19、人質になったミナ
数人の男たちがこちらへと歩いてくる。
服装は冒険者……のように見えるが、多分違うだろうとミナは思った。
その理由は彼らの表情だ。
下衆な笑みをたたえ、まるで二人を見定めるかのように下品な視線を彼女たちに向けている。奥にいる男は二人から見えないとでも思っているのだろうか……無遠慮に頭からつま先までじろじろと舐め回すように見ていた。
ここ一ヶ月ほど二人は冒険者ギルドに顔を出しているが、このような表情で見る者たちはいない。それもあって二人は男たちに嫌悪を感じていた。
そういえば、以前シエラとテッサから「人攫いがいる」という話を聞いたのを思い出す。
彼らが現れたのは一ヶ月ほど前らしい。この街に来てからはまだ行動に移していないそうなのだが、隠れるのがうまいことと、記憶を失う魔法を会得していることもあり、ギルドも尻尾を掴むことができないそうだ。
この街に来たという情報も、他のギルドから「潜伏している可能性がある」と伝えられただけで、本当に街に辿り着いたのかはギルドも把握していないらしい。
ミナはレアの顔を一瞥する。それだけでレアはミナが何を言いたいのかが理解できたようだ。レアは彼女だけに分かるように小さく頷いた。
そんな二人の目配せに気が付かない男は、近づき話し始めた。
「お嬢ちゃんたち、ギルド依頼のゴブリン退治はここじゃないぞ? ここの依頼は俺たちが受けたんだ」
「え、そうなのですかぁ?!」
レアが驚きから思わず声を上げる。ミナは口を開くことはなかったが、目を丸くしていた。
彼女たちの反応に相手は気をよくしたのか、人の良さそうな笑みを浮かべているが……残念ながら下心は隠せていないようだ。ニタニタと笑いながら話し始めた。
「ああ、もう少し奥に入った場所がお嬢ちゃんたちの依頼場所だ。ここら辺はわかりにくいから仕方ないことだと思うが……このままだと依頼の横取り、となって昇級する際不利になるぞ?」
依頼表を見せてくる男。レアは依頼表とミナの顔を交互に見て狼狽えている。
「えっ、どうしよう? 私たち、ギルドの規則を破っちゃったってこと?」
「そうなるな……」
慌てるレアに、ミナは青褪めながら呟いた。
彼女たちが狼狽えているのは、ギルドの規則を破ると最悪冒険者の資格を停止されることがあるからである。
特に受付嬢が冒険者たちに口酸っぱく話す掟がある。そのひとつが依頼の横取りなのだ。
規則内には『契約が結ばれた依頼は、受注した人の許可なく奪ってはいけない』という文言があった。つまり今二人は、男たちの受ける予定だった依頼を許可なく横取りした、と詰められているのだ。
――それが本物の依頼であれば。
二人はもちろん、男の依頼が本物でないことを見抜いていた。男の持つ依頼表に押されていた印鑑が、若干違ったから。
ミナは内心なるほど、と感心していた。
この男たちの手口に、だ。彼らは今までも依頼に不慣れな新人冒険者を狙ってきたのだろう。新人冒険者がこれを偽の依頼表だと見抜くのは、なかなか難しいはずだ。
相手に考える時間を与えずに捲し立ててしまえば、新人冒険者はそれが正しいことと認識してしまう。そうさせた上で、彼らは甘い言葉を告げるのだろう。
不安で一杯になった新人冒険者は、藁にもすがる思いでその言葉に乗せられて……。
そこまで考えた後、ミナは依頼表を手に男の元へと歩いていく。
最初は彼女が近づいてきたことに驚きを隠せなかった男だったが、ミナは自分を信頼しているようだとでも思ったのだろう。表情が緩み始めていた。
顔のニヤケが隠せていない男。内心、もう少し表情を隠したらどうだ……と心の中で悪態をつきながら、ミナは男の表情に気がつかないふりをして近づいた。
「では、今がどこの位置にいるなのか、依頼表の地図で教えてほしい」
地図を男に差し出したミナ。男は満面の笑みを浮かべてから、それを受け取ろうと手を伸ばす……と思いきや、ミナの手を引っ張り、首に空いている手を絡ませる。そして腰から刃物を取り出してから、ミナの喉元に突き出した。
「ミナ!」
慌てたレアは大剣を構える。しかしその時、ミナを人質に取った男が待ったをかけた。
「おっとお嬢ちゃん、このお嬢ちゃんがどうなっても良いのか? 彼女の命が惜しければ、大剣を横に捨てるんだ!」
「そんな……」
狼狽えているレア。
しばらくしてミナを助けることを優先しようとしたレアが、大剣を地面に置く。それを見た男は、連れの一人に大剣を拾うよう声をかけた。レアは大剣を取られまいとその前に陣取るが、それに気づいた男が彼女に向けて叫ぶ。
「おっと、動くんじゃねぇよ? このお嬢ちゃんがどうなっても良いのか?」
ミナを人質にとった男がそう告げると、レアは観念したように大剣の横へと移動する。そんな彼女の元へニヤニヤと下品な笑みをたたえながら、一人の男が近寄ってきた。
どうやら仲間の一人らしい。その男はレアに粘つくような視線を送りながら、目の前にある大剣へと手を伸ばした――その時。




