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15話 四章 魔術師フェニス④

闇夜の空に轟音が鳴り響く。


ルミナスの手により、放たれた魔法弾は、レインではなかった。


銃口はレインの逆に向かれ、一直線に飛んだ光は、フェニスの背後にいたローブ姿の魔法兵士の一人を貫き、肉と骨を焼き焦がして地面に叩き落とす。


「……えっ?」


フェニスの表情が凍りついた。


次の瞬間、ルミナスが一足、フェニス達に踏み込む。


銃身と化していた右腕と刃を出した左腕で淡々と、魔法兵士が詠唱に入るより早く、刃が振られ、光弾が放たれる。


一人、二人、三人と、魔法兵士達の首が落ち、胸が貫かれ、体の何処かが切断される。


叫びも悲鳴も、途中で途切れた。


無表情のまま、確実に、効率よく。

まるで作業を行うかのように、ルミナスはフェニスの部下たちを排除していく。


「……ルミナス! 停止だっ!停止しろ!!」


フェニスは後退りながら叫ぶ。


だが、返答はない。


最後の一人が倒れ、夜の廃村に静寂が戻る。


残ったのは、フェニス、ただ一人。


「ば……馬鹿な……」


フェニスは自分の片眼鏡に触れた。


「(異常はないはずだ……魔力同期も、神経接続も……!

