16、意志のある剣?
「レアが言っている大剣はこれだ」
工房の片隅に置かれているガラス箱の中にそれは入っていた。特に目を惹くのは、刃の色。鮮やかな赤色の刃は初めて見る。鍔……ガードの部分から握りの部分は黒で統一されており、ガードの中心には赤い玉が嵌め込まれていた。赤と黒の対比が非常に美しく、しばらくはミナもレアもその大剣に目を奪われた。
二人が我に返ったのは、ガルドの言葉が聞こえてきたからだ。
「この大剣はある魔物から取れた素材を利用して作られている魔剣だ」
「魔剣とはなんだ?」
二人とも初めて聞いた言葉に目を瞬かせる。
「おお、知らなかったか。魔剣と言うのは、簡単に言うと『意志を持った剣』だ。こいつは今まで誰にも自分に触れさせようとしなかった。もちろん、製作者である俺にもだ」
「……意志を持った剣」
ガルドの言葉を繰り返し呟いた後、レアは大剣の赤い玉を眺める。すると、その玉が怪しく光った……ように見えたが気のせいだろうか。彼女がまじまじと大剣を凝視している間、ミナがガルドへと質問を投げかけた。
「何故剣が意志を持つんだ?」
ミナの疑問は尤もだ。無機物である剣と意思疎通できるなんて聞いたことがない……いや、レアが先ほど剣の声を聞いた、と言っていた。それと同じなのだろうか。
そう訊ねると、ガルドは首を左右に振った。
「いや、その上位互換だ。剣が持ち手を選ぶんだよ。魔物の中には、長寿、突然変異……様々な理由で死後も魂が地上に残る奴がいてな。そんな魔物の素材を使って武器を作ることで、その魂が武器に宿ると言われている。そのひとつがこれだ」
ガルドは赤い大剣とそれを見続けているレアを一瞥してから、また話を続ける。
「こいつはイグニス・タイガーと呼ばれる魔物だ。当時は誰も歯が立たない凶悪な魔物……火虎とも呼ばれていたが、こいつは数十年前に村を襲ったり、道を歩いている行商人を襲ったりと猛威を奮っていてな。当時黒級だったある冒険者によって倒されたんだ。その素材を俺が運良く手に入れることができて、三日三晩かけてこの大剣を制作したんだが……」
彼は物憂げな様子で遠くを見つめていた。その顔には若干疲れも見える。
「完成後、魔剣になっちまって……ここに移動するのにも時間を要したくらいだ……」
ガルドは大きなため息をついた。どうやらその時の苦労を思い出したらしい。
完成時にいたのは、斜め前に置かれている机の上だったらしい。ガラス箱までレアやミナが両手を広げた距離ほどしかない。けれども、そこまで運ぶのに一時間以上掛かったと言う。
「こいつは我が強くてな……俺が触ろうとすると、剣が火に包まれてな。触れられないったらありゃしねぇ……何度か交渉して、手袋を五枚重ねたあたりでやっとここまで運ばせてくれてな……ありゃ苦労したな……」
肩を落とすガルドに、その時の労力がなんとなく伝わってくる。思わずミナが「お疲れ様でした」と声を掛けるほどの憔悴っぷりだった。当時は本当に骨を折ったのだろう。
彼女の言葉にお礼を告げ、ガルドは肩をすくめた。
「若い頃の俺も浮かばれるな。ところで、レア。この剣はお前に合いそうか?」
「うん! ちょっと触らせてもらえますか?」
間髪入れずに肯定するレア。そして顔に浮かべているのは満面の笑み。ミナは思った。良い剣が見つかったのだろう、ということに。その想いはガルドにも伝わったようで、彼は隣にある引き出しから取った鍵でガラス箱の扉を開けた。
「ほら、触れてみろ」
「ありがとう! ガルドさん!」
レアはまるで踊っているように飛び跳ねながら大剣へと近づく。そして、目を輝かせながら柄に触れようとしたのだが……その瞬間、柄の周囲を火が取り囲んだ。ガルドとミナは大剣が火をまとったところを見て、息を呑むが……レアは気にせず柄へと手を伸ばす。
彼女のことだ。何か考えがあるのだろうと、最初は見守っていたミナ。しかし、レアの手が火に当たるであろう瞬間、見ていられなくなった彼女は顔を背けた。いつ「熱い!」と言う声が飛んできても可笑しくない。彼女は万が一を考えてレアの手を冷やせるように、水魔法を構築しようとしたのだが――
「わぁ! やっぱり格好いいね!」
予想外に喜び溢れるレアの声が聞こえ、ミナは思わず目を開き、その光景を見てぱちくりとさせた。先ほどまで火が燃え盛っていた大剣だったにもかかわらず、その欠片すら見当たらない。その上、柄を握っているレアの手に火傷の跡はない。
何が起きたのか分からず、開いた口が塞がらないままレアの様子を見続けていると、彼女は楽しそうにミナの元にやってくる。
「ねぇミナ! 私この剣がいい! ガルドさんの許可を得られるなら、これを使うね!」
「……納得のいく大剣が見つかって良かったな」
「うん!」
ミナはまだ鈍い動きをする頭を働かせ、喜ぶレアへどうにかこうにか返事をする。素振りしたり、剣に頬擦りしたりとはしゃぎ回るレアを見て、ミナは色々と考えるのをやめた。




