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20話 五章 守護騎士ヴァロス⑤

準都市 《アーガス》都市外。


数日間の魔物の群れによる襲撃の原因であった迷宮の入口は、すでに沈黙していた。


石床には討伐隊が残した血痕と、魔物の骸。

壁に刻まれた傷跡は新しく、ここ数日でどれほどの戦いがあったかを物語っている。


「……危険は、ないな」


ヴァロスが低く呟く。


「報告によると、迷宮の主は討伐されたと聞いています。」


レインは杖に体重を預けながら、静かに答えた。


二人きりで迷宮を調査するという提案は、ヴァロスからだった。


魔物襲撃の原因を確かめる。表向きはそれだけの理由。

だが、ヴァロスの胸中に別の目的があった。


迷宮の最奥。

巨大な空洞に辿り着いた時、ヴァロスは足を止めた。


「……ヴァロス、どうした?」


レインが尋ねると、ヴァロスは無言のまま、

背負っていた大盾を外し、地に立てる。


黒と金で彩られた《沈黙の岩壁》。

そして、腰の幅広の剣に手をかけた。


「カイン……いや、今はどう呼べばいい?」


ヴァロスが与えた名前を、硬く発する。


レインは一瞬、目を伏せた。


「……どうしたんだ? 怖い顔をして。」


ヴァロスは剣を抜く。

切っ先が、レインを向いた。


「答えろ……あれは、お前の仕業か」


戸惑ったように、レインは一歩後ずさる。


「な、何を言って……」


ヴァロスは唇を噛み締め、なんとか言葉を発する。


「ライル、ブロウ、フェニス……奇跡的に生きていたお前が俺の前に現れた時期と、あいつらの末路……偶然にしては出来すぎている。」


「…………」


レインの反応は沈黙。

ヴァロスの問いは続く。


「エレナに言われたんだ……お前は本当に、あの時の記憶が無いのか?」


ヴァロスの声が、震えを帯び、迷宮内に声が響いた後、再び沈黙。


一拍し、レインは額にかかった髪をかき上げた。


その瞬間、空気が変わった。


これまでに見せていた助言者であり、友であった顔は消え、そこにいたのは鋭く、冷え切った瞳の男だった。


その姿にヴァロスは悪寒を感じた。


「……やっと、聞いたか」


レインは、静かに言う。


「で? 何て答えて欲しい?

答え次第でその剣を振るうつもりか? 

それとも、正義の名のもとに、俺を断罪するのか?」


ヴァロスは歯を食いしばり、問い詰める。


「……理由を聞きたい。お前は……俺を殺すつもりだったのか」


レインは鼻で笑った。


「……思い当たる事がないと思っているのか」


その言葉に、ヴァロスは声を上げる


「俺は、お前を傷つけてないっ! やったのはグランだっ!!」


「なら、何故、助けなかった……弁護もせず、黙ってたじゃないか……」


レインの淡々と放つ一言に、ヴァロスは沈黙し息を呑む。

その後も続ける。


「……お前は《光輪》の中では、悪い人間じゃ無い……だから、記憶が曖昧な振りをして、試したんだ。


もし、真実を語り、奈落で見捨てたことを恥じ、自分の口で謝罪してたら、俺も躊躇したかもしれない……」


レインが一歩踏み出し、続ける。


「だが、言わなかった。

笑顔で私に食事と居場所を提供してくれたが……塗りつぶそうとしたんじゃないか?」


レインの指摘に、ヴァロスは叫んだ。


「違うっ!

俺は……お前を助けたかった!