勿体ないが、このままでは殺されるっ!)」


フェニスは焦りを隠せぬまま、魔法の詠唱に入る。


「《業火》っ!」


フェニスの十八番である、強力な炎を放つ、攻撃魔法。


しかし、発動しないせず、魔力が空振りするように霧散した。


「(何故だっ!? 焦って魔力を練り間違えたか?!)」


「《雷槍》っ!!」


変わらず沈黙。


「《氷刃》っ《炎陣》っ《空裂》っ……!」


上級であろう攻撃魔法を連続で唱える。

しかし、どれも発動しなかった。


フェニスは自分の手を見る。

小刻みに震えている。


「……どういう、ことだ……」


レインは冷たい眼差しで狼狽するフェニスを眺める。


⸻ ⸻ ⸻


時は遡り、フェニスが取引を持ちかける三日前の深夜。


レイン一行は宿屋で眠っていたが、静かな声がレインを、起こす。


「マスター」


目を開けると、ルミナスが立っていた。


内密の雰囲気を察し、隣のベッドで熟睡する、アイシャを起こさないよう、部屋を出て廊下で語る。


「……尾行されています。距離は一定。」


レインは、天井を見つめたまま、一拍の沈黙。そのまま、口を開く。


「……一体誰が?」


「遠目でしたが、紋章がついたローブを羽織った魔力の高い兵士と見受けられました。」


「………あいつか……」


フェニス・ロウド。彼の尾行で有ることにレインは気づいた。


「襲撃されたらお互いに無事では済まないが……今攻撃してこないのはどんな意図が……」


今までは準備を万全にしての復讐であった。

その為、後手に回った際の対策を考えなければならない。

熟考するレインにルミナスが口を開く。


「彼らはマスターよりも私に対しての監視に近い印象でした。マスターの協力者として私が狙われているのであれば対策案を提案します」


ルミナスは淡々と話す。


「体内に爆発系の魔道具を設置し、敵が接近、もしくは、私が鹵獲された場合、即時自爆。

敵戦力を削減できます」


レインは答えず、沈黙。


「……」


沈黙するレインに、ルミナスが声をかける。


「マスター?」


「……却下だ……それは選ばない」


レインは、低く言った。


「理由を」


「……たった1回の襲撃でお前を失うのは対価に対して釣り合わない」


ルミナスの問いに、それだけ答えた。


「……了承します」


ルミナスは、わずかに首を傾げ、返答する。

そして、レインは言った。


「フェニスがお前を狙っているのなら、鹵獲の可能性はある。だったら……」


その夜、レインはルミナスの体の最深部に制御装置を仕込んだ。


解除条件は、特定のキーワード。


それは、前任者が、彼女を想って呼んだ名。


「……『レイナ』だ」


レインに処置をされながらルミナスは聞く。


「アイシャ様には作戦の概要は伝え無いのですか?」


レインは一瞬、同室のベットで安らかに寝ているアイシャを見る


「敵を騙すなら味方からだ……嘘をつけるとも思えないし、ちょうどいい」


こうして、レインは対策を講じた。


⸻ ⸻ ⸻


時は現在に戻る。


狼狽するフェニスに煙管を吹かしながら、低く答えたのはレインだった。


「解析は、一方通行じゃないって話だ」


瓦礫に背を預けたまま、レインは静かに笑う。


「お前が片眼鏡を通して、ルミナスを解析したように……ルミナスもまた、お前を解析した」


フェニスの顔が歪む。


「魔力干渉、術式構造、詠唱癖……自ら神経と同期したおかげで、鎖を首に巻く手間が省けた……」


レインは続ける。


「……人より抜きん出て無いと気が済まないお前なら改良を考え、わざと落とした皮手帳にある改良案を採用するだろうと踏んでいた……全てお前を刺激するための餌だ」


フェニスの瞳が見開かれ、理解した。


「……最初から、嵌めるつもりだった、のか……」


レインはとぼけた雰囲気で肩をすくめる。


その時、フェニスの視線がルミナスに向いた。


「……くっ……」


声が震える。

完全な敗北。フェニスに逆転の余地は無い。


「ま、待てっレインっ! 俺が間違っていたっ! だが、互いに手を取り合える筈だっ!!」


この場を乗り切るための明らかな嘘。


フェニス・ロウド。

かつては《光輪》の魔術師として多彩な魔法で活躍し、賢者にまで上り詰めた天才。

それが髪を乱し、冷や汗をかきながら余裕のない表情で媚びている。


レインはフェニスの弁明を最後まで聞かなかった。

傲慢な男の見苦しい姿に、溜飲がさがる。


「……謝罪なら彼女にもしろ」


レインが冷たく低い声で言い放ち、ルミナスに視線を向ける。


「ルミナスは君の傑作だろっ? 

だから、こうして謝っているんだっ!!」


フェニスは分かっていない。

レインは呆れ果て、ルミナスに命令する。


「……処遇を任せる。君が判断しろ」


「了解しました」


ルミナスは静で頷き、ゆっくりと足を運ぶ。


尻餅をついたフェニスが後ずさる。


「まっ……待ってくれっ……頼む……」


そこには賢者でも、策士でもない。

ただの、命乞いをする男の姿であった。


ルミナスの口が開く


「フェニス・ロウド、貴方に鹵獲されていた間の音声や映像も記録しています。

貴方は魔術師としては優秀であったのは事実でしょう。

しかし、自分以外は凡愚と見下し、部下や技術者も駒として考えている……」


ルミナスが罪状を読み上げる様に、淡々と続ける


「何より、私を修復したマスターと、生みの親である、前任マスターに対する侮辱。

私は本来であれば感じませんが、人間の中で最も近い状態を表すのであれば……

"怒り"です。」


ルミナスの両腕が鎖鋸へと形を変え、小さな刃が巻かれる異音が発せられる。


次の瞬間。


声にもならない断末魔が夜を裂いた。


フェニス・ロウドは、

四肢を失い、視界と音を奪われ、

それでも生かされたまま、地面に転がされていた。


知性も、傲慢も、支配も――

何一つ行使できないまま。



返り血で汚れながらも、ルミナスは静かにレインの前に戻る。


「……マスター」


少しだけ声が揺れ、跪く。


「お見苦しい所をお見せしました。それと……貴方に攻撃を行いました。申し訳ありません」


レインは一瞬、目を細める。


「計画の内だ……戻ってきてくれて、それでいい」


やれやれ、と言いたげに笑った。


その様子を、呆然と見ていたアイシャが、ようやく声を上げる。


「……ちょ、ちょっと待って!

いつから!? 全部……作戦だったの!?」


「……フェニスが取引を持ちかける3日前。」


レインが呟くと、アイシャの顔が赤くなる

自分だけ作戦であるにも関わらず、状況を真に受けて、ルミナスを救おうとし、レインにも啖呵を切ったのだから。

アイシャの表情に出やすい所も含め、作戦として進めた。


次の瞬間、アイシャはルミナスに抱きついた。

堪えていたものが、ようやく溢れたように。


「……よかった……」


震える声。


ルミナスは戸惑いながらも、動かなかった。


夜が明け、日の出が3人を照らした。


失われかけた片腕は、戻り。

生じた亀裂は、塞がれた。


「そう言えば、ルミナスに攻撃されそうになった時に言った謝罪は本心なの?」


アイシャがレインに問いかける。


ルミナスも視線を向けられ、レインは顔を背ける。


「……特定キーワードを言う為の芝居だ」


嘘だと言い切れない沈黙が、朝の光の中に残った。


残り3人。

復讐の旅は、転換点に差し掛かり、

次の段階へと進み始めていた。

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