13、臨時収入? 貰えるものは貰おう
食堂の配膳仕事を始めてから丁度一ヶ月。
二人がモリーから上がって良い、と言われて残っていた仕事を片付けていると、厨房からモリーが満面の笑みで戻ってくる。今日は何か良いことがあったのかなぁ、とレアが目をまたたきながら仕事を終わらせた。ミナも注文を聞き終えてモリーの元へと戻ってくる。
紙に書かれた注文内容をモリーは一瞥すると、厨房にいる旦那へと手渡した。普段であればその手には賄いがあるのだが、今日彼女の手には何もない。
どうしたのだろうか、と二人が不思議がっていると、モリーは二人の顔を交互に見たあと、ニカッと笑った。
「二人とも、今日は何の日か覚えているかい?」
そう訊ねられて、二人は顔を見交わした。そう言われても、見当がつかなかったからである。怪訝とした様子で顔を窺っているミナに気がついたモリーは、大声をあげて笑った。
「やっぱり分からないようだねぇ。今日は二人がこの食堂で働き出してから一ヶ月が経ったじゃないか!」
ミナとレアはそれを聞いて、しみじみと見つめ合った。お互い長年連れ添ったような雰囲気を出しているが、出会ってまだ一ヶ月なのだ。周囲も二人が一ヶ月前に出会った、と聞いたら目を剥くはずだ。それほど、二人は仲が睦まじい。
それよりも、二人は疑問に思った。給料は毎日支払い制。今日働いた分を翌日に支払う、という形をとっている。一ヶ月が経ったから何があるのだろうか。
そんな二人を他所に、周囲のお客は盛り上がっている。
「お、一ヶ月経ったのか!」
「え、本当に? もう一年くらい通っている気がしてたよ!」
お客たちはそう言い合いながら、全員がモリーたちに注目する。そのことで二人はさらに狼狽えた。一ヶ月経ったから何かがあるのだろうが……見当もつかない二人は、目を泳がせた。
「はいはい、野次馬はお黙り!」
「女将さん、野次馬って酷くねーか!」
大笑いするお客たち。その後、笑い声が鎮まってくると、モリーは服のポケットから封筒を二枚取り出した。
「はい、臨時収入だよ。一ヶ月、頑張ったご褒美さ!」
臨時収入という言葉を理解できず、ポカンと口を開けている二人。それもそのはず、二人の出身国では臨時収入という言葉はなかったのだ。何故給料とは別にお金を貰えるんだろうか、と目を白黒させていると、二人の理解できていない雰囲気が伝わったのか……お客の冒険者たちが笑いながら教えてくれる。
「他の国には無い制度だから知らなくて当然だな。帝国では一ヶ月ごと、働きによって特別報酬をもらえる職場が多いんだよ」
「そうそう。強制じゃないんだけどな。結構多くの職場でやってるみたいだぞ」
もちろん給与体系にもよるのだが、特に働きが良いと認められた者たちに与えられるものらしい。
「二人はこの一ヶ月で想像以上の働きを見せてくれたじゃないか。いやぁ、まさか初日から二人とも動けるとは誰が思うだろうよ」
モリーは両肩を上げる。彼女の言葉に賛同するかのように、どっと店内が湧いた。
「違いないな!」
「俺、二人が働き始めた初日に来た時、驚いたもん。凄腕の配膳係がいるって思って!」
「いやー、あの動きは俺には無理だな」
「はは、お前は食べる専門だもんな!」
お客が勝手気ままに盛り上がる中、モリーは喧騒を無視して二人へと向き直る。そして封筒を手渡した。
「少しだけどねぇ、二人の働きに報いたいと思ったからさ。もらってくれるだろう?」
そう言われて躊躇しているのはレアだ。本当に貰って良いのだろうか、とまごついている一方でミナは――
「では、遠慮なく戴こう」
そう、ミナの信条は『使えるものは使う。貰えるものは貰う』。相手が好意で渡してくれたのだから、また明日からそれに報いれば良いのだ、と彼女は思ったのだ。お礼を告げて封筒を貰えば、レアもそんな彼女を見て恐る恐るもうひとつの封筒を手に取った。
頭を下げたレアの横で、ミナはモリーに宣言をする。
「この恩に感謝して、明日からまた気合いを入れようと思う」
最初その言葉にモリーは目を丸くしたが、熟練者のように眼光鋭く気合いを入れるミナの様子を見て、お腹を抱えて笑った。
「あはは、ミナも真面目だねぇ! うんうん、よろしく頼もうじゃないか」
「お前もミナちゃんくらい真面目にやれよ!」
「うるせぇ! お前もだよ!」
あるお客のやり取りに笑いが上がる。ミナとレアは笑いの絶えないこの食堂で働けて良かった、と心の底から思っていた。
二人は部屋へ戻ると、今まで貯蓄した分と今回の特別報酬を改めて数え直す。
特別報酬は二人合わせて三週間分の給料とほぼ同額くらいだ。その金額に驚きながらも、ありがたく頂戴する。これなら武器防具は問題なく購入できるはずだ。明日は午前中で終えることのできる仕事を受けて、武器屋や防具屋へと向かうことにする。
最低でも何を購入しようか、と二人で数え上げていたその時。
「そういえば、『もし武器防具を購入することになったら、お店を教えるから来なさい』ってメラニルさんが言ってなかったっけ?」
「ああ、言っていたな。明日依頼を受ける際に伝えておくか」
以前ギルド内で出会った時、メラニルから武器防具のことについて訊ねられていたのだ。二人が『持っていない。だから今お金を稼いでいる』と告げると、最初は唖然としていた。普通は武器防具の目処がついてから、冒険者登録をする者が一般的らしい。
まあ、二人は実際お金が無かったから仕方がないのだ。
他の冒険者同様に……勝手に何かしらを察したメラニル。その後にこの街の良い武器防具屋を教えてくれると約束したのである。
「ふふ、ねえミナ。私たち明日で冒険者の出発点に立てるかな?」
「ああ、今まで頑張ってきたんだ。きっと立てるさ」
「そうだよね。これからが楽しみ!」
二人ならこれからどんなことが起こっても大丈夫……お互い、そう心の中で思っていた。




