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【連載】「偽物だ」と追い出された最強聖女たちの、自由気ままな珍道中  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 討伐依頼を受ける聖女たち

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20、お掃除終了だね!

「うわぁぁぁああああ!!!」


 燃え上がる炎。そして右手を押さえて地面に転がる男。

 男が柄に触れようとした途端……大剣は火に包まれたのである。ミナに刃物を向けている男は、目の前で起きている事態をすぐに呑み込むことはできなかった。

 大剣から火が出るなんて、初めて見たのだから。


 男は持ち主であるレアへと顔を向ける。すると、彼女は憐れむような表情を浮かべて、地面に伏せている男を見ていた。

 

「あーあ、やっちゃったぁ……」


 頬を掻きながらそう呟くレア。そんな彼女を捕らえようと、他の男が彼女の後ろに回る。

 その姿を確認したミナの後ろにいる男は、我に返る。そう、彼にはまだ仲間がいるのだ。大剣に触れられないのであれば、レアの動きを止められればいいと。

 彼女が油断している今が絶好の機会だ! そう思った男だったが、その考えは打ち砕かれる。


 ――後ろから聞き覚えのある男の悲鳴が、辺りに響き渡ったのだ。

 

 ミナを拘束している男は聞き覚えのあるその声に驚き、思わず後ろを振り返る。すると、そこにいた仲間たちが白く光るモノに捕らえられ、地面に転がっているではないか。男は信じられないものを見たかのように目を見開いた。


「な、何が起き――」


 その瞬間、ナイフを持った腕が掴まれたと思ったら、男の腹に衝撃がくる。自分の身に何が起きたか把握する暇もなく、男はえずきながら地面に転がった。


 左を見れば、後ろにいた仲間が呻きながらもがいている。右を見れば、大剣に触れた仲間は気絶しており、レアに近づいていた男も同様に紐で体を拘束されていた。

 男もがむしゃらに動くが、手足の自由を奪われているからか、身動きができない。

 その時、男は手に持っていたナイフを見つける。手を動かすことはできないが、口で咥えることはできる……そう考えて身体をよじって前に進んでいたその時。


 自分の身体がナイフに届く前に、白く美しい手が伸びてそれを拾った。

 顔を上げると、そこにいたのは先ほど人質として拘束していたミナが立っている。美しいその顔には表情がなく、まるで感情が削げ落ちているように見えた。

 そんな彼女に恐怖を感じた男は、視線から逃れようとする。けれども蛇に睨みつけられた小動物のように、男は顔を背けることすらできず……まるで金縛りにあったかのように動くことができなかった。


 男は何故こんな事態に陥ったのかが理解できなかった。

 彼らが二人を狙ったのは、新人冒険者だと判断したからだ。そして何より容姿が整っている。このような女は高く売れるのだ。

 

 事前調査だって問題なかった。

 あの二人は国外から帝国にやってきたと調べがついている。若く、保護者のような者たちもいない。一人で身を立てようとしているのだろう。だから彼女たちが候補に上がった。

 街の中は人目が多いので、指をくわえて見ているしかなかったが……外の依頼は別だ。ここから普段のように逃げ切れば、闇取引で幾らでも値段を上げられる。


 だが、蓋を開けてみれば……自分たちが捕まっていた。この事実に男は混乱し……無意識に男から声が漏れる。


「なん……で……」

「なんで、だと?」


 ミラの絶対零度の視線を受け、男は縮こまる。

 男の狼狽っぷりとは対照的に、大剣を担いだレアが緊張感の全くない……弾んだような声で男へと事実を突きつけた。


「私の大剣、魔剣だから私以外の人が触ると怒っちゃうんだよねぇ。多分この人大剣を拾おうとしたでしょ? だから怒って火をまとったんだよ〜」

「大剣が……怒る?」


 レアの言葉の意味が理解できず、首を傾げる男。

 いや、正確に言えば言葉はきちんと捉えているけれど、理解が追いついていないのだ。そもそも何故初心者である彼女が魔剣を持っているのか……、魔剣が怒って火を放つ? そんな話聞いたことがない。


 この光景と、彼女たちからの言葉を聞いて唖然としている男を他所に、ミナが男から視線を外す。


「このナイフも要らないな」


 そうぽつりと漏らした彼女は、空いている手をナイフの前で左右に振った。すると、ものの見事にナイフの刃先が細かく砕かれたのだ。

 その光景を見て、男は青褪める。手を振っただけで、あのナイフを壊せるはずがない。つまり目の前の女は、魔法を使って壊したのだということだ。

 

 ここまできてやっと二人の実力を見誤ったことに気づく男。それでも頭の中は困惑でいっぱいだった。何故実力ある女たちが、新人冒険者をしているのか。そして給仕をしていたのか……全く分からない。

 そんな中、男の耳に聞こえてきたのは、底抜けに明るい声だった。


「うーん、お掃除終了かな?」


 場に合わない楽しそうな声を出す大剣の女。

 

「そうだと良いが」

 

 そして人質に取られながらも冷静な対応を取り、無詠唱でこの場を制圧する冷酷無比な女。


 この二人には手を出してはならなかったのだ、と男は理解させられる。


 だが、男は思い出した。彼の実行部隊とは別に、もうひとつの部隊があることを。どうにか連絡を取ろうと考えた男は、ミナとレアに気づかれないように声を出そうとしたが、その前に奥から草を踏み締める音がする。

 助けが来たのだ! と判断した男は、音の鳴った方へと顔を向けようとする。だが、縛られている身体をうまく動かすことができず、芋虫のように這うだけだ。それでも一筋の光を見たからだろうか……彼は気がつかなかった。

 普段から全員が気配を消して過ごしており、あのように音を立てて歩くことなどないことを。

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