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12話 四章 魔術師フェニス①

ブロウを罠に嵌めてから、一週間。


追手が迫る気配はないが、安堵にはほど遠い。

夜の森には冷え切った風が吹き抜け、焚火の炎だけが小さく揺れている。


レインは薪をひとつくべると、アイシャへ視線を向けた。


ルミナスは両手を揃え、目を瞑り給仕らしくレインの背後に佇んでいるが、周囲の警戒を怠らない。

 

彼女は焚火を見つめたまま、剣を抱くようにして座っている。深夜の静けさが、妙に人の心を押し出す時間だった。


「…………」


「…………」


「…………」


焚き火が弾ける音のみが響き沈黙が続く中、最初に口を開いたのはレインだった


「……聞きたい事がある顔だな、アイシャ」


アイシャは見抜かれた事に驚くも、恐る恐る聞く


「……今更だけど、どうして私の仇討ちに肩入れしたの?」


アイシャがレイン達と同行して1週間経ったが機会を逃し、聞きづらい事を聞いてきた。


レインは煙管煙草をふかし、一呼吸おいて答える。


「復讐対象の一人が同じだった……それだけじゃ納得しないか?」


アイシャは息を呑み、レインの話を聞く。


「ブロウだけじゃ無い。まだ、俺の復讐は終わっていない……」


レインは少しだけ目を伏せた。

同行者が増えた今、隠したままでは歩けない。


レインは、ほんの僅かだけ目線を落とした。


「昔……俺はブロウと同じ《光輪》の一員だった……」


アイシャの目が大きく開かれる。


「もっとも、戦闘員じゃなく、修復師としてだが……最初は武器や道具の修理も、魔具の管理もして、貢献したつもりだ……だが、武具が業物になり、壊れなくなれば、修復師なんて荷物だ」


レインは火を見るような視線で言葉を続けた。


「俺は奈落に落とされた。勇者の剣でな」


焚火の火花が、一瞬赤く跳ねた。


「パーティー全体の評価が下がる……追放だと、悪評を広められる……そんな理由で捨てられた」


アイシャは拳を固く握る。


「許せない……」


レインは少しだけ驚く。

その言葉は信頼だった。

裏切りと失望で腐った心の中に、温度が灯る。


「あとは4人……そいつらを潰せば俺の復讐は完遂する……」


その刹那だった。


ルミナスの瞳が見開き、鋭く森を射抜く。


「──接近反応多数」


レインとアイシャは同時に立ち上がり、アイシャは抜刀の構えを取る。


乾いた足音が森に染み込み、

ローブ姿の魔術師達が姿を現した。


その中心に、片眼鏡の男。


両手を挙げ、掌を前に出し、敵意の無さを誇示しながら進み出る。


月光が、その顔を照らした。


「……久しぶりだなぁ、レイン」


フェニス・ロウド。

元《光輪》の魔術師。

今は、独立魔術機関マグナスの若き賢者。


復讐の標的である1人が、目の前に現れたのだ。


「……いつから尾けていた」


レインは問いつめる。


「前から、だな?お前が思っているよりもずっと……。」


フェニスの人を見下す言葉。

レインは目を閉じ、嘲笑を混ぜて吐き捨てる。


「へぇ……じゃあ、この場で殺される事が望みか……」


レインが低い声で挑発すると、フェニスの部下である魔術師達が構える。


「落ち着けレイン……攻撃は不要だ。

協力を持ち込むためだよ」


フェニスは淡々と制し、魔術師達は警戒を解く。


「警戒する気持ちは分かるが、今の俺たちの目的は同じ。

俺の組織は王国と対立している……当然の話だ。凡愚に従う理由は無いからな」


フェニスは両手を広げながら語る。


レインは鼻で笑い、問う。


「で? 何が言いたい」


フェニスの目が、真っ直ぐにレインを射貫いた。


「……協力しないか?」


焚火が揺れ、影が三つと一つに濃く伸びる。


「グランとは昔から折り合いが悪い。

今は王国の英雄だが、私は鼻持ちならない馬鹿に頭を下げる趣味はなくてね」


レインの瞳が細まる。


フェニスは続ける。


「事が起こった際に有利な情報を掴むためにライルやブロウに密偵を付けていた。

そこで知ったんだ……奴らは死に、犯人はお前だと」


場の空気が凍りついた。


フェニスは笑う。


「レイン……私のような権力者の協力なしにこのまま復讐を続けるのは困難だ。」


核心を突く言葉。


アイシャが動揺し、ルミナスが沈黙する。


フェニスの言う通り、市井の情報収集や、敵を尋問するにしても限界はある。


フェニスは提案を続ける


「まずは、友好の証として道具を作ってくれ。

対価にお前が欲しい物を用意してやる。」


レインは数秒だけ目を閉じ、ゆっくりと口を開ける。


「昔から俺を見下し、奈落へ落ちた時も助けなかったクセに……信じろと?」


「当然だ。当時のお前は、道具いじり以外は無価値な存在だった……だが、今の価値は別物だ。生き残ったお前が証明している。」


フェニスの笑いながら、自身の行いを正当化する発言に、場は沈黙する。


「……どんな道具がお望みだ?」


レインの返答にアイシャは驚く。

それに対し、フェニスの口角はゆっくり上がる。


「理解が早くて助かる。

私が望むのは、相手の筋力や魔力、魔法属性……すべてを見抜ける解析道具だ。君の従者のようにね」


視線がルミナスへ向かう。


彼女もフェニスの視線に無表情で応じる。


レインは迷わず言う。


「グラン、エレナ、ヴァロス……残るメンバーの情報をすべて寄越せ。

もちろん密偵による最新の監視記録付きでな」


「ああ……もちろんだ」


フェニスは黒い笑みを浮かべた。


レインが頷く前、アイシャが言いかける。


「レイン、でも……」


レインは手で制した。


「いつ完成する。」


フェニスが問いに、レインはすぐに返す。


「……3日……。」


「では4日後に、この先の町にある酒場で……そこで目的の物を渡そう。」


「……交渉成立だ」


焚火の火花が舞い上がる。


こうしてレイン達は、

憎み合う世界の中で、

最も危険な同盟を結んだ。


──復讐の旅は、さらに深く沈んでゆく。

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