5、仕事を探そう
第5話より追加の話が始まります。
翌日。
夜更かしして少し寝坊した二人は、遅い朝食を食べてから冒険者ギルドへと向かう。宿屋の女将さんにギルドの場所を訊ねたところ、宿屋の前の道を左に進んでいけばあると言う。
彼女の言う通りギルドを見つけた二人は、重い扉を開けた。
扉には鈴が付いていたらしく、カランカランと綺麗な音色を奏でている。それと同時に少し温まった空気が二人の横を通り抜けていった。
初めての場所に緊張することなく、二人は悠然と室内へ足を踏み入れた。
ギルド内は閑散としていて、人がまばらだった。どうやら多くの冒険者たちは既に依頼を受けて出立しているのだ。それでも掲示板の前には冒険者たちが何人かたむろしているし、受付で依頼表らしき紙を提示している冒険者もいる。
冒険者たちは鈴の音を聞いて、普段と同じように扉へと視線を送った。扉の鈴が鳴ると、条件反射で誰がギルドに入ってきたのかを見てしまうのだ。
普段のように朝一で依頼を通した者たちが、そろそろ帰ってくる時間だ。今回もいつもの顔馴染みだろう、と考え……。
見覚えのない美しい二人の女性を目の当たりにし、誰もが口をあんぐり開けていた。
一人は口を一文字に結び、受付を見据えて優雅に歩いている。どこか冷たい印象のある美人だ。もう一人は初めてギルドに入ったと言わんばかりに、周囲を見まわし挙動不審である。けれども、庇護欲をそそられる可愛らしい顔をしていた。
系統の違う美人が二人並んで歩いているのだ。ギルド内にいた者の目を惹くのは当たり前だ。
ちなみに魅了されたのは冒険者だけでない。受付にいたギルド嬢もであった。
二人に見惚れていたギルド嬢は、ミナが「冒険者登録をしたい」と彼女に話しかけたこともあり、唖然とした。
あまりにも驚いたので、二人に思わず訊ねてしまう。
「あの……依頼の間違えではありませんか?」
「ううん、冒険者登録をしたいの!」
あっけらかんと話す可愛らしい女性。それに同調している美しい女性。この二人が冒険者登録? とギルド嬢は思ったが、ギルドは来るもの拒まずである。職務を思い出したギルド嬢は、手続きのための書類を二枚手渡した。
「わ……分かりました。では、こちらに必要事項を記入いただいてもよろしいでしょうか? 記入するペンはあちらにご用意しておりますので、書き終えたらまた窓口に持ってきていただけますでしょうか?」
「分かりました。はい、レア」
「ありがとう〜! ミナ!」
二人は申し込み用紙を受け取り、指示された場所で書いていく。
美人な女性二人が冒険者になった――周囲で二人の様子を見ていた冒険者は、すぐに知り合いに話していく。そのためすぐに噂として広まることになった。
依頼掲示板に貼られていた依頼表を一通り見た後、二人は宿へと戻る道すがら話し合っていた。冒険者の依頼の中には瘴気から発生した魔物の討伐もある。この依頼に関しては聖女である二人の大得意分野ではあるが……ひとつ問題があった。
「装備が必要だよねぇ……」
「そうだな」
今二人が持っている物は、普段着数着と古ぼけた鞄と硬貨数枚だ。武器などは全く持っていない。流石に普段着で討伐に行くのは心許ないのだ。
採取依頼も街の外で行うので、魔物の脅威を完全に排除することはできない。つまり、冒険者として活動するのであれば、武器と防具は絶対なのだ。
「あとは、少し体力が落ちてる気がするから……体力をつけたいなぁ〜」
レアの言葉にミナも同意する。
「ああ。魔物が六十現れたら、耐え切れる自信がない」
「分かるぅ! 昔は問題なかったんだけどねぇ」
……二人は気がついていないが、依頼表に書かれていた討伐依頼は多くても三十匹以下である。本人たちはどれだけ自分が規格外なのかを、知らないのだ。
誰も二人の会話に横槍を入れることができないまま、話は進んでいく。
「最初は一番下にあった街の清掃依頼を受けてみるか?」
「そうだね! それでコツコツお金を貯めてから装備を買おう!」
