目覚め
運命なんていうものがあるのなら、それに直面した時どうすればいいのだろう
諦める? 抗う? 受け入れる?
その答えは。自分で探して、見つけ出すしかない
「──い、この子を──」
「──さま」
「この子を、連れて行かないで……!」
誰かの、声が聞こえた。
必死に、頼み込むような。
──そうして、わたしは。目を開けた。
「……あさひ!」
「誰か! 誰か早う医師を!」
「姫様!」
ああ、いっぺんに、色々と耳元で叫ばないでほしい。
それでなくても頭が痛いのに、女の人の高い声が脳髄に響く。
うう、と眉を顰めたのがわかったのか、手をぎゅっと握り込まれた。どうやら左手がずっとあたたかいのは、誰かに手を握られているからみたいだ。
誰かに手を握られるなんて、いつぶりだろうか。
なんだか安心して、またすっと意識が落ちそうになったのを、バタバタと大勢の人の足音が邪魔をする。ううん、うるさい。もう少し眠らせてほしい。
けれど、この息苦しさはなんだろう。身体が暑くて重い。いや、ほんとに。なんでこんな重いんだろう?
身体に力が入らないせいで、握られた手を握り返すことすら出来ない。前にインフルエンザに罹った時、こんな風だった気がする。ということはわたしは風邪か何かに罹っているのだろうか。
あれ、わたし、いつ風邪なんか引いたっけ。思い出そうとしても頭の痛みに邪魔されて思考がまとまらない。ああでも、ここ最近の仕事はいつにも増してきつかったから、知らない間に倒れてしまったのだろうか。
そういえば最近はずっと胸の辺りが苦しくて、息が止まりそうな時があった。いつもの過労によるストレスだろうと思っていたけど、もしかしてあれが原因……?
あれあれ、でもってわたしは一人暮らしのはず。もしかして会社で倒れたとかそういう感じ?
あー、やっちゃったなぁ。
同僚は割といい人が多いから救急車は呼んでくれたと思うけど、ただでさえ忙しいのに迷惑かけちゃったかな……。でも家で倒れなくて良かったかも。一人だとそのまま死んでたかもしれないや。はは。
「ああ、あさひ」
泣いてる?
わたしの耳元でする声が、泣いているみたいだった。でも、悲しそうじゃなくて、嬉しそうに聞こえる。
そのことを不思議に思って、声の方に目を向けた。顔を向ける気力すらなくて、なんとか目を開けて視線だけを動かす。
女の人が、わたしの手を握って泣いていた。ずっと泣いていたのがわかるくらいに、目も鼻の頭も赤くなっていて痛々しい。きっと綺麗な人なのに、一見そうとわからないくらいに泣き崩れている。
誰だろう。心当たりがない。
それに。その人が握っているわたしの手が、すごく小さくて──あれ。熱で目がおかしくなってるのかな。腕も、なんだか短い気がする。
えっ、ちょっと待って。わたしの腕こんなに短かった?
いやいや、確かに身長は百六十センチにはギリ届かなかったけど、服のサイズはMサイズくらいだよ。いや待って待って。え……? これ……この腕、どう見ても細いし短い。わたしの腕の半分もないくらいなんですけど……。なんで? まるで子供みたいなんですけど。
「あさひ」
わたしが驚きで声が出なかったせいか、女の人が身体を近づけて覗き込むようにして、目が合った。
わあ、肌が白くておでこがつるんとしてる。黒くて長い髪が似合ってて……。似合ってはいるけど、なんていうか、現代っぽくない髪型だった。まるで平安時代の貴族のお姫様みたいな髪型をされている。
というか、お召し物も洋服じゃなかった。和装だ。え、何これ。時代劇?
「あさひ。わかりますか。母ですよ」
何もわかりません。あさひって誰ですか。
わたしの名前は優陽っていうんです。ゆうひとあさひだからちょっと近いよね。……って違うか。あさじゃないんです、ゆうなんです。
でもって、確実にこの人はわたしの母ではない。だってわたしより年下だよね? 目の前のこの人は、多分二十歳前半くらいじゃないだろうか。もっと若いかも? あと、ここまで来たら説明するまでもないけど、わたしの母親と顔が全然違う。
それでも。この人を見ているとなんだかあたたかい気持ちになった。全然知らない人のはずなのに、この人は大丈夫って。
おかしいな。母親の面影も何もないのに。
声を出したいのに、喉が渇いて声が出ない。ひゅーひゅーと漏れる音に気付いたのか、女の人が「誰か、水を!」と叫ぶのを聞いて、わたしはまた気を失うようにして眠りについた。




