1、偽物の大聖女、追放される?
「お前は偽物の大聖女だ!」
お勤めで疲れ切った身体に鞭打って参加した舞踏会。そこでエルミナは、婚約者である王太子に偽物呼ばわりされる。
は?
彼女は空いた口が塞がらない。呆然と王太子を見つめていたエルミナだったが、ふと、彼の横に見覚えのある顔がいるのに気がついた。
元大聖女候補であった侯爵令嬢。彼女は王太子の肩にしなだれかかっている。
は?
この男は何を言い出すんだ?
チョットイミガワカラナイ。
王太子は今も何かを言い続けているが……エルミナの頭は混乱の真っ只中だ。それを解消する時間など、相手が与えてくれるはずもなく……言葉が右耳から左耳に抜けていく。
「お前は先代聖女様と懇意だったから、先代様に自分を大聖女にしてほしいと頼んだ、と聞いたぞ! 平民のお前がのしあがるには、それしか方法はないからな――」
あの男の話は更に続いていく。
エルミナとしては色々言いたいのだが、王太子は彼女の話を聞く雰囲気ではない。むしろ聞く耳を持たないだろう。
それならば、と周囲に目を配る。そして理解した。
周囲の貴族たちは、下衆な視線をエルミナに送っている。そして特に顕著なのが、目の前の侯爵令嬢。彼女はエルミナに向けて、侮蔑と嘲笑を瞳にたたえていた。
ああ、これは裏から手を回されているな……何も考えられないはずのエルミナ。しかし、そんな視線に晒されていることを理解した彼女は、幾ばくか落ち着きを取り戻し始める。
自分の置かれている立場に当惑しつつも、冷静に周囲の状況を分析し始めた。
聖女とは「瘴気」と呼ばれる、人に害をなすモノから国を守る存在だ。
瘴気は、人の体内に入ると体力や気力を奪う。そしてそれと知らずに接触し続けると、病気になったり、精神に影響が出たりすることもある。最終的には死に至る、という報告も。
そんな瘴気を浄化するための存在が聖女なのだ。
聖女は神聖魔力と呼ばれる力を持っている。瘴気の浄化は、この神聖魔力と呼ばれるモノが体内になければ、力を行使できないのだ。
そのため聖女の仕事といえば、瘴気を浄化の力で払ったり、瘴気から生まれた魔物が入らないよう国全体に聖障壁と呼ばれるモノを張り巡らせたり、それに触れてしまって影響が出た人を治療したり……とさまざまな業務を担っていた。
ちなみに男性でその力を使える人は聖人と呼ばれている。
その中でも一際神聖魔力が多く、強い力を持つ者が現れると、大聖女や大聖人という称号を与えられた。大聖人という肩書きが付与されるかどうかは、その時々によって異なる。
現在は「該当者なし」とのことで、空席だ。
一方で大聖女は違う。
大聖女は大体十数年ほどで次代と交代するのだが、その頃になると神聖魔力の多い者が自然と現れる。そのため、大聖女の最後の仕事は次期大聖女を選ぶことなのだ。
先代大聖女は元々公爵家の令嬢だ。地位も魔力もさることながら、崇高な心の持ち主でもあった。そのため、彼女が自らの後釜を決める時も「実力で選んだ」と公言しているくらいだ。
それで選ばれたのが、お察しの通り平民のエルミナである。当代の中では他の聖女に比べて『神聖魔力の使い方だけでなく、神聖魔力量も桁違いだ』と先代から評価されたほどの実力者だ。
最終的にはエルミナが指名され、平民初の大聖女としてもてはやされたのだった。
最初はエルミナも嬉しかった。
今までの頑張りを認められたと思ったから。
彼女は任命した先代の恥にならないよう、選任された後すぐに考えた。
大聖女となったエルミナに求められていること……それは瘴気からこの国を守ることだ。国を守るためには、やはり神聖魔力を増やす……これが一番だと考えた。
神聖魔力は使えば使うほど増えていくと言われている。そのため、エルミナは自分に与えられた仕事は完璧にこなした上で、力を増やす修行を毎日行っていた。
彼女は周囲を見ずに、一心不乱に高みを目指し続けたのである。
まあ、今考えればエルミナも相当な間抜けだ。
先代の意志を継いで、素晴らしい大聖女になろうと躍起だったから、自分の取り巻く環境に気が付かなかったのである。
周囲がそんな彼女を疎んでいたことも、大聖女候補の一人であった侯爵令嬢が、エルミナを忌々しく睨みつけていたことも……。そして元々王侯貴族たちは、侯爵令嬢を大聖女に祭り上げたいと考えていたことも。
先代はずっと教会にいたからだろう。
王侯貴族の思考など全く配慮しなかった。いや、むしろ世俗に触れていなかった彼女は、貴族たちの思惑など全く知らなかったのだ。
後々聞いた話によると、大聖女を選任する前に先代の元には代わる代わる貴族たちが訪れていたそうだ。そして侯爵令嬢を大聖女にしてほしいと頼んでいたらしい。
けれども、貴族側が言葉を選びすぎたのだ。伝わらなかったのである。
そして最終的に選ばれたのは、平民だったエルミナ。
当時は、指名された彼女が一番驚いていた。今の今まで、ずっと大聖女の役目は貴族が引き継いできたのだから。エルミナ本人ですら、侯爵令嬢が選ばれるのだろうと思っていたくらいだ。
エルミナが指名された時、国民は盛り上がった。初めて大聖女に平民が選任されたのだから。
一方で貴族たちは当てが外れた、とでも思ったのだろう。
宣言したのが国民の前だったからということもあるだろうが……貴族たちは選任を替えてほしい、と告げることもできず――と言っても、先代は何を言われても、大聖女選任を変更するとは思えないが――エルミナが大聖女として表舞台に立つこととなった。
あーなるほど、とエルミナは思う。
先代の言葉を取り消すことは難しい。ならば、引き摺り下ろせばいいと決めたのだろう。ただ、この行為は指名した大聖女の言葉を否定する行為だということに、貴族側は気がついているのか。
今、先代は自身の実家の領地でのんびり過ごされているという話だ。先代の耳に話が入ったら、どうなるか予想できないのだろうか。
このことを先代が知ったら……エルミナは先代がどう行動を起こすのかを想像する。
……まあ、自分には関係のないことだ。
そう思ったエルミナは、この場の成り行きに任せることにした。
本日より、最強聖女の連載を始めました。
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