51、sideミナ 暴走
――ズドォォォォォンッ!
鼓膜を震わせるよな轟音がミナのいる場所から鳴り響く。
それと同時に建物全体を軋ませるような……激しい上下動が二人の身体に襲いかかる。立つこともままならないほどの揺れ。足に力が入らず、床に膝をつきそうになった二人だったが……その膝が床へと着く前に、身体に衝撃が走った。
――先ほどより天井が近づいて見える。
王太子たちの意識は混濁しているからか、なす術もなく身体が天井へとだんだん近づいていく。それが凄まじい余波により、身体が吹き飛ばされたと理解できたのは、二人の身体が床へと容赦なく叩きつけられた時だった。
大司教は悲鳴を上げている右の二の腕を支えながら、前に倒れている王太子へと近づいていく。彼の容態を確認するためだ。
幸い気絶しているだけらしく、背中が上下に動くのが見える。致命的な外傷もなく、血が出ているというわけでもない。大司教は胸を撫で下ろすと、辺りを見回した。
室内は爆発の影響で、荒れていた。この場所は地下室だったのだが、ミナの頭上にあった天井はなくなり、ぽっかりと穴が空いている。周囲には瓦礫が散乱し、見るも無惨な姿になっていた。赤で統一されていた調度品は……焼けこげたような痕がついている物もあれば、粉々になっている物、半分が吹っ飛んでいる物など……ほぼ全てが破壊され尽くしている。
そして肝心のミナは部屋の中心にいた。
彼女は膝を抱えてうずくまっている。周囲には防御壁のようなものが張られているのか、彼女の側に瓦礫は落ちていない。彼女を連れて帰る必要があるのに、使い物にならないのは困る、そう思っていた大司教は彼女が無事であることに安堵を覚える。しかし、よく見ると彼女の目の前にあったはずの書類は、見る影もない。
先ほどの爆発で燃え尽きたのだろう。
もう一度最初から行う必要がある、と考えた大司教は、左腕を伸ばして魔力を込める。
「『エルミナ』防御壁を解除しなさい」
エルミナは彼らの言うことを聞く操り人形だ。話を聞かないのならまた操ればいい……そう考えて命令を出すが、彼女は縮こまったまま何も言わない。聞こえなかったのだろうと判断した大司教が、また命令を口にしようとした時……彼の頭に何かがぶつかってくる。
思うように動かない身体に歯軋りしながらも、大司教は落ちてきた物が何であるのかを確認し……。
彼は目を見張った。
それは、彼女の神聖魔力と魔力を吸い取るために付けさせていた腕輪……の残骸だったから。
腕輪は左右両方とも上部が壊れていた。この腕輪が吸い取る魔力を利用してエルミナを操っていた大司教は、眉間に皺を寄せ、左手を伸ばす。
「エルミナ! 壁を解除しろ! 早く!」
喉が焼けるように痛い。先ほどの衝撃で喉にも影響が現れているようだ。身体中の痛みがだんだんと増えつつあるが、彼女の力であれば治すことができる。そう思った彼は床に這いつくばりながら、ゆっくりと防御壁に近づいていく。
そしてやっとのことで辿り着いた彼は、身体を持ち上げる。そして防御壁を左手の拳で叩き始めた。
「エルミナ! お前は俺と殿下の言うことさえ聞いていれば良いんだ! 嬉しいだろう?! 早く防御壁を解除するんだ!」
防御壁はびくともしない。
ヒビすら入らない。
大司教が防御壁を叩く音が虚しく室内に響き渡る。
「お前は王国に必要だ! 今なら殿下に言って追放を取り消してやる!」
ひたすら左手で叩き続ける振動で、右の二の腕から血が少しずつ流れ出す。側から見ると、動けないと判断しそうな怪我であったが……『エルミナを連れて帰る』彼はこのことしか考えられていないのだろう。
「聞こえてないのか?! 早く解除しろと言っている!」
残された聖女たちだけでは、王国を支えることができない。
この事実を今の今迄、まざまざと突きつけられている。そしてこれが続くと、彼の失態となり――
そんな考えが、大司教の頭をよぎる。
彼は認めたくないのだ。
手を伸ばせば、捕まえられそうな位置にいるエルミナを逃したくない……その思いが痛みすら忘れさせるほど、気迫に満ちていた。
だがどれだけ叩いても、エルミナには手が届かない。
大司教は必死だった。
周囲の音すら耳に入ることはない。
だから気が付かなかったのだ。
この場に現れた侵入者の存在に――




