11、仲間を作る?
彼女の言葉が予想外だったのだろう。ミナは言葉を失った。本人は常識があると思っていたのである。まさかここで非常識だと指摘されるとは……露にも思っていなかったのだ。
呆然としたミナを残したまま、メラニルは言葉を続けた。
「あの掃除依頼に対して、まさか浄化魔法を使うとは思いませんでした。いや、使ってもいいのですよ? ですが、あの地下水道を他の冒険者に見られたら、一発で腕の良い魔術師によるものだろうと判断できるのです」
彼女がいかにミナの異常さを力説する中……レアは心の中で思う。
そもそも二人の本業は聖女なのだ。副業である魔導師についてミナが知らなくても無理はない。けれどもメラニルの言う通り、自分たちの力が二人から見て人並みはずれたものであるのなら、気をつけなければならないのだろう。
たぶん、程よく手を抜く、という行動がこれからは大事なのかもしれない、とレアは思う。
彼女の話はまだまだ続いている。
「魔術師は非常に勧誘が多いです。しかも二人は美人でしょう? あなたたちを仲間にしたがる輩は多いと思います。そして、冒険者の中には勧誘を断った者に報復を……と粘着するような者たちもいるのです」
「報復? 粘着?」
想像が付かない話に、レアは無意識に口から漏れ出ていた。
「ええ、そうなのです! あなた方は実力があるので返り討ちにできると思いますが……粘着してくる奴らが多いと面倒なんですよ!」
レアの言葉に反応したメラニルは二人の前に顔を近づけた。レアは思った。この人、目が据わっている、と。迫力のある彼女の話に、ボルドーは頭を抱え始めた。
「いやあ、このおばさんはこう見えても若い時別嬪だったんだが――」
「失礼ね! こう見えてもは余計よっ!」
どうやらここまで彼女が気合いを入れて話す理由は、彼女自身の経験談だったらしい。メラニルが現役冒険者として帝国を巡っていた頃……彼女に仲間がいるにもかかわらず、『引き抜きたい』という申し出が多かったのだとか。
当時を思い出したのか、先ほどまで姿勢よく話をしていた彼女が足と腕を組んだ。そして眉間には深く皺が刻まれている。
「本当にあーいうウジ虫みたいな奴らはどこにでもいるのよ。違う街へと行くたびに、同じことの繰り返しで、面倒臭いったらありゃしない。一度断ってるんだから、脈があるはずないでしょうに! 何で何度も声を掛けられたら了承すると思ってんのかしら?」
余程当時、勧誘で心労を受けていたのだろう。次から次へとメラニルから言葉が飛び出してくる。しかも、先ほどと比べて口調も変わり始めていた。最初はどこか良いところの女性と言っても過言ではない言葉遣い。でも今は――
二人が圧倒されていると、様子を見ていたボルドーが首を横に振りながらメラニルの肩に手を置いた。
「お前、そこまでにしておけ。感情が乗りすぎて、口調が変わってるぞ」
「あら嫌だわ。ごめんなさいね?」
優雅に笑うメラニルに、再度ため息をつくボルドー。彼女の熱弁から……とにかく凄腕の魔導師と周知されるのは、阻止しなければいけないと理解した二人。口調が戻った彼女は、ミナとレアの顔の前に人差し指を掲げた。
「なので、ここからは羽虫を寄せ付けないようにするための提案です。まずひとつめ、ここを拠点にして冒険者活動を続けること。私たちがあなたたちの件を把握しているから、面倒なことがあれば対処できるわ」
「これでも俺らも昔は茶級だったからな。任せてくれ」
そう告げられてミナは思い出す。冒険者のランクは白、緑、赤、紫、茶、黒級と定められている。最上級の黒は、現在片手で数えるほどしかいない。
そのため、大抵の冒険者が目指す最高は、茶級なのだ。黒級は人の限界を超越している……と言われているほどの者しか取ることができないのである。
確かに茶級の二人が見守ってくれているのなら、とてもありがたい申し出だ。けれども、のんびり旅をしながら様々な場所に行きたいという想いはある。だから、拠点を置くのは厳しい。
ミナと同様にレアもそのように考えていたのだろう。偶然目が合った二人は、お互いの考えを理解したのか首を縦に振る。
「いや、私たちは旅をして帝国を回ろうと思っていますので……ありがたい話ではありますが、遠慮しておきます」
「まあ、そういうと思ったな」
「ええ、そう言うと思いました」
断ったはずの二人に微笑まれ、ミナは少々気後れする。そんな彼女の様子に気が付かなかったのか、ボルドーとメラニルは話す。
「魔法を見た限りで言えば、あなたたちは……いずれ茶級になる実力は持っていますから。帝国内であれば、どこでもやっていけるでしょう。むしろ街を巡って強い冒険者になってほしいと思うの。だから……ふたつ目の提案なのですが、パーティを組むのはどうかしら?」
次に中指を立てながら、メラニルは言葉を告げる。
思わぬ言葉に最初ミナとレアは首を傾げたけれど、考えようによっては有りなのかもしれない、と思った。ただ、ひとつ問題なのは……誰と組むか、である。
それも提案があるのか、彼女は話を続けた。
「ある程度実力があって……男性のいるパーティがいいと思いますよ。大抵の冒険者はそれで諦めます。そうですねぇ……最低紫級は欲しいかもしれません」
「もし嬢ちゃんたちが良ければ、何件か良さそうな冒険者チームを紹介することも可能だ」
「ええ。紹介して合わないのであれば、拒否していただいても問題ございません」
それはありがたい、とミナは思う。
メラニルの話を聞いて、冒険者仲間がいる方が良いと思った。けれども、二人には秘密が多すぎる。最終的にはその秘密を共有してくれる人が良いのだが……それは求めすぎか。
まあ、冒険者仲間になったとしても、ずっとその人たちと一緒にいなくてはならないという訳ではないのだから、その時はその時か。
「ねえ、ミナ。一度依頼してみたらどうかな? 絶対その人たちじゃなければいけない、って訳ではないんでしょ?」
首を傾げるレアもミナと同じ考えだった。ミナは改めてメラニルへと顔を向けると、頭を下げる。
「冒険者チームを紹介していただけますか?」
「ええ、もちろん。少々選定に時間を掛けさせてもらうけれど、良いかしら? 折角なので……この街だけではなくて、現在他の街にいる冒険者チームについても考慮に入れたいのよ。長いと一ヶ月くらい掛かるかもしれないけれど、良いかしら?」
「その代わり、全力で選ぼう」
二人の力強い言葉に、ミナとレアはよろしくの意を込めて首を縦に振った。