そのとき丁度宿に到着する。まず何の依頼を受けようかと話しながら宿へと入ると、目の前にいた女将さんが目を丸くしながら二人に声を掛けてきた。
「悪いね。今小耳に挟んだんだけど、お嬢ちゃんたち二人は冒険者登録したって本当なのかい?」
「そうなんです! 冒険者になってみたかったので!」
満面の笑みで話すレアに女将さんは、「そうかい、そうかい」と楽しそうに相槌を打つが……何かを思ったのか、眉間に皺を寄せる。
そして二人の服装をじっくりと見てから、口を開いた。
「ちょいと待ちな。……あんたたち、まさかその恰好で依頼に出るってんじゃないだろうね? 装備は?」
「いや、持っていないです。だからまずは街中の依頼を受けてから、お金を貯めて装備を購入しようと考えてます」
ミナが淡々と話をする中で、レアが「楽しみだなぁ」と笑っている。そんな楽観的な二人の様子に女将さんは少し悩むと、音を立てて手を叩いた。
「アンタたち! それじゃあ、少しお小遣い稼ぎをウチでするのはどうだろうよ? 実は今人手が足りなくてねぇ。人を入れようと思っていたところなのさ」
「小遣い稼ぎ……ですか?」
首を傾げるミナに、女将さんは丁寧に教えてくれる。
「ああ。今、夕食の時間帯の人手が足りなくてねぇ。その時に注文聞きと配膳をお願いしたいのさ。それをやってくれるんなら、食住は提供しようじゃないか!」
二人は女将さんの提案に目を見張る。呆然としていた二人に彼女は片目を瞑り、満面の笑みで人差し指を立てた。
「ひとつ目。仕事前か後に『賄い』をつけようじゃないか。これで一食分は浮くだろう?」
女将さんの提案に、前のめりになって聞く二人。特にレアは食事と聞いて、口を半開きにしており今にも涎がこぼれそうである。
ミナもとてもありがたい話だと思った。やはりお金が掛かるのは食費と宿泊費。それのひとつが安くなるのだ。使える物は使う、それがモットーのミナにとっては、断る必要のない提案だ。
二人の食いつき様に好感触を得たと思ったのだろう。女将さんは次に中指を立てた。
「ふたつ目。ついでに部屋を無料で貸し出そうじゃないか。ただ宿の部屋じゃなく、アタシの住居の二階の空き部屋を貸す形になるがねぇ。物置みたいな部屋ですまないけど、広さはそこそこあるだろうよ――」
「やります」
女将さんを食い入る様に見ていたミナは、ふたつ目の条件を聞いた瞬間に、これでもかと言うほど大きく目を開いた。食事だけではなく、住居までも貸してくれるなんて好条件すぎる。
そう思ったけれど、やはり食事と住居の提供というありがたい話をミナは蹴ることができなかった。だって、お金は大事だ。
一方で、レアは首を傾げていた。
「ねぇ、女将さん。それは嬉しいんだけど、どうして私たちにそこまでしてくれるの?」
それはミナも思っていたことだ。前のめりになっていた身体をミナは少しずつ戻していく。女将さんはレアの言葉に少し驚いたのか、おや? という表情で彼女を見ていたが、微笑んで言った。
「アンタたちは良い相棒じゃないか。アタシは二人に是非配膳として働いてほしいんだよ。あけすけな話で悪いけどさ、こんな別嬪さんが二人もいたら、今日からお客が倍に増えるだろうよ! アタシらも売り上げが上がる、アンタたちはお金が貯まる、持ちつ持たれつの関係ってやつじゃないか」
「それにしては私たちが貰いすぎな気がするのだが……」
「いーのさ! 住居は使っていない物置小屋だし、賄いも食事量を見る限り、二人はそこまで食べる様な子じゃないだろうからねぇ!」
豪快に笑う女将さんに、二人は顔を見合わせる。お互いの瞳を見るだけで、ミナとレアは何を考えているかを理解できた。頷きあうと、女将さんへと顔を向ける。
「よろしくお願いします」
「頑張りま〜す!」
二人の言葉に女将さんはニヤっと笑う。そして後ろを向いて大声で叫んだ。
「アンタぁ〜! 今日から忙しくなるから、気合いを入れるんだよっ!」
ミナとレアは初めての経験だ。幸先の良い旅に、二人は微笑み合った。