だが、あの時の私には出来なかった……お前に会うまでずっと後悔していたんだっ!!」


レインは目を数秒閉じ、思い出に耽るように答える。


「事実、ボロを着て近づいた際、お前は脇目も振らず俺に駆け寄ってくれた……


与えてくれた温かい食事、衣服、居場所も全て嬉しかった……


お前と協力して仕事をした時も、結成当初の《光輪》を思い出せた……だが……」


レインの声が低くなり、目の鋭さが増す


「エレナの讒言一言で、お前はすべてを疑った……結局、お前は流された」


ヴァロスの胸は、締め付けられるような気持ちになる。


「お前は悪人ではない。

だが、己の弱さを理由に主張せず、沈黙して傍観に徹する……タチの悪い卑怯者だ。」


その瞬間、ヴァロスの理性が切れた。


「黙れぇぇっ!!」


剣が振り下ろされ、衝撃と轟音が迷宮内に響き、地面に共に大きな地割れと粉塵が舞った。


ヴァロスが確かな一撃を感じ、構えを解こうとした瞬間、粉塵より一足踏み込み込んだレインの杖がヴァロスの首に弧を描く


ヴァロスは驚きつつも反射的に大盾で防ぎ、一歩引く


「お前……戦えたのか?」


ヴァロスが息を荒げる。

《光輪》では修復と雑用を務めていた男から、迷いのない一撃。


「得意じゃないさ……だが、お前達に同じ絶望を味合わせられる為に、下手ながら覚えたよ。」


杖を片手で構え、レインの冷たく鋭い目つきから伝わる覚悟。


ヴァロスは盾を構え、叫ぶ。


「《沈黙の岩壁》……解放ッ!!」


轟音が空間に響く。

体幹が強化され、巨岩のような圧が放たれる。


落石の如き、突進。


レインはヴァロスの剣を杖で捌き、突進も寸前で避け続ける。


「昔からだ、ヴァロス」


レインの声が迷宮に響く。


「意見を言わず、沈黙でやり過ごす……今も同じだ。


俺が助言を与えなければ、今もお前は案山子……いや、岩の方が正しいな。」


レインの挑発は続く。


「主張せず、沈黙し、流されるまま……本来のお前はそこらの石同様、誰にも気にされず、蹴られたらそのまま転げ落ちる存在だ。」


ヴァロスはレインの挑発に怒り、

能力を連続で解放する。


嵐のよう猛攻が続く。


だが、ヴァロスは体に違和感を覚える。


激しい動きをしているにも関わらず、疲れは感じない。

しかし、足が重く、剣を握る手の感覚が、薄れていく。


「……何だ、これは……」


レインは立ち止まり、告げた。


「忠告はしたはずだ……日を跨がず連発で能力を使えば痛覚などの感覚が鈍る……。

最終的には感覚が無くなり、体は石化する。」


ヴァロスの目を見開き、改めて手足の先から徐々に感覚が感じなくなり、肌が石化していく事に気づく。


「ま、待て……! 助けてくれっ!

死にたくない……!!」


顔面蒼白に狼狽するヴァロスにレインは静かに言う。


「……最終的にお前は完全な岩となる。

これまで同様に声を発さず沈黙を貫いて生きる……お前そのものだ。」


「た……たす……け…」


ヴァロスの掠れた声が聞こえる


「安心しろ、石化は意思が健在のまま、死ぬことはない。」


レインの一言にヴァロスは絶望とも後悔とも判別つかない顔へと変貌し、盾が嵌め込まれた巨大な岩塊となった。


レインは岩塊になるまで見届けた。

ヴァロスから貰った、羽織っていたローブを脱ぎ、地に捨てて、その場を後にした。


迷宮を出ると、夜風の中で二つの影が待っていた。


「……お疲れ様です、マスター」


ルミナスが静かに言い、レインに普段の黒いローブを羽織らせる


アイシャは、レインの顔を見て眉をひそめた。


「……なんか、元気ないね」


「……少し疲れただけだ……」


その後もレインは小さく呟く。


「……後悔してるの?」


アイシャの問いに、目を瞑る。

一拍の後、レインは答える。


「ヴァロスは悪人じゃ無かった……

自らの弱さを認め心から謝れば、盾を取り上げて、黙って姿を消す事も考えた……選んだのは本人だ……」


アイシャはそれ以上に聞くことはせず、レインの背中をただ、見ていた。


後日。

ヴァロスは失踪したことになる。

迷宮に潜む魔物の残党狩りでの戦死など噂が飛び交うが、真実を知らないまま準都市は英雄を失った。


だが、彼が身一つで騎士達を導き、準都市を守ろうとした功績と名誉は汚されなかった。


それは、復讐者が残した、

ほんのわずかな優しさだったのかもしれない。


歯車は、また一つ回り終えた。

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