12、情報料はエールで!
それから三週間ほど。
二人は引き続き、街の中でできる依頼と食堂の仕事をこなしていた。その間もメラニルの話していた通り、やはり何度かミナとレアに声を掛けてくる冒険者グループが幾つかあったのだ。その度にミナは――
「では、副ギルド長であるメラニルさんを通していただけるだろうか? 今、その件について相談しているので」
そう彼女が告げると、声を掛けてきた冒険者たちは理解する。
多くの者たちが、彼女たちとあわよくば仲間になれないだろうか、と考えているということに。そしてその件について、副ギルド長であるメラニルが動くほど、申し込みが多いということに。
彼女たちが与える影響は冒険者ギルドだけではない。二人が働く食堂についても、モリーが嬉しい悲鳴をあげていた。今や二人が配膳として入る前の二倍ほどの人が訪れているそう。しかも、男性だけでなく女性の冒険者の来店も増えているのだとか。
一方で周囲に波紋を広げている当事者の二人は、そのことに気がつくことなく楽しく働いていた。朝はギルドで街中の依頼を引き受け、夜からは配膳の仕事を行う。住居分と一食分の食費が浮いたからか……思った以上の速度でお金が溜まっていった。
あと一週間ほどすれば、ある程度値段のする武器や防具も購入できそうだ、と二人は硬貨を数えながら夜な夜なニマニマと笑っているのは皆に内緒である。
そして食堂で働いたことで、金銭面以外にも良い点があった。それは冒険者との繋がりができたことである。
噂話が大好きな女性冒険者たちが、ミナとレアに会いに食堂へと来るようになったのだ。
モリーの食堂の客層は、圧倒的に男性が多かった。けれども、ミナとレアが配膳として入ってから女性冒険者たちが訪れるようになると、モリーは女性用の食事メニューを増やす。それが女性たちに受けたのだ!
しかも可愛くて美人で、ちょっと抜けている二人の若い白級冒険者たちが働いている。そんな二人の頑張る姿に母性本能をくすぐられるお姉様冒険者が多かったこと。
その上、食堂で働いている理由を聞いたお姉様冒険者たちは、二人の健気な姿に感動したという。最初は両親から武器を購入してもらった冒険者たちが多い中、彼女たちの努力に敬意を表していた。少しでも助けてあげたい、と思うお姉様冒険者が多いのは、不思議なことではないだろう。
――と、周囲は勝手に想像を膨らませているが、なんてことはない。本当にお金がないから、稼がないといけないだけなのだが……。
今日も雑談を兼ねて、お姉様冒険者の一人がミナへと声を掛けた。いつものように串焼きを頼むと、届けに来たのはレアだ。女性冒険者はレアへ最近聞いたことを話し始めた。
「そう言えばねぇ、最近この街にイケメンの紫級冒険者たちが来たらしいのよ」
「イケメンですか?」
二人の女性冒険者たちは楽しそうに話し始める。
「ええ。私も顔を見たけど……確かに格好良かったわ。冒険者というよりは、帝都の騎士にいそうな雰囲気よね?」
「分かる〜! 二人のタイプもまた違うのがイイ! 爽やかな笑顔で周囲を魅了する王子様にいそうなタイプと、無口だけど真面目で一途そうな騎士様タイプの二人よねぇ……」
「一度でいいから、一緒に依頼を受けてみたいわ……!」
女性冒険者たちが盛り上がる中、周囲の配膳が落ち着いていたミナが、両手にエールを持っている。そして、「情報料です」と言って、机に置いた。
「ミナちゃん、ありがとう! いつも悪いわねぇ」
「いえ、情報は大事ですから」
「うふふ、こういうので良いなら、いつでも教えてあげるわ!」
最近、女性冒険者たちは仕入れた話をよくミナとレアに教えてくれる。最初はお礼だけを言っていた二人だったが、最近は最初にその情報をくれた人たちに一杯のエールを奢ることにしていた。
依頼を受ける際に、情報が大切だということを改めて理解したからだ。
依頼に関する情報は、ギルド内にある資料室に向かえば良い。けれども、街の状況のような変動する情報を得る手段が今の二人にはまだなかった。だから、様々な噂話を教えてくれる先輩女性冒険者たちは、二人の心強い味方だ。
情報料としてエール制度を導入すると、女性冒険者たちは話を仕入れると我先に二人にも話すようになった。最近は誰が最初のエールを手に入れることができるか、と競争しているらしい。
数日に一度の出費ではあるが、意外と多くの情報が集まるので、二人はこのやりとりを重宝していた。
ミナは話を聞くのはレアに任せ、仕事へと戻る。もちろんこの情報収集に関しては、事前にモリーへと相談し、許可を得ていた。もっぱら聞く役目はレアだ。彼女は人の話を聞いた上で、必要そうな情報を取捨選択して相手から聞き取ることが上手いためである。
「その紫級の冒険者たちは、帝国出身の人たちなんですか?」
「そうみたいよ? この街に来るのは初めてみたいね」
「私たち、ずっとこの街を拠点にして冒険者稼業をしているけれど、あの人たちは初めて見たわ」
お近づきになりたいわ! と二人で盛り上がっている女性冒険者たち。ちなみにレアは、笑っているけれどあまり興味なさそうだった。
そんな彼女の様子に気がついた女性冒険者はレアに訊ねた。
「あら、レアは興味がないの?」
「そうですね……私からしたら、ミナが一番格好良いと思うので」
彼女が素でポロッとこぼせば、二人は遠くでテキパキと働いているミナを目で追う。そして顔を見合わせて……頷いた。
「うん、確かにミナは格好良いわよね」
「というか、二人とも本当に美人よねぇ……羨ましいわ」
ミナの顔を見たあと、レアへと顔を向けた二人にレアは首を傾げた。
可愛い、美人と言われるが……二人揃って実感がないのだ。そんな様子を見た女性冒険者たち二人は、ふう、と息を吐いた。
「でも、二人とも大変そうよね……他の冒険者チームから誘いが来てるんでしょう? 今日は何件来たの?」
「今日は少なかったですよ? 三件ですね」
「充分多いわよ……」
訊ねた女性冒険者たちは、肩をすくめた。そうは言うが……最初に比べればこれでも少なくなった方である。食堂で働いていた一週間は、毎日数組は誘いが来ていたし。モリーの一喝でそこからほぼゼロになったが。
それに二人で歩いているだけで、冒険者らしき男性グループが何組も声を掛けて来たのだ。ギルドから食堂まで五分で着く道のりが、まさかの三十分経っていた時は驚いたこともある。
頭を捻っているレアを見て、二人は再度息を吐いた。
「本当の美人はこういう子たちのことをいうのかもしれないわね……」
「同意」
この会話は不毛だと感じたのか、二人の女性冒険者は話を切り替えた。
「そう言えば、最近人攫いも増えているみたいだから気をつけて」
「そうそう、白級冒険者が被害に遭ってるって話だったわよね!」
「その話教えていただいても?」
イケメン冒険者の話はどこへやら。女性冒険者たちは情報料のエールを飲みながら、レアに詳細を教えてくれたのだった。




