのに、落成式は行うんだな」


「ああ……前々から予定していたからな。

国賓達の手前、先延ばしも出来ないだろう……」


「けど、一月前も国内なのに残党狩りで、騎士団が出陣しなかったか?」


「しっ……あまり、追求しないのがいい……」


噂が飛び交う雑踏。

その中でフードを深く被った一人の女が、目を細め、静かに息を潜めていた。


アイシャ。


屋敷襲撃の逃亡時。

ルミナスにレインを連れて追いつくと言われた。


そして、一人。

屋敷を爆破する所を遠目から見届けた。


生き延びた彼女は、今日まで怪我を治し、

機会を伺い、王都に潜んでいた。


報復。


仲間の仇を打つ為に。


「(レイン……ルミナス……私が、こんな理不尽をぶち壊す……)」


大事な仲間を失い、王による理不尽な所業。


怒り。

殺意。


アイシャは義憤と復讐に駆られていた。


その瞳は、壇上に立つ王だけを捉えている。

腰の白無垢の太刀に添えられた指は、鯉口を切り、いつでも抜刀できる。


「(まだ遠い……)」


人混みを避けつつ、進む。

何も知らずに壇上で手を振る国王へと、足を運ぶ。


一足踏み込めば、王の首に刃が届く距離まで。


王が口を開き、演説を始める。


その瞬間を狙う。


その後は何も考えない。

邪魔をするなら、誰であろうと斬る。


そう、決めていた。


「 諸君、本日は――」


国王が演説を始めた。


アイシャは太刀の鯉口を切る。


次の瞬間。


『勇者グランを……暗殺してほしい』


国王フィークシス本人の声。


拡声魔導具から、被せるように、広場に響く。


同時に城壁の向かいに設置された魔導装置が、突如として光を放った。


ざわめきが走る。


アイシャも驚き、足を止めた。


城壁一面に、巨大な映像が映し出された。


そこに映っていたのは――

国王フィークシス。


聞き覚えのある声が続く。


『……グランは、西方で反抗勢力と手を組み、近衛隊ごと王国に反旗を翻した』


国王の声。


「……なっ」


広場が、凍りつく。


続けて映し出されるのは、フィークシス国王。ソファに座り、グランの暗殺依頼をする一部始終。


国王の背後には執事シモンとダリク。


この光景に民衆や参列者は驚く中、アイシャも目を丸くする。


映し出された光景に、アイシャは見覚えがあった。


「(っ!?これ……あの時の会話……!?)」


アイシャもその場にいた当事者。

鮮明に思い出す。


その時のやり取りが、そのまま映像に流れた。


国王も動揺し、騎士や側近達が何処から音と映像が流れているかを探す。


「いやっ……これは誤解で……」


国王が弁明しようとした。


その瞬間。


映像にノイズが入り、映像が差し替わる。


映し出されていたのは、俯瞰からの玉座の間。


グランが国王を人質にし、聖剣を向けていた時の光景。


『……お前らのような冒険者は、暴力しか取り柄がなく、生産性のない存在……本気で勇者になれると思っていたのか?


……国益にならない者を英雄やら勇者と崇めている時点でな。

だから、私は愚民どもの望む偶像をたて、国益になるよう、お膳立てしてやった』


勇者の存在と尊厳を見下す言葉。

それを、自らの口で語る国王の姿。


さらに――

過去にレインが復讐してきた者達。

斥候ライル、戦士ブロウ、魔術師フェニス、聖女エレナ。


守護騎士ヴァロスを除く、四人の悪行。

虐殺、隠蔽、搾取。


それらが、記録として次々に流されていく。


「これは……」


「聖女エレナ様が禁術を……?」


「嘘だろ……ブロウ侯爵が、薬物に手を……」


民衆のざわめきは、疑念へと変わっていった。


アイシャも、ただ呆然とその映像を見つめていた。


「(……これ……)」


胸に、思い当たるものが浮かぶ。


――ルミナス。


彼女が言っていた。

見たもの、聞いたものは、記録されると。


流れている映像は全て、四人の悪行とレインの報復が、ルミナス視点で記録された物。


守護騎士ヴァロスはレイン一人で復讐したから、記録に出ない。


アイシャの中で、全て辻褄の合う光景であった。



映像が切り替わる度に、国王の顔は狼狽し、声を荒げる。


「こっ、これは敵の陰謀だっ!

