24、昇級するんだって!
ギルド長ドレイクも含め、状況と報酬などを話し合う。
まずはベルドが捕縛の時の状況を話してから、ミナも状況を伝える。ドレイクは彼女の話を聞いている時、天を仰いでいた。メラニルは彼女の言葉に表情が動くことはなかったけれど……どこか疲れている様子だ。
全てを聞き終えた後、ドレイクはため息をついてから言った。
「まず最初に。嬢ちゃんたちは緑級に昇級な? この世界のどこも紫級の依頼を遂行する白級はいないぞ。そんな嬢ちゃんたちを昇級させないなんて、ギルドの沽券に関わる。だから有無を言わせず昇級とする」
「……分かった」
先ほどメラニルから言われていたので、ミナとレアは頷く。
のんびり級も上げていければ、とは思っていたけれど……ギルド長から言われてしまったらどうしようもない。二人は昇級を受け入れる。
何かを言われるのではないかと内心戦々恐々としていたドレイクは、最初面食らう。けれど、隣で胸を撫で下ろしているメラニルと、斜め前で肩をすくめているベルドを見て、直前に何があったのかを察した。
あとは報酬についてだ。ここで揉めるであろう、と思ったドレイクは気を引き締める。
「そして報酬についてだが……今回は嬢ちゃんたちが三、ベルドたちが七あたりで分配しようと考えている」
「それは私たちが貰いすぎでは?」
ドレイクの言葉に顔を上げたミナが疑問を呈する。予想通りの反応に、ベルドは曖昧な笑みを浮かべた。
「いや、お前たちは実行犯を捕まえたんだ。本当は四でも問題ない」
「僕もウルも本当は四でも問題ないなと思ってさ。僕たちが捕まえたのは、待機班だったようだし。実行犯は君たち二人が捕らえた方だったからね」
「ただ、ベルドたちは今回人攫いたちの隠れ家も見つけてくれたからな。その件を上乗せしてお前たちを三とさせてもらった。あとはお前たちがそう言うと思ってのことだ」
それであれば、ありがたくいただけばいいかと納得したミナ。一方で、レアが恐る恐るドレイクへと訊ねる。
「でも、これ……依頼の横取りにはならないのですか?」
ミナはレアの言葉に頷く。不可抗力とはいえ、確かにベルドたちの依頼を奪ってしまったのは事実だ。
やはり受け取りを拒否して、全ての報酬を彼らに渡すべきだろうか……と考えた。きっとレアも同意してくれるだろうと考えて口を開こうとしたその時、ドレイクの口が開いた。
「ああ、これは特殊事例だから横取りにはならん。お前たちは人攫い捕縛依頼の存在を知らなかった上、火の粉を払っただけだろう? だから問題ない」
「むしろ僕たちが協力してもらったって感じになるから大丈夫だよ」
ベルドの言葉にウルも首を縦に振る。どうやら了解を得た上での提案のようだ。ミナとレアはどうしたらいいのだろうか、と顔を見合わせていると、ドレイクは大笑いした。
「報酬については素直にもらっとけ! こいつらは報酬に関して頓着がない男たちだからな」
「ならばレア、ご好意に甘えようか」
「そうだね。ありがとうございます!」
ベルドにお礼を伝えるレアに続いて、ミナも感謝を述べる。そんな二人の様子に最初は面食らっていたベルドだったが……にっこりと微笑んだ。
ギルド長たちから解放されたのは、日の光が赤く染まり始めた頃。
あの後、ミナとレアはドレイクに『何故戦闘慣れをしているのか』と訊ねられ、内心冷や汗をかいていた。王国の辺境にある村で動物たちの狩りをしていた、と誤魔化す。
レアはミナに任せた方が良いと考えたのか基本は相槌を打ち、ミナが詰まった時にレアが率先して答える、というように補助に徹していた。
レアの援護射撃もあり、幸いドレイクは彼女たちの話で納得したようだ。それ以上聞いてくることはなく、二人は心の中で安堵していた。
それもあったからだろうか、解放された時二人は疲労困憊となり、現在ギルドの廊下を歩いている。
「慣れないことをすると疲れるな……」
「本当だね……うう……」
ため息をつきながら、重たい足を引き摺るように進む。以前の呼び出しとは違い、ドレイクが世間話と言わんばかりに色々訊ねてくるものだから、怪しまれない程度にはぐらかすのに疲れてしまった。
二人は二階の待合室へとたどり着く。一旦椅子に座り休憩していると、そこに現れたのはベルドとウルだった。疲弊している二人を見たからか、声を掛けてくる。
「二人とも、大丈夫かい?」
「……ああ、大丈夫だ」
ミナは力のない声で返事をする。レアはゆっくりと首を振る。
言葉では『大丈夫』と言っているが、疲れ切っている二人を見て、ベルドが懐から何かを取り出した。そして下を向いている二人の目の前に手を差し出す。
動くもの――ベルドの手を視界に入れた二人は、その上に乗っている何かに釘付けだった。
見たことのない、黒くて丸いものが彼の手の上に乗っていたからである。差し出されたモノが何か分からなかった二人は、首を傾げる。
一方でベルドも考えが分かっているのか、二人に微笑んだ。
「これは帝国で最近売り出している甘味だよ。食べてみるといい。きっと疲れが取れるから」
「……ありがとう」
「ありがとうございます……」
ベルドから善意を感じ取った二人は、お礼を告げた後に手を伸ばす。そして口の中に放り込むと……ほろ苦さと甘さが同時に口の中に広がる。
その上、その甘味は口の中で溶けていくではないか。
「美味しい……」
思わずミナが声を漏らす。
疲れた身体には甘いモノ……なんて話をモリーが以前していたけれど、それを実感することができた。身体が甘い食べ物を欲していたのかもしれない、先ほどの疲れが少しとれたような気がしたのだ。
そしてミナとべルドの視線が交わる。彼女はベルドに改めてありがとうの意を込めて頭を下げた。その意味を理解したのか、ベルドも満面の笑みでミナを見ていた。
「僕の贔屓している店のお菓子を気に入ってもらえて良かったよ。少し元気が出たかな? それと良ければ君たちを宿まで送っていくよ。メラニルさんから聞いたけど、色々と大変なんだろう?」
どうやら相手も二人に仲間の誘いが大量に来ていることを知っているらしい。普段であればこのような誘いを断る二人なのだが、今日は――
「私はお願いしてもいいと思うが、レアはどうだ?」
「そうだねぇ〜、お願いしよっか」
ミナの言葉にレアも同意する。
また道端で仲間に誘われて、演説されるのも困る。それであれば、彼らの紫級冒険者の威光を借りてもいいのではないかと思ったからだ。
ミナたちは白級冒険者だから、声を掛けやすいということもあるのだろう。大抵の誘いが『二人に手取り足取り教えたい、あわよくば……』という者たちなのだから。
多分彼らもミナたちの考えなどお見通しだ。それを理解した上で、付き添ってくれると言う話なのだから。
素直に二人が了承したからか、ベルドは最初目を丸くした。後ろにいたウルですら、目を見開いている。二人も提案したものの、こんなにあっさり同意すると思わなかったのだ。
そのまま『陽だまり亭』までの道のりを四人で歩く。
幸いミナとレアは普段のように声を掛けられることはなかった。視線は感じるが、歩いていて話しかけられないことなど初めてだった。
紫級冒険者の威光は素晴らしい、と胸中で絶賛するミナとレア。そのことに気を取られ、四人へ送られる視線がいつもと少々異なることに、二人は気が付かなかった。




