14、刃のない武器? 存在するのか?
翌日二人は依頼を終え、完了報告をギルドへと告げる。
依頼の査定も終え、さて武器屋や防具屋を教えてもらおうと受付に背を向けると、先ほど対応してくれた女性が二人に声を掛けた。
「あ、ミナさん、レアさんすみません。副ギルド長からこちらを頂いています」
「ありがとうございます」
話を聞くと、メラニルは丁度外出中なのだとか。そのため、彼女たちが来たら渡すように指示されていたそうだ。
ミナが彼女から受け取った紙には、お勧めの武器屋と防具屋が書かれていた。どうやら地図を見ると、そのふたつは隣同士で並んでいるようだ。大通りではなく、一本入った細道にあるらしい。
そして紙の後ろにはメラニルのサイン入り封書が一通。紙には店主にこの封書を渡すように書かれている。
受付の彼女に改めてお礼を告げたい、と話すと「夕方であれば戻っている」と言われたので、武器防具を購入した後、またギルドへと戻ることにする。二人は紙と封書を持って、ギルドを後にした。
大通りを歩き、しばらくして一本裏の細道へと入っていく。そして少し歩いたところにその店はあった。
地図がなければ見落としそうなほど、普通の一軒家にしか見えなかった。一応扉の上にはうっすらと店の名前らしき文字は書かれているけれど……補修していないため、読むことは不可能だ。
ミナは服に入れていた封書を取り出してから、扉を叩く。すると、遠くで入室を促すような声が聞こえたような気がした。二人は顔を見合わせて頷き合ってから、ミナはドアノブに手を触れ、ゆっくりと前に押していく。
室内に入ると、そこは武器屋だった。様々な種類の武器が無造作に置かれている。
時には長剣と杖が一緒くたにされて置かれていたり、矢と盾がなぜか纏めて置かれていたり……ここの店主は整理が苦手なのだろうか、と二人は思っていた。興味深く室内をぐるりと見回している二人。そんな二人が正面を見ると、何か動くものが目に入る。
気になった二人が正面へ近づくと、そこにいたのは白髭白髪で、筋肉質な男性だった。そして普通の男性よりも身長は低い。
顔を上げた男性と二人の視線が交わった。相手の男性は訝しげに二人の顔を観察している。
「今入ってきたのは嬢ちゃんたちか?」
周囲を確認するが、お客はミナとレアの二人だけ。
「珍しい。こんな若い嬢ちゃんたちがこんな武器屋に来るだなんてな。誰から聞いた?」
最初は呆然としていたミナだったが、相手から訊ねられて正気を取り戻す。そして手に持っている封書を差し出しながら、言葉を紡いだ。
「副ギルド長のメラニルさんからここを教えていただきました。私はミナ、彼女はレア。冒険者の仕事をしたいので、武器を購入させて欲しい」
「あのメラニルが……? ほう」
男性は髭を触りながら、封書を開く。そして手紙の内容を一通り確認していると、少しだけ目を見開いた。その後目を通し終えたのか、封筒の中に手紙をしまい終えると、彼は二人をじーっと見つめた。
あけすけに見つめてくる男性に二人は狼狽える。
「すまんすまん。俺はガルド。あのメラニルが嬢ちゃんたちを絶賛しているから、つい見ちまった。ここにある武器は俺が全て作ったものだ。俺は武器鍛治もやっているからな。で、お嬢ちゃんたちの得意武器は……そこのお嬢ちゃん、もしかして大剣か?」
ガルドはレアを見て声を掛けた。一方で、彼に得意武器を当てられたレアは、驚きから目を丸くする。
「え、ガルドさん。なんで分かったの? 私、昔から大剣を使ってたんだ!」
「そうだな、華奢なわりに腕の筋肉が発達しているように見えたからな。あとは親指と人差し指の間にタコらしきものがある。それで判断した」
「わー! すごい!」
ガルドの推測を素直に称賛するレア。そしてそのまま彼はミナへと顔を向ける。
「こっちの嬢ちゃんは魔法使いか。武器を使ったことは?」
