4、二人の聖女
「私はグランテ王国の大聖女候補だったアストレア! レアって呼んでね?」
「私はエルミナ。ランディア王国の大聖女だった。好きに呼んでほしい」
「じゃあ、ミナって呼ぶね!」
「分かった」
二人はノクスフェルド帝国へと繋がる道を歩きながら、色々なことを話した。
偶然出会ったレアは、ミナの予想通りグランテ王国の大聖女候補の一人だ。彼女は「聖女の力がない」と判断されて、追放となったそうな。
聖女の力はあるじゃないか、と不思議に思ったミナが、よくよく話を聞くと……レアは結界の維持や王侯貴族の治癒、瘴気に侵された動物――魔物との戦闘を主に行なっていたそうだ。
彼女に関しては、以前から仕組まれていたのかもしれないとミナは思った。レアを表舞台に立たせなかったことで、王侯貴族たちが口裏を合わせることができたのだ。
聞けば、街の人たちの治療も行っていなかったのだとか。話を聞く限り、やはりミナと同様に邪魔になったから追い出された可能性も高い。そうレアに告げると、最初彼女は目を丸くしていたが「なるほどねー」と呟いた。
「多分ミナの言う通りかなぁ。私が追放された時、街の人から『いい気味だ』と言われてさ。なんでだろうと思ってたけど……」
「貴族たちが情報操作していたのだろうな」
「はぁ、だからかぁー」
大きなため息をつくレア。
そんな彼女を見て、国のために聖女として頑張ってきたにもかかわらず、それすら認められないという事実にミナは目を細める。彼女は内心、とても怒っていた。もちろん、彼女を追放したグランテ王国に。
聖女としての彼女の実力は本物だ。それを搾取しておいて、ゴミのように捨てる。なんて浅ましいのだろう、と。
「こんなに素晴らしい神聖魔力を持つレアを追放するなんて……」
ミナは無意識にそう呟いていた。悔しさから唇を噛み締める。最初はそんな彼女の様子に驚いたレアだったが、自分のことでミナが怒っているようだと気づく。彼女はそれがとても嬉しかったのか、満面の笑みをミナに見せた。
「そう言ってくれて嬉しい!」
レアは飛び跳ねそうなほど、嬉しそうに身体を揺らしていた。まるで子うさぎのよう。
そんな姿が可愛らしく、ミナは思わずレアの頭を撫でていた。最初は驚いていたレアも、途中から触られることに慣れたのか、ミナの行動に身を委ねている。しばらくして満足したのか、顔を上げたレア。彼女はミナの顔を見て訊ねた。
「それよりも、ミナはどうして? 先代大聖女様に指名されたんでしょ? なんで追放されたの?」
「私は偽大聖女として追放された」
その件をレアに詳しく話していると、段々ミナの眉間に深い皺が刻まれていく。
「ええ?! 大聖女として選ばれてるのに?! そっちの国もどうかしてるよ!」
プリプリという擬音がつきそうなほど、ミナは足を踏み鳴らして憤慨していた。怒る彼女を見て、ミナは次第に頭が冷静になってくる。
そうだ、要らないと捨てられたのだ。それならばこれから関わってこないで欲しい。そうすれば、二人で楽しく過ごせるのだから……と。ミナとレアの性格は多分正反対だ。けれども、何故か波長が合った。
正直言えば、一人でどこか心細かった部分があった。けれども、二人いればなんとかなるような気がする。
ここまで数十分しかレアと関わっていないが、ミナは既に彼女に心を許し始めていた。
大聖女候補と大聖女という違いはあるが、同じ聖女。元平民。そして国から捨てられた者同士……もし昨日、ミナが宿屋に泊まっていなかったら。もしレアがもう少し遅く追放されていたら。全てが噛み合って二人は合流したのだ。これを運命と呼ばず、他になんと言うか。
ミナが、レアと出会うのは運命だったと認識していた時、レアもそれを感じていたようだ。
「本当にミナに会えて良かった! おかげで、行く国が決まったもの!」