そうっ、これは外法の呪具師のーー」


『……まったく、愚民共の機嫌取りも面倒なものだ。

だが、一言二言で信頼されるのであれば、儲け物だがな、ははは』


再び、被せるように映像が切り替わる。


朝、国王が私室で笑いながら語る姿。

直近の映像に映し出され、公開される。


民衆や参列していた諸外国の使者達の驚きが、次第に表情が強張らせ、怒りへと変えていく。


「ふざけんなっ!」


「愚民だとっ!」


「俺たちを見下しやがってっ!!」


民衆の怒号が飛び交う。

何処からか石やゴミを国王に投げ込まれる。


「陛下っ、こちらへ……」


狼狽する国王を騎士や側近達が囲むように守り、王城へと撤退していく。


「あっ!」


アイシャはその様子を見て、逃がすまいと追いかけようとした。


その時。


「……アイシャ様」


背後。

綺麗だが淡々とした聞き覚えのある声。


息が止まる。

周りの怒号が消え、世界が静止したかのような感覚となる。


「振り向かず、最後まで聞いてください。

マスターからの伝言です」


ルミナスは一息吸い、口を開く。


「復讐を決意し、外法の呪具師と呼ばれるようになった今、側にいるお前にも迷惑が掛かる。故に世間からは死んだことにした……」


伝言は続く。

アイシャは聞き続ける。


「アイシャには、自らの意思とはいえ、自身の復讐に同行してくれた……経緯はどうあれ、呪具を持たせてしまったこと、それだけは申し訳ない……」


ルミナスの声は静かで淡々と続く。


「アイシャなら、私欲に走らず、上手く白無垢の太刀を扱えるだろう。

だが、いつ同化するか、わからない。

授けた自分が言える立場でないのは承知だが……そうなるまで、悔いのないように生きてほしい」


一拍。


「最後に……眼帯をありがとう。」


そこで、声は途切れた。

世界に音が戻った感覚となる。


アイシャは、急いで振り返る。


そこには、誰もいなかった。


広場には民衆の怒号が響いたが、

アイシャには風の音が耳に響いた。



王城内。

私室。


国王は、怒りに顔を歪めていた。

大臣や側近達は、掛ける言葉が見つからず、おそれるばかり。


「出て行け! 全員だ!!」


国王が部下たちを睨みつけ、怒鳴りつける。


大臣達が私室より退散し、そのまま扉が閉められる。


国王は体を震わせた。


次の瞬間。


破片が砕ける音。


調度品の壺を叩き割った。


目についた調度品に当たり始める。

花瓶を割り、戸棚を倒し、壁を殴る。


国王は怒りに任せて暴れ、荒く息を吐く。


「どうしてだ……どうして、あんなものが……!」


一通り暴れたことで、冷静さを少し取り戻す。


国王はふと、気づいた。


今朝、この部屋で話した事まで映像に流れた。


敵は既にこの城にいる。

国王の疑念は止まらない。


思考が反芻する。


その瞬間。


足音。


背後から物音。

国王はすぐ様に振り向く。


部屋の隅。

影の中。

杖をついた影が歩み出た。


黒い装束に黒いベール。

頭には金冠の装飾。


黒衣の男。


「……ッ!?」


国王は、言葉を失った。


「な……!?何者だ……ここを何処だと……!?」


国王は後退しながら問い詰める。


黒衣の男は異様な煙をベール越しに吐く。

ゆっくりと顔を上げ、素顔を見せた。


鋭く歪んだ左目と、琥珀色の異形の右目。


レイン。


国王が命令し、外法の呪具師として、粛清され、死んだはずの男。


今、国王の目の前に立っていた。


「っ!!レイン……?!貴様っ、生きて……?!」


国王は恐怖に慄き、狼狽する。


「どうやら……呪いは、俺を簡単に死なせないようだ……」


低い声が国王の耳に流れ込む。


杖が床を突き、ゆっくりと国王に近づく足音が私室に響く。


レインは語り始める。


「フィークシス……お前がどんな思想をしようが、どうでも良い……だが、契約を反故にし、一連の罪を着せて、俺たちを殺そうとした……」


国王は冷や汗が止まらない。

狼狽しつつも口を開く。


「そうだ……だが、私は何も間違っていない。

穢れた外法の者を、世の中のために使ってやった……


お前のように、呪具など禁術に手を出さねば、事を成せない者……私が手を下さずとも誰にも受け入れられず、死ぬだけだっ!!」


国王の悪足掻きにレインは眉一つ動かさず、冷たく視線を向ける。


「お前は既に呪いに掛かっている……俺が掛けるよりずっと前から……」


レインは語りながら国王へ迫る。


「それは……時には人を救い、時には殺す。

残酷で……逃れられない呪い」


国王はレインが目前へと迫る。


「ひいっ!」


国王は咄嗟に目を瞑る。


一拍。


何も起きない。

国王は恐る恐る目を開ける。


目の前に姿は見えない。


国王は怯え、周りを見回す。


次の瞬間。


国王の背筋が凍る。

背後に立っている。


国王は恐怖で動けなくなった。


国王の耳元に吐息と共に――


囁かれた。


「それは……“嘘と真実”」


静寂。


心臓が、やけに大きく鳴る。


――とん。


右肩に、何かが触れた。


国王は恐怖し、冷や汗が止まらない。


そして。


「代償は……払われるようだぞ……」


レインは囁き、杖を窓の方に向ける。


国王は恐る恐る、視線を向けた。


燃える王城。

松明を掲げ、怒り迫る国民。

奥には絞首台。


怒号。

殺意。

足音。


国王の目に、鮮明に光景が浮かび、音が耳の中で反響した。


「……ぁ……ああああああっ!!」


国王は耳を抑え、床に転倒する。

そのまま床を引っ掻き、逃げようとした。


叫び声が私室を超え、王城内に響き渡る。


「陛下っ!!どう致しましたかっ!?」


異常を聞き、側近や騎士が駆け込む。


彼らの見た光景は、荒れた部屋。

一人で狂い、叫び声を上げる、髪を乱した老人姿の国王。


床には、王冠が転がっているのみ。


騎士や側近は暴れる国王を落ち着かせようと、なだめた。


窓の外には、誰もいないはずなのに、怒号が止まない。


これは、自分の頭の中で鳴っている。


私室には、国王以外の痕跡は無い。


ただ一人、崩れ落ちる王だけが、何かに怯えている。


外法の呪具師は――

再び、闇へと姿を消した。

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