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25話 六章 聖女エレナ⑤

聖都市 《ホーリームース》地下。


薄暗い空間に、久しぶりの安堵があった。


助け出された人々は、泣きながら家族と再会し、抱き合い、声を震わせて感謝を口にしていた。


瓦礫と湿気に満ちた場所であっても、そこには確かに「生き延びた」という実感があった。


束の間ではあるが、確かな安寧だった。


レインは簡易的な診察台に腰掛けていた。

肩口には布が巻かれ、血は止まっている。


「……動かすなよ」


シャービスが低い声で言い、慣れた手つきで傷を処置していく。


「得物はわからねぇが、鋭利なおかげで、治しやすく、止血できた……放っといたら厄介だった」


「……助かった」


レインの言葉は短い。


シャービスは一瞬、手を止めた。


「……さっきのことだが」


レインは視線を逸らさず、続ける。


「助けや協力が欲しいなら、誠意に欠けていたな……了承なしに囮に使うなんて真似、下策にも程がある」


シャービスは何も言わなかった。

だが、処置を終えると、深く頭を下げた。


「それでも、見捨てずみんなを助けてくれた……礼を言う。

……赤髪の嬢ちゃんも、ありがとう」


壁際で、アイシャが腕を組んだまま、背中を向けていた。

何も言わず、そのまま部屋を出ていく。


沈黙が落ちる。


レインがルミナスに目配せをすると、ルミナスは軽く頭を下げ、アイシャを追う。


シャービスは、レインの脚に視線を落とした。


「……足を引きずってたな。前からか?」


「……名誉の負傷だ。そんな昔でもない」


レインの左大腿部の傷痕をシャービスは診療する。


「……ちょっと待ってろ」


シャービスは木箱から金属と革で作られた補助器具取り出す。


「完全じゃないが、今よりは歩ける……

取り付けるから少し、待ってろ」


シャービスはレインの左足に補助器具を慣れた手つきで装着していく。


「……ありがとう」


レインは低くお礼を言う


「……騙した事は、なかった事に出来ねぇが、せめての礼だ。」


シャービスが返し、黙々と作業を続けている間、レインは保護院で回収した資料に目を通す



その頃、アイシャは腕を組みながら地下を歩いていた。騙された事に怒りつつも、家族を失った気持ちに否定しきれない事で、感情が混在していた。


そんなアイシャに、ツギハギだらけの人形を抱えた小さな女の子が近づく


「お姉ちゃん、パパを助けてくれてありがとうっ」


女の子の両親が続いてお礼を言う


「ありがとうございました……」


「助けてくれて、本当に……」


何人もの人々が頭を下げる。

だが、胸の奥が重く、言葉を返せない。


足早にその場を離れた。


「……アイシャ様」


追いついてきたのは、ルミナスだった。


「どういう顔で、どういう気持ちでいればいいか……分からない」


絞り出すような声。


「助けたのに、騙されて……でも、あの人達は確かに救われて……」


ルミナスは少し考え、静かに答えた。


「私はオートマタです。

状況に応じた最適解を、プログラムが提示します」


一拍。


「ですが、アイシャ様の感情は人間のものです。迷い、怒り、割り切れないのは……当然です」


「……じゃあ、どうすれば」


アイシャは唇を噛み締め、ルミナスに聞く。


「感じたままに、選べばいいと思います」


ルミナスは微笑んだ。


「それが出来るのは、人間だけですから」


その時、地下に轟音が響き、地面が震えた。


次の瞬間、天井が砕けた。


石と土砂が降り注ぎ、悲鳴が上がる。


地上から、何かが突き抜けてきた。


粉塵から見えるのは大柄な人影

だが、人ではない。


異様な灰色の皮膚。筋肉質な肉体。両腕は刃。

顔面に目、鼻、口は無く、歪に埋め込まれた水晶の一つ目。


無機質で、冷たい存在。


それは、目に入るもの全てを、躊躇なく、処分し始めた。


「逃げろっ!!」


一瞬の安寧から地獄へと変わる。

人々は逃げ惑い、地下は助けを求める叫びと命が奪われる断末魔が地下に木霊した。


アイシャとルミナスが駆け出す。


「!……あれは何っ?!」


「鑑定します。」


アイシャが異形の人型に驚きつつも、

ルミナスが鑑定眼を起動する。


《解析開始――》


だが、次の瞬間。


《ERROR》

《構成式不明》

《解析不能》


「鑑定、不能……?」


前例のない事態。


アイシャが抜刀し、斬りかかる。

だが、両腕の剣が噛み合い、火花が散る。


「……っ!」


刃が、通らない。


その時


「目だッ!!」


レインの声。


補助器具を付けた脚で踏み込み、杖を突き刺すと、水晶に直撃。


ひびが入り、異形の動きが止まる。


弱点への理解の早さにアイシャは驚くが、破られた天井から同型の異形が複数、出現。


「こいつらは、回収した資料にあった人造の魔物だっ!

核の水晶が弱点だっ、そこを狙えっ!」


レインが指示し、アイシャもルミナスも体勢を立て直す。


地下は混乱に包まれ、逃げ惑う人々を逃しつつ、レイン達は迫る刃を防ぐ。


「どうして、ここがバレたのっ?!」


アイシャが息を切らしながら怒号する。


「俺のせいだ……

俺が受けた傷の血で追跡してきた……」


レインが歯を食いしばって答える。


しかし


「後で話す……今は目の水晶だけ狙え」


現状細かい事を考える暇は無い。


確実に数は減らすも、一匹一匹が手強く、弱点が判明しても、記録にない敵から、ルミナスでさえも手間取る。


「……間に合わない……!」


アイシャが押され、異形に刃を弾き返される。


「しまっ……」


アイシャが体勢を崩し、異形の刃が振り下ろされる。


その瞬間。


乾いた音。


ボウガンの矢が、水晶を撃ちき、異形が崩れる。

アイシャがボウガンを撃った方向に目を向ける。


「……シャービス!?」


そこにはボウガンを構えたシャービスが立っていた。


「ほとんど避難は終わった!

道を用意してる、今すぐ退け!!」


レインは頷き、合わせてルミナスとアイシャも掛け出す。異形の殆どが倒れ、撤退の機会。


だが――


倒しきれていなかった一体が、最後の足掻きと起き上がる。


「アイシャっ!!」


レインが気づき、声を掛けるが

アイシャの背後で、凶刃が振るわれる。


血飛沫。


地下に、鮮血が舞った。

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