7、初めての依頼
初日の食堂は大成功だった二人。
身体の疲れはあったが、それがまた良い睡眠に繋がったようだ。二人の朝の目覚めは最高に爽やかだった。食堂へと向かうと、朝の支度をしているモリーと目が合った。
彼女たちは二人よりも遅くまで働いていたはずだ。それなのに既にキビキビと動いている。二人は素直にすごいなぁ、と思いながら朝食を食べた。
モリーに見送られ、二人はギルドへと向かう。
朝食をゆっくり食べたこともあり、ギルド内は昨日のように閑散としていた。二人の登場に昨日鉢合わせた者たちは見惚れ、逆にいなかった者たちは目を見張る。
そして昨夜二人が働いていた食堂で食事をした冒険者たちは、小声で彼女たちの名前を確認しあっていた。
そんな視線をものともせず、二人は依頼掲示板へと歩いていく。
掲示板で依頼を見ている者は誰もいなかったようで、二人は並んで吟味し始める。
「上位の依頼になると、討伐依頼ばっかだね〜」
「大型の魔物系が多いんだな。そこはあちらと変わらないな」
「でもあの国より依頼数は多い気がする? やっぱり聖女関係かな?」
「そうだろうな」
帝国はグランデ王国とランディア王国に比べると、聖女の数が少ないと言われている。しかし、帝国の領土は二国よりも広いのだ。そのため、王国よりも瘴気から生まれる魔物が多いと言われていた。
ミナとレアが暮らしていた王国では、周囲の者たち……特に王侯貴族たちは『軟弱な聖女しかいない国』と言って帝国を見下すような発言が多かった。けれども、ミナもレアも思ったのだ。聖女が少ないのに国を成り立たせている……つまり聖女に頼り切っていないということだ。帝国の為政者は、聖女をどのように扱っているかも気になる。
まあ、それは追々の話でいい。今は自由になったこの時間を楽しむまでだ。
二人の視線は下へ下へと降りていく。下段には街での依頼表が貼られていた。
「やはり街の中でできるものが一番だな」
「そうだね! 今日はそれにしよっ! どれがいいかなぁ……」
荷物運び、護衛、警備、害虫(獣)駆除……街の中でも色々な依頼が貼られていた。
その中でミナが目に留めたのは、地下水道の掃除だった。この依頼は指定された箇所の地下道をきれいに掃除するというものだ。これなら問題ないかもしれない、とミナは依頼表を手に取った。
レアは不思議そうにミナの手元を覗き込む。
「あ、地下水道の掃除? いいねぇ! 私、掃除好きだよ〜」
「これにしようかと思っているんだけど、どう思う?」
「いいよ〜。私も頑張るっ」
両手で握り拳を作って気合を入れるレア。それを見て、「これにしよう」と依頼表を受付に提出しようとミナは歩き始めた。
周囲は二人の会話に耳をそば立てていたが、地下水道の依頼と聞いて目を剥く。あれは、冒険者依頼の中で一番引き受けたくない依頼なのだ。地下水道は積年の汚れが溜まっているため、ブラシで掃除をしても汚れが落ちないのだ。
大人の男性が力を入れて擦ったら、ある程度きれいにはなるが……一時間程度で二十歩分いければ万々歳だろう。
周囲の冒険者たちは、二人にそのことを伝えるべきかと悩んだ。けれども、誰もそれを伝える者はいなかった。少し気後れしたからである。もちろん、食堂で働いているのを見た者たちもいるが、彼らは見守り会の一員であったため、話しかけることはない。
最後の頼みの綱はギルド嬢だったが、彼女はすんなりと受け入れてしまう。冒険者たちは、受付が終わり楽しそうに出ていく二人を見て、申し訳ないことをした……と感じた。
地下水道の依頼に関しては、別に全て掃除が出来なくとも依頼達成となるのだが……大変なことには変わりない。冒険者たちは、もう彼女たちの姿を見ることはないかもしれない、と思った。
二人は扉から出て、左側の路地に入る。地下水道の入り口は、ギルドの建物の後ろにあった。
入り口には扉が付いており、鍵を開けなければ誰も入れない仕様だ。もちろん、二人は掃除の依頼を受けた際に鍵を借りている。
中に入ると地下へと向かう階段があった。誰も入らないように鍵をかけて欲しい、とギルド嬢に言われていた。以前この依頼を受けた者が鍵を開けっぱなしにして、子どもが入り込んでしまったとのこと。鍵をかけるのはその対策だそうだ。
明かりもないため、ミナは魔法で辺りを照らせる球体を放つ。それは空中にふよふよと浮いている。
「わぁー! ミナ、それ魔法?」
「ああ。私は魔法も使える」
「すごーい!」
レアは感動していた。聖女が魔法を使える、そんな話は彼女の国……グランデ王国では聞いたことがなかったからだ。魔法を使うための『魔力』と瘴気を浄化するための『神聖魔力』は全く違うモノだとグランデ王国内では言われている。そのため、ミナは体内に『魔力』と『神聖魔力』の両方を宿しているということだ。
ちなみに、レアも含めたグランデ王国内の聖女たちの中で魔法を使える者はいなかった。文献を読む限り、魔法と聖女の能力の両方を使いこなしていた聖女は誰もいなかったはずだ。
「私は魔道具ぐらいしか使えないよ? 魔法が使えるくらい魔力があるなんてすごい!」
「そういえば、私の周りにも魔法を使える者は……侯爵令嬢くらいか。てっきり、私みたいに魔法を使える者が他にもいるのかと思っていた」
「グランデ王国内の文献だと、魔法も使える聖女はいなかったよ?」
レアの話を信じていないわけではないが、暗に希少な存在だと言われて困惑するミナ。自分がそんなに凄い人だとは思っていない。神聖魔力は多いが、ただ、それだけだと思っていた。
ちなみに魔法を使っていたと言われる侯爵令嬢は、もちろん魔法は使えず隠れて魔道具を使っていたのだが……ミナがその事実に気がつくことはないだろう。
戸惑う彼女をよそに、レアは笑って言った。
「魔法が使えるなら、冒険者として適性が高そうだね〜一緒に頑張ろ!」
「……そうだな」
そう告げるレアに、ミアは同意した。
先代大聖女が彼女に大聖女として期待をかけていたように……レアから、魔法使いとしての活躍を期待されているのかと一瞬感じた。けれども、それは杞憂だったようだ。
「私は前で戦うから、ミアは後ろから私を助けてね!」
花開いたように楽しげに話すレア。彼女はミアを対等に見ていた。もちろん、ミアも同じだ。
きっと彼女のこういうところに惹かれているのだろうな、と依頼を満喫している様子の彼女を見て、ミナは微笑んだ。




