17、冒険者に見えるかなぁ?
ギルド長の名前をボルドーから『ドレイク』に変更しました。
大剣を手に入れたレア。さていざお金を払おうと話を聞くと、先ほど悩んでいた大剣と同等の値段でいいと言われる。それを聞いたミナが良いのか、とすかさず訊ねると、ガルドは首をすぼめて告げた。
「確かに素材は高かったが……もう数十年前の話だ。むしろ引き取り手が見つからないと思っていたからな、その金額で問題ないぞ。それにミナの件もあるから、それもおまけで付けておこう」
「ありがとうございます!」
大剣を背負ったレアは普段着を着ていても、冒険者のように見える。やはり武器ひとつで雰囲気が変わるな、とミナは思った。
その後、隣にある防具屋へと足を運ぶ。
防具屋はガルドの弟であるガルロが経営しているのだと言う。そこで話を聞いて二人は驚いたのだが、二人はドワーフという種族だった。ドワーフといえば、鍛治が得意な種族で、彼らの作る武器や防具は一流と言われるほど。
二人は独立する際に、自分の国ではなく魔物素材が多い帝国へと足を運んだらしい。二人は魔物素材を加工して商品を作成することが得意だったからだ。そのままこの街に移住して今に至るのだそう。
ガルドの付き添いとメラニルの手紙もあって、ガルロも二人に合った防具を用意してくれた。ただ少々値が張るため、貯めた金額では足りなかったのだが……その分は後払いでも良いと言ってくれたのだ。
「副ギルド長の紹介なら、問題ないだろうよ。もし、支払い忘れがあった時は彼女に立て替えてもらえば良いからな!」
そう言って豪快に笑うガルロを見て、二人は貯まったらすぐに支払おうと決めた。
店からの帰り道。ギルドに寄った二人だったが、メラニルは再度用事ができてしまい、外出してしまったらしい。また改めてお礼を伝えることを受付の人に告げて、宿へと帰ってくる。
夕方の仕込みが始まっているのか、モリーも表でテーブルを拭いていた。二人が帰ってきたのを見て、手が止まる。
「おや、あんたたち。冒険者っぽくなったじゃないか!」
笑顔で話しかけてくれるモリーに、レアはくるりとその場で一周まわった。
その姿は側から見れば、可愛い洋服を見せようとしている女の子にしか見えないが……背負っている剣がそれを否定する。
まあ、レアは周囲にどう見られているのかを気にするような人ではないが。
「モリーさん! これ、似合います?」
「似合う似合う! 武器防具を購入したってことは、これから外にも出るんだろう? 気をつけなよ」
「ありがとうございます!」
レアがお礼を告げる隣で、ミナも頷く。
街の中では人の目があるけれど、外に出れば目が少なくなるのは当然のこと。その上魔物まで出てくるのだから、危険度は増す。二人の真剣な表情を見て、モリーは大丈夫そうだと満足げに頷いてから、言葉を続けた。
「しかし、レアは大剣、ミナは短剣か。面白い組み合わせだね」
二人はモリーの言葉に、一瞬言葉を失う。
ミナの腰についている短剣は、護身用のものだ。けれども、何も持っていなければ確かに短剣が武器だと見えるだろう。これは敵を欺くのにも良いかもしれない。
モリーは二人の雰囲気に首を傾げる。
「おや、違ったかい?」
「いや、冒険者のように見えるのであれば良かったと思ってな」
そう取り繕えば、モリーも二人の間は気にならなかったようだ。
「そうかい、そりゃ良かった。それじゃあ、また後で」
と笑いながら、厨房へと戻っていった。
**
「今日も働いてるわね、ミナとレア」
「ほーんと、楽しそうに働くわね、あの子たち」
夕食よりも少し早い時間。
冒険者であるシエラとテッサが最近お気に入りの店である『陽だまり亭』。そこで働く白級冒険者の二人であるミナとレアを見て、二人は感嘆の声を上げた。シエラたちよりも歳下であろう二人は、満面の笑みで働いている……いや、一人は無表情だけれど、どことなく楽しそうな雰囲気は感じる。
