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28話 六章 聖女エレナ⑧

教会の内部は、不気味なほど静かだった。


外での激戦が嘘のように、

広い聖堂には人の気配も、足音もない。


「……静かすぎるな」


レインが低く呟き、杖を握り直す。

アイシャとルミナスも無言で周囲を警戒しながら、慎重に進む。


その瞬間だった。


轟音。


天井が砕け、巨大な影が落下する。


「――ッ!」


床を叩き割るほどの衝撃。

三人は咄嗟に散開し、辛うじて直撃を免れる。


粉塵の中から、見覚えのある巨躯が立ち上がった。


「……久しぶりだな」


男以上に筋肉質な巨体。

低く響く声。

鎧籠手に包まれた拳を鳴らし、男のような女は笑う。


聖女団隊長コリア。


その視線は、真っ直ぐにアイシャへ向けられていた。


「お? お前、あの時に俺の手を傷つけた奴だな?」


「……」


アイシャが太刀に手をかけ、一歩前に出る。


「レイン、ルミナス、先に行って」


「アイシャ……」


「大丈夫……こいつは、私が止める」


迷いはなかった。

レインは一瞬だけ彼女を見つめ、ルミナスと共に進もうとした瞬間。


「レインっ!!」


アイシャがレインを呼び止める。


「まだエレナを生かしてたら、私にも一発殴らせなさいっ!!」


「……早くするんだな」


レインは頷き、答えるとルミナスと共に大広間を後にする。


「へぇ……随分、余裕があるみてぇだなぁ」


コリアが拳を鳴らし、次の瞬間、踏み込んだ。


拳が唸り、床が割れる。

アイシャは紙一重で回避し、そのまま距離を取る。


「行くぞ」


レインとルミナスは背後の通路へ駆け出した。



大広間を抜けた先は、柱の並ぶ長い廊下だった。


視界が悪く、死角が多い。


「……ッ!」


空を裂く斬撃が、レインを狙って飛来し、廊下に金属音が響く。


ルミナスが即座に前へ出て、腕の刃で受ける。

斬撃は弾かれ、壁を抉って消えた。


柱の影から、痩せた女が姿を現す。


女の両手には、鈍く光る鉤爪。


「ふふ……反応、いいわね」


舌で鉤爪を舐め、女は愉しげに笑う。


もう一人の聖女団隊長スージャ。


その視線は、露骨にレインへ向けられていた。


「マスターを狙った個体。排除対象と判断します」


ルミナスが一歩前に出る。


「先に行ってください、マスター」


「……任せる……」


レインは短く息を吐き、頷いた。


「必ず合流しろ」


「はい」


レインは廊下の奥へと走り去る。


残されたのは、二つの戦場だけだった。



アイシャ vs コリア


拳が、風を切る。


重い一撃。

だが、速い。


「……ッ!」


アイシャは連撃を避けながら間合いを測る。


大柄な体躯に似合わぬ速度。

力任せではない、洗練された拳打。


――隙を見て。


「はあっ!」


抜刀。


白刃が閃き、確実に捉えたはずだった。


金属音。


コリアは鎧籠手で、難なく受け止めていた。


余裕の笑み。


「うらぁっ!!」


コリアの拳が迫る。

アイシャは後退し、辛うじてかわす。


何度斬っても、通らない。

抜刀術の一撃すら、全て防がれる。


「どうしたぁ? あの時の殺意は、どこへ行った?」


コリアは笑いながら、距離を詰める。


「……」


アイシャは歯を食いしばる。


「だが……」


コリアが拳を見ながら口を開く。

コリアの鎧籠手には傷がつき、拳は衝撃により震えている。


「私の拳と、ここまで対等に渡り合うのはお前が初めてだ……」


「……」


「気に入ったぜ。お前、俺たちの仲間になれよ」


拳を下ろし、真剣な目で語り、アイシャは目を丸くして驚く。


「その力はもっと強くなれる筈だ。

あんたがその気なら、司教様に推薦してやるよ。」


アイシャの目が、鋭く細められた。


「……ふざけないで。

誰があんな狂人に仕えるのよ……」


太刀を握り直す。


「ああ……確かに、お世辞にも聖職者には程遠いが……あのお方は、私の理想を叶えてくれる……」


コリアは、静かに語り始めた。



ルミナス vs スージャ


距離を取りつつ、二人は睨み合う。


「あなたが……マスターを傷つけた相手ですか?」


ルミナスは冷静に問いかける。


「ええ……貴方はあの男の従者かしら……?」


スージャは微笑み、語る。


「いい男よね。余裕があって……ただ、目的のために邁進する姿……。


私はね……そういう男を、拷問して切り刻むのが趣味なの……ああいう男ほど、泣き叫んで死を懇願する姿は、見ていて楽しいわ。」


スージャは邪悪な笑い声と共に語り、

対するルミナスは無表情


「……」


「安心して……あなたはまだ、殺さないわ。

手足を切り落とした後、ご主人様が苦しむ姿を特等席で見せてあげる。」


ルミナスの瞳が、僅かに細くなる。


「危険排除を開始します」


ルミナスが踏み込むと同時に、遠距離から斬撃。


ルミナスは難なく回避する。

続けざまに二撃、三撃。


距離の概念を無視した斬撃が、次々と襲う。


「敵の解析を開始」


ルミナスはスージャを見つめ、鑑定眼を起動。


――エラー。


《解析不能》


「……ッ?」


見覚えのある結果に、ルミナスは一瞬だけ反応を遅らせる。


「まさか……禁術を自らに?」


「あら? 貴方、見抜く事できるの?」


スージャが、嬉しそうに笑う。


「私はね……禁術で“整えて”もらったのよ。

コリアも同様……」


次の瞬間。


斬撃が、さらに遠距離から放たれる。


「――っ!」


直撃。


装甲に致命傷はない。

だが、給仕服が大きく裂け、肌色の擬似皮膚が露出した。


ルミナスは距離を取り、体勢を立て直す。


「あら……貴方、人間じゃなかったの。」


スージャは、舌で鉤爪を舐めながら、楽しげに告げた。


「さあ……壊れない玩具って、どれくらいもつのかしら?」


ルミナスは動じず、両腕の刃を構える。

静かな廊下に、歪んだ笑い声が響く。



それぞれの戦場で、

戦いはまだ、始まったばかりだった。


そしてその先。

レインは、胸の奥で何かが軋むのを感じながらも、歩みを止めなかった。

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