「ない。あっても短剣くらいだ」
「そうか。それじゃあ、護身用にこれを持ってくといい」
そう言ってポイっと投げて寄越されたのは、柄だけで刃が付いていない短剣らしきものだった。ミナはそれを手に取ると、本来であれば刃が付いているだろうという部分に手を当ててみる。やはり刃はない。
どうやって使用するのかが分からなかったミナが一周ぐるりと見回していると、ガルドは使い方を説明してくれた。
「嬢ちゃん、それは柄に魔力を込めて使うんだ」
「柄に魔力を……? こうか?」
その瞬間、柄が光り輝き……目の前に自分の上半身ほどの長さの、光り輝く刃のようなものが現れる。ミナとレアはその光景に唖然とした。ガルドは二人の驚きの表情に満足したのか、髭を触りながら楽しそうに話し始めた。
「これは魔力を使って剣の刃を発生させる魔道具だ。重さも柄の分だけしかない分、魔法使いなら扱いやすいと思ってな。これは試作品だからお前さんにやろう」
「はっ、こんな良い魔道具をくれるのか?! いや、それは良くないと思うが!」
ミナの信条は『貰えるものは貰う』だけれど、それは対価があってこそ。
ガルドからはメラニルの紹介だけで来たのだ。こんなに良くしてもらう理由がない。そう思った彼女は、ガルドをなぜか説得し始めた。
「素晴らしい魔道具には対価が必要だ。断じてタダでもらうのはよくない! これは私があなたの技術を搾取している」
呆然とするガルドに、ニコニコとミナの様子を眺めているレア。彼女は何も言わない。だって、レアもミナの言葉は正論だと思っているので。
いきなり力説し始めるミナに最初は驚きを隠せなかったガルドだったが、しばらくして正気が戻ってきたのか……大声で笑い始めた。
「ははは! タダで貰っておけば良いのに、律儀な嬢ちゃんだな! まあ、嬢ちゃんの扱えそうな武器はこれしかないから、謝罪の意味もあるが……もうひとつ、メラニルが称賛する嬢ちゃんにお願いしたいことがあってな。この武器を今後魔導師に普及したいんだ。けれども、まだ売り出せる段階になくてな」
「あ、だから試作品なんだ!」
レアの言葉にガルドは大きく首を縦に振った。
「ああ。嬢ちゃんたちはまだこの街にいるだろう? いる間、その魔道具の使用感や耐久力などを確認したいと思っている。その手伝いをしてくれないか?」
「それならば、喜んで手伝おう」
「ありがてぇ、よろしく頼むぞ」
ガルドとレアは握手をする。
――けれども、ガルドは知らなかった。この後実際使ってみたミナから、手紙の便箋くらいの大きさの紙に何枚も及ぶ感想が書かれることに。しかもほぼ全ての指摘が彼を唸らせることになることに。
「じゃあ、そっちの嬢ちゃんの大剣を探すとするか。この場にある大剣で気になるものはあるか?」
ミナが試作品を受け取った後、次はレアの武器を探すことにした。彼の言葉にレアは室内に置かれている大剣を手に取ったり、全体を確認したりと大忙した。
レアが手に取る大剣は、刃が地面から彼女の肩まであるような巨大なものだ。柄も入れれば彼女の背より大きいものも、レアは軽々と持ち上げた。
全てを見終えたレアだったが、彼女の表情は晴れない。どうやらお気に入りの大剣が見つからなかったようだ。
「どうやらここには『これだ!』と思うようなものが無かったようだな」
「うん……ガルドさん、ごめんなさい。ガルドさんの作品なのに……」
レアはガルドの作成した武器から選びたかったのだろう。けれど、ここには自分に合いそうな武器は無かったのだ。
メラニルから教わった上、ミナにも試作品であるが剣をくれたのだ。レアもこの店で購入したかったのだが……合うものがない、となったら他の店に行くしか道はない。
ガックリと肩を落としていると、ガルドが「ちょっと待ってろ」と言って奥の部屋へと入っていった。




