43話 七章 勇者グラン⑩
王城前の広場は、混乱の渦中にあった。
悲鳴と怒号。
銃声の残響。
逃げ惑う人々。
騎士たちは国王救出のために隊列を組み、王城の城門を囲む。
その流れに逆らい、レインは人混みをかき分け、一歩を踏み出そうとした。
「待って!」
アイシャがレインの腕を掴み、止める。
「今は無理よっ!その体で、準備もなくーー」
「分かってる」
レインは怒鳴らず、静かに返す。
「復讐のためにここまできた……
だが、僅かな情で、グランを逃した結果がこの有様だ。
ここで逃せば、次はない……今度こそ、終わらせる」
先の戦で、レインは思い知った。
絶対の“覚悟”であることを、骨身に染みて知った。
絶対の"覚悟"である事を、骨身に染みた。
アイシャはレインの覚悟を前に、何も言わず手を離す。
「わかった……私も行くっ!」
アイシャもレインの覚悟に賛同し、白無垢の太刀を握りしめる。
「まずは、入城手段ですが窓から突入など……」
ルミナスが淡々と潜入手段を述べようとする。
その時。
「……西の塔なら入れる」
ダリクが声をかけてきた。
「西の塔?」
「混乱と増援で塞がれている。
だが、今は改装中で警備も薄い……案内する」
それだけで十分だった。
レインはルミナスとアイシャに振り返る。
三人は短く頷く。
そのまま、ダリクに導かれ、王城の裏へと回り込んだ。
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王城内。
王を人質にしたグランを先頭に、残党一団は、何にも目もくれずに進む。
城内の給仕は怯え、兵士達も王を盾にされ、手出しできずにいた。
重厚な扉を前にすると、残党一団により開けられる。
玉座の間。
権力の象徴と集大成とも言える空間。
ここに、残党の一団に入り込まれた。
「入り口を見張れ」
グランの、低く淡々と指示。
銃火器を持った残党が玉座の間の入り口に陣取り、侵入者を警戒した。
グランは麻袋を脱ぎ捨てた。
先の戦でレインに殴られ、腫れが残った顔を晒す。
国王を玉座の前に立たせ、聖剣を向ける。
「久しぶりだなぁ、国王陛下」
グランの声は低く、冷えている。
「私怨に聖剣を振れば、刃は己を刺す……授与した時に聞いた筈だ……」
フィークシス国王も怖れず、グランを睨見ながら話す。
「こうも言っていたな。
悪きものを滅するのが聖剣だと……お前が斬られれば、どう言い訳する?」
グランが冷やかすように返す。
「この城は既に包囲されている……無駄な愚行はよせ」
グランは国王を睨みつけ、聖剣を突き上げたまま、語り続ける。
「お前らは俺を勇者に選んだ……だが、実際は外交で見世物。
正義の執行と称して先頭に立たせ、侵略と略奪を正当化した……」
「…………」
グランの語りに、国王は聞き続ける。
「……何が勇者だっ!!
俺は汚れた奴らの為に、勇者を目指した訳じゃない!!」
グランの怒号。
玉座の間に大きく響く。
それに対し、王は見下すように冷ややかな目を向ける。
聖剣の切っ先を喉元に感じながらも、背筋を伸ばす。
国王はため息をつき、言い放つ。
「おめでたい奴だ……暴力しか取り柄がなく、生産性のない存在……本気で、自分が“英雄”になれるとでも思っていたのか?」
フィークシス国王は両腕を広げ、語る。
「そもそも、皆は勘違いしている……国益にならない者を英雄やら勇者と崇めている時点でな。
だから、私は愚民どもの望む偶像をたて、国益になるよう、お膳立てしてやった」
グランの瞳が歪む。
「勇者など、賊紛いの未熟者だ……
少し持ち上げれば、喜んで剣を振るう。
ならば、少しでも国益になるよう使ってやったのだ。
お主らのパーティー《光輪》だったか?
当時、冒険者の中で目立っていた故、適当に選んだに過ぎない……」
グランの中で何かが切れる。
歯を食いしばり、聖剣を振りかざした。
「お前は、この国を出るまでの人質だ……だが、手の一本は頂く」
凶刃が振り落とされる。
その瞬間。
天井が爆ぜた。
石片と粉塵が降り注ぐ中、影が落ちる。
衝撃音と共に、拳がグランの顔面を撃ち抜く。
声も名乗りもない。
ただ、叩きつけるような一撃だった。
「――ッ!?」
グランは聖剣を落とす。
衝撃で吹き飛び、床に転がる。
グランは顔を上げる。
そこにいたのは殺したはずの男。
レイン。
「……っ、レイン……貴様ぁ!?」
レインはグランに馬乗りになる。
そのまま、拳を振り下ろし、グランの顔面を殴る。
グランが動けない隙を逃さず、ルミナスが国王に駆け寄る。
「国王陛下、失礼します」
ルミナスがオートマタ特有の膂力で、国王を難なく抱え上げる。
国王は驚きつつも、体重を預ける。
そのまま、ルミナスはためらいなく窓へ駆ける。
「待てっぇ!」
グランは、馬乗りのレインを押しのける。
手を伸ばしながら、国王を追いかける。
そして。
ガラスが盛大に割れる音。
国王を抱えたルミナスは飛び降りた。
地面に着地し、王城を囲む騎士団に滑り込む。
「そんな……」
グランが割れた窓の先を見る。
二人の姿はすでに群衆に紛れ、見分けがつかない。
「うがぁああああっ!!」
グランの叫び。
扉の向こうで残党が、玉座の間に入ろうとした。
「貴方達は私が相手よっ!!」
正面から廊下を駆けるのはアイシャ。
残党の一団に斬り込む。
敵は小銃を発砲する。
アイシャはすべて避け、一閃。
多数相手に、時には壁を蹴り、敵の懐に入っては一刀入れ、対処していく。
交戦の怒号は、扉越しの玉座の間にも響く。
グランは窓際で項垂れる。
押しのけられたレインは杖を支えに立ち上がり、一言。
「……計画通り、進んだか?」
レインが、皮肉を込めて言う。
グランはその声に反応する。
レインを睨みつけ、転がった聖剣を拾い上げた。
憎悪が燃え上がるグラン。
殺意に満ちた歪んだ目がレインに向けられる。
「……お前だけは、絶対殺す!!」
玉座の間で、二人は向かい合った。
「……お前の歪んだ光、ここで砕いてやる」
レインはゆっくりと杖をグランに向ける。
グランに向けられたレインの冷たく鋭い目。
その目は、聖剣よりも煌めいた。