ミナとレアは冒険者よりも看板娘の方が似合いそう、と二人は心の中で思っているが、毎日笑顔で依頼掲示板を見る彼女たちに言うことはない。なんだかんだ、彼女たちが依頼をこなすと評価が高いらしい、という噂は聞いている。
多分、二人は何でもそつなくこなすタイプなのだろう。
二人がミナたちを眺めていると、偶然視線の合ったミナがこちらへとやってくる。
「シエラさん、テッサさん。何か持ってきましょうか?」
「ああ、ならエールをお願い」
「私は串焼きがいいかな?」
ミナは了承の意を告げてから、モリーの元へ歩いていく。その機敏さは二人にも真似できないのではないか、と思うくらいだ。シエラはミナの背中を見送ると、視線をお酒へと向けた。
目の前ではテッサが楽しそうにお酒を飲んでいる。
「テッサ、本当にあなたは串焼きが好きねぇ」
「ここの串焼き美味しいんだもの! 本当にミナとレアのお陰で美味しい店が開拓できて良かったわ」
「それね」
ここ、『陽だまり亭』は男性冒険者に人気のお店だった。比較的量も多く、味も美味しいと評判で、毎日ここに通っている常連もいるほど。ただ、女性冒険者からすると、量が多すぎて食べ切ることができず、本当にお腹が空いている時にだけ来るようなお店だった。
そんな時、白級のミナとレアが働いているという噂が街を駆け巡る。どんな子なのだろうか、と興味半分でお店に入った二人は、二人の顔立ちの良さに衝撃を受けた。
そしていつの間にか女性用として量の少ないメニューだけでなく、可愛らしいメニューも増えている。可愛い配膳係と美味しく食べやすい食事。これは常連にならない方がおかしい。
「でも今日は残念ね。二人に教えられそうな情報が手に入らなかったわ。シエラは何かあった?」
「あの子たちが興味ありそうな話はなかったわ」
テッサの言葉にシエラはひとつため息をつく。
「テッサも覚えているかしら? 以前話したイケメン冒険者たちの話」
「あー、王子様と騎士様ね」
一時期、この街の多くの女性冒険者たちを虜にしていた冒険者たちだ。いつの間にか彼らを見守る会……という名の追っかけもできていて、シエラは今日その会員の一人から話を聞いていたのだ。
「そうそれ。この数日、調査のために山へ入っていたみたいだけれど、今日戻ってきたらしいのよ」
「そうなんだ!」
「でもあの子たち、彼らの話に全く興味がなさそうなのよねぇ……」
「ああ、そうだね……」
二人は仕事をしているミナとレアを見る。そしてシエラはふと以前レアが言っていたことを思い出した。
「『私からしたら、ミナが一番格好良いと思うので』……か」
「シエラ、なんて?」
無意識に言葉がこぼれていたらしい。テッサが首を傾げて訊ねてくる。
「ほら、覚えてる? 以前レアがミナが一番格好いいって言ってた時のこと」
「覚えてる覚えてる! 確かにって私も思ったもん!」
「今ふと思ったんだけどね、ミナって男装の麗人になりそうじゃない? そんな素敵な子が隣にいたら、他の美麗な男性なんて、目に入らないわよねって話」
その言葉に最初は目を丸くしていたテッサだったが、人差し指を上下に動かしながら同意した。
「確かに〜! ミナが隣にいたら、そんじょそこらの冒険者なんか、そこら辺に落ちている石みたいなもんでしょ!」
テッサの言葉が聞こえていた周囲の男性冒険者たちは、皆一様に肩を落としていたが、二人は気が付かない。楽しげに笑いながら二人の話は続いていく。
「あ、でも……」
「でも?」
テッサはニヤリと笑った。
「個人的には、イケメン冒険者たちとあの二人が会ったら、どうなるか見てみたいかも!」
「……テッサ、それは面白そう!」
「でしょう?」
二人はミナとレアがどんな反応をするのか予想をしながら、楽しい夜を過ごしたのだった。