彼女は目を輝かせてミナに笑いかけた。そんな彼女の楽しそうな雰囲気につられたミナの口角も上がる。
「私もレアと会えて良かった」
「うふふ、私達、相思相愛ね! 出会うべくして出会ったのかも!」
「きっとそうだな。これからもよろしく、レア」
「こちらこそ!」
二人は微笑み合う。ここまで笑ったのは久しぶりだ。
薄ら霧で覆われていた道が、少しづつ晴れていくような……ミナはレアの笑顔を見ながら、そう感じていた。
陽が落ちてきた頃。
二人は帝国の領土にある街へと辿り着く。ここは辺境地の中でも、非常に活気のある街なのだとか。王国へ向かう人たちは、必ずこの街を通るため、人の出入りが多いので賑やかなのだ。
街の中に入ると、もう既に辺りは闇夜に包まれていた。二人は門のところにいた衛兵から教えてもらった宿屋へと向かう。
幸い部屋を借りることができた二人は、部屋の鍵を閉めてベッドに倒れ込んだ。
「はー、疲れたぁー! 久し振りにこんなに歩いた気がするぅ……」
「……私もだ」
ミナは思った以上に体力が落ちていることを痛感した。
それはそうだ。王宮へ行く時の足は、必ず馬車を使う。聖女の時であれば、魔物との戦闘に駆り出されたこともあったが、大聖女候補になってからは、外出といえば王宮と教会の往復だ。
レアもミナと同じだった。
幾ら心が軽くなったとはいえ……疲れるものは疲れるのである。
二人はベッドの上に横たわり、ぼーっと天井を見上げた。
「ねぇ、これからどうしようか」
「それを私も考えていた」
二人とも幾らか手切れ金を渡されているとはいえ……合わせたところで一週間ももたないのは、お察しの通り。ミナは少し考えてから、言葉にする。
「私は近くの教会で以前のように勤めても良いかと思っていたが……レアも追い出されたのを見ると、それ以外の仕事をした方が良い気がしてきたな」
平民の聖女が二人も追い出されたのである。帝国が貴族出身の聖女を優先しているのかどうかなど、正直入ってみないと判らない。
けれど、追い出されたミナとしては、また王国の二の舞がここでも起きたら……面倒なのだ。
ミナがため息をつくと、レアも同じように思ったのか「そうだよねぇ」と疲れたように呟いた。
「私は前線で魔物を浄化してたから、冒険者のお仕事が気になっていたんだけどね……どうなんだろう?」
「冒険者か……」
ミナは考える。
大聖女になってからは、王都周辺でしか活動していなかったが……実は聖女時代よく辺境に派遣されていた。そのため、ミナも戦闘に抵抗がない。
それに彼女には、神聖魔法以外にも武器がある。
それも良いかもしれない、と思いかけていたミナ。彼女の背中を押したのは、次のミナの言葉だった。
「冒険者なら、色々な場所に行けるし……辿り着いた街を観光したり、美味しいものとか食べたり……のんびりしたくない? 今まであくせく働いたんだから、もう少しのんびり過ごしてもいいと思うのよね!」
「レアの言う通りだな。冒険者もいいと思う」
二人は働きすぎたのだ。その結果が追放だ。
正直冒険者がどのような職業かは分からないが、以前戦闘もこなしていた二人からすれば、そこまで苦にはならないだろう。
それに……。
「もし、冒険者が性に合わなければ……またその時考えればいい」
そうミナが呟くと、レアは目を輝かせて首を縦に振った。
「確かに! 色々やってみて、無理だったら教会に戻るのもアリだよね〜!」
レアの同意にミナも嬉しくなる。
自国に戻ることはできない……いや、頼まれても行きたくないが、幸い帝国の先にも国はある。ここがダメでも、他の国に行けばいいのだ。
二人の旅は始まったばかりなのだから。
ミナがレアの方へ顔を向けると、彼女は微笑んだ。
「「楽しみだね(だな)」」
目が合った二人は同じことを思っていたらしい。言葉が重なったことに驚いた二人は、最初目を丸くしていたが……すぐに吹き出して大笑いした。




