26、久しく忘れている感覚だった
あの後、すぐに寝落ちした二人。
どうやら初めての討伐依頼で思った以上に気を張っていたらしく、いつの間にか寝てしまっていたようだ。二人は朝日が昇る頃に目が覚めると、大きく伸びをする。
「やはり、モリーさんの言葉に甘えて休んだのが良かったか」
「そうだね! 私も疲れてたみたい」
昨日配膳の仕事もしていたら、きっと寝坊していただろうなとミナは思う。王国では彼女を止める人がいなかったけれど、今思えばあのまま突き進んでいたら……いつか身体を壊していたような気がする。
そういう意味でも追放されて良かったのだろうな、と彼女は思う。
「ミナ、どうしたの? まだ本調子じゃない?」
眉間に皺を寄せて考え込んでいたからか、レアが不安げな表情でミナを見ていた。彼女は最初レアの表情に驚いて目を白黒させていたけれど……案じている様子に気づき、嬉しさからか口角が上がる。
「いや、大丈夫だ。休みは大事だと思っていた」
そう伝えると、レアは笑顔を見せる。そして何度も頷いた。
「うんうん、ミナは頑張り屋さんだからね! 少し気を抜いたっていいんだよ」
「ああ、ありがとう」
満面の笑みを浮かべているレア。そんな彼女の笑顔を見て、ミナは心からの安らぎを感じていた。
気力を取り戻した二人は、心機一転ギルドへと向かう。まだギルド内が賑わう時間ではないが、冒険者たちが依頼掲示板を見たり、テーブルに座って話し合ったりしている。
二人も他の冒険者たちと同様に掲示板へと向かう。昨日はゴブリンの依頼を受けたのだ、今日はどの依頼を受けようかと考えていたところ……ギルドの女性職員の人に二人は呼ばれる。
どうやら、二人の昇級が確定となったらしい。
昇級の手続きを行うから、と二人はギルドカードを職員に提出する。彼女から「手続きは少し時間が掛かる」と言われたため、二人は依頼掲示板を見ている旨を告げた。
二人は掲示板を眺める。今日から緑級冒険者、ということは下から二段目の依頼も受けることが可能だ、ということだ。今の身体の調子を鑑みて、二人はどの依頼を受けようか……と相談していると、後ろから「ねえ」と声が掛けられた。
――だが、二人は気が付かない。その声が自分たちに向けられているなんて考えもつかなかったからだ。
ミナとレアは掲示板の右側で静かに見ていたため、他の冒険者の邪魔にはなっていないと考えていた。実際、他の者が掲示板を見ようと来ても、依頼表を身体で遮ってはいない。
ついでに二人は忘れていた。
メラニルが二人の冒険者仲間を選定し始めてから、ギルドで二人に声を掛けてくる者が全くいなくなっていたために……仲間にならないか、という声を掛けてくる存在がいることを。
そう、二人に話しかけた彼らもそんな存在であった。
「ねぇ、君たち。依頼を探しているの?」
彼の言葉に二人が振り向く。すると、後ろには覚えのない顔の男性冒険者たちがいた。
爽やか笑みをたたえているように見えるが……瞳の奥底には、他の冒険者と同じように『あわよくば』を考えている男たちのようだ。
ミナは一瞬でそれを見抜き、無意識にレアを背中へと隠した。男たちはそれに気がついたようだ。
「あ、いや〜俺たち怪しいもんじゃないって!」
「俺ら冒険者なんだけどさ、君たちも冒険者? もし依頼を探してるのならさ、俺らと一緒に受けない?」
人の良さそうな笑みで二人を誘う男性冒険者たち。周囲に女性がいたら、「きゃー」と叫ばれるほどには顔は良い男たちばかりだ。けれども、残念ながらミナとレアは顔の良さで異性を判断するような者たちではない。
「いや、結構だ」
「二人で受けます」
ミナが断った後、レアも後ろから援護射撃のように男たちに断りを入れる。あまりにもキッパリと断言された男たち。彼らの口角が一瞬引き攣った。けれども、その後持ち直したらしい。
「ははっ、照れなくていいよ」
「君たちは慎重なんだね、そんなところも可愛いと思うよ?」
どうやら次の作戦は誉め殺しで気分を良くさせようとでもしているらしい。しかし、二人の心は動かない。そんな二人に対し、男たちは押せば二人が受け入れてくれる、とでも思ったのだろうか。一歩二人との距離を詰めた後、また再度勧誘を始めた。
「俺たちは緑級の中じゃトップクラスだよ? 一緒に行って損はないと思うよ〜。君たち、今噂の新人さんでしょ? 新人さんなら手取り足取り先輩から教わった方がいいと思うんだよねぇ?」
一瞬ニヤッとねちっこい笑みを見せられて、ミナは嫌悪を感じる。普通であれば、一度断られたら引く人ばかりなのだが……どうやらこの男たちは違うらしい。
「俺らこれでも赤級に近い緑級だからさ! なんでも教えてあげられるよ?」
「だから結構だ」
「いやいや、そんなこと言わずにさぁ〜そんな頑ななところも可愛いけどさ」
しつこい男たちに静かにため息をついたミナ。そんな彼女の服をレアが引っ張った。ミナが彼女の顔を見ると、その目には『逃げよう』と書かれている。
「いや、結構だ」
その言葉が合図となって、ミナとレアは空いている方向へと一歩踏みだす。けれども、それを遮ったのは男性冒険者の仲間の一人だった。
「ええー、釣れないなぁ。一度くらい、いいじゃないか」
退路を絶たれ、ミナとレアは面倒になったな……と頭を抱えたくなった。こういう男たちは一度で終わらないのが定説だ。ギルドカードの手続きはまだ終わっていないようだし、ギルド職員に助けを求めようとしても、全員が対応をしているためどうにもできない。
これがチームへの勧誘であれば、メラニルに話してくれ、と伝えられるのだが……一度、一緒に行こうという話だけなので、彼女の名前を出すことが憚られる。
最終的には強行突破か? と物騒なことを考え始めたミナとレア。二人は視線を交差させた後、頷き合う。それをめざとく見ていた男たちは、二人が自分たちの意見を受け入れてくれたのではないか、と考えたようで更に気をよくした。
男たちが再度ミナとレア、二人に話しかけようと口を開いたその時――




