3話 二章 斥候ライル①
辺境都市 《グルーム》。
昼だというのに、通りは息を潜めたように静まり返っていた。
統一されていない武装の男たちが通りを蹂躙するように行進する。
胸には鋭い矢の紋章――遊撃部隊の印。
「道をあけやがれっ、勇者グラン様の右腕であらせられる、ライル様のお通りだっ。」
「今日も義務の徴収日だ。光栄に思えよ、クズども」
先頭の2人が恫喝し、市民は怯え、道を開ける。
隊の中央にいる、猫背で細身の青年が、不機嫌そうに周りを睨みつけながら歩く。
赤茶の刈り上げ髪、狐のように細長い目。人を見下すことに慣れ切った視線。
《光輪》の元斥候、遊撃部隊長ライル。
本来、遊撃部隊は要請に応じて援軍や周辺調査を行う組織だ。
だが、元勇者メンバーという肩書きにより各地で特権を乱用し、徴収と称して金品を巻き上げては賭博に使う日々だった。
今日も、辺境都市グルームの商店に目を付ける。
看板から、貴金属の買取販売を生業とした店である事を確認すると、ライルは視線を向け、顎をわずかに動かす。
それだけで部下たちは意図を察し、略奪を始める。
店主の中年男性は外へ引きずり出され、店内からは現金や貴金属が荒々しく集められていく。
「……な、頼む……!全部持っていかれたら商売にならない!」
震えながら土下座する店主。
しかしライルは、その頭を鬱陶しそうに足で押さえつけた。
「国の徴収に逆らう気か? したら、お前は反逆者だなぁ」
合図もなく、部下たちが男の腹を踏みつける。
骨の軋む音と濁った悲鳴が通りに響いた。
店主は全身を殴打されながらも、視線で訴える。
「なんだぁ? その目は?
気にいらねぇなら、運試しするか。」
ライルは革袋から二つのサイコロを取り出し、
気怠げに地面へと転がした。
出た目は 1 と 4。
「……つまんねぇ目だ。運が悪かったな、オッサン」
ライルは腰のホルスターから、銃身を切り詰めた水平二連散弾銃を引き抜いた。
その短い銃身は、至近距離で殺すためだけに存在する凶器だった。
周囲の空気が凍り付いたその瞬間、ライルの視線が店主の落とした小箱に止まった。
「何だ、これ」
箱を開くと、うさぎの足に金と宝石を施したアクセサリーが現れた。
ライルはそれを持ち上げた瞬間、目が吸い寄せられるように細められる。
「へぇ……妙に惹かれるな。これはいい」
「そ、それは入荷したばかりの商品で……!」
店主が震える手で取り返そうとしたが、ライルの蹴りがそれを拒絶した。
「俺が直々に徴収してやるよ。命が助かって運が良かったな」
満足げにアクセサリーを腕に巻きつけ、部下と共に堂々と歩き去っていく。
その姿を、誰も止められない。
人々は知っていた。怒らせれば命がないと。
通りの端で、レインとルミナスはフードを深く被り、黙って光景を見つめていた。
「あれが元勇者メンバー、斥候ライル。どう見ても盗賊ですね」
機械的な口調だが、ルミナスの声にはわずかな嫌悪が混じっていた。
レインは小さく息を吐く。
「盗賊以下だ……相変わらず、サイコロの目で物事を決める博徒。
人の生死まで決める……前より狂って隠す気がなくなっているな」
ルミナスの瞳が淡く光る。
オートマタの目に内臓された、鑑定眼を使い、ルミナスはライルの情報を読み取る。
「筋肉量、重心、脚のバネ……俊敏性は健在。斥候として理想的な能力です」
「ああ……腐っても勇者メンバーだった男だ。」
2人は淡々と会話を進める。
「ライルを守る取り巻きもいます。マスターはどのように近づき、行動されますか?」
ルミナスが問うと、レインの口角が上がる。
「既に片足突っ込んでる。後はあいつ次第だ……」
レインが低く呟いた瞬間、
ライルの腕に巻かれたアクセサリーが、かすかに妖しく煌めいた。
復讐劇の幕が、静かに上がる。




