プロローグ『戦死、そして新天地へ』
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時は戦国の世も末期、かつて「赤紅の血塗れ狼」と呼ばれ、合戦場を血の海へと変えた赤紅の血塗れ狼、『伊達輝宗』は、もはやかつての猛々しさを身に宿してはいなかった。
義姫との婚姻を経て、彼は己の獣性を封じ、狼の耳と尻尾を覆い隠し、辛味という力の源泉を絶った。すべては最上義姫に「人ならざるもの」として疎まれず、永遠に愛されるためであった。だがその抑圧は、まさに彼自身の武士としての刃を鈍らせる鎖となったのだ。
輝宗が戦場に立つと、往年のように敵は総崩れになることはなかった。
狼の尾を見せぬ背はもはや威圧を失い、燃える舌を焼く辛味を断った身体は精気を欠き、何より「血を欲する心」を押し殺した彼は、かつての修羅の輝きを完全に封印していた。家臣たちは「殿は穏やかになられた」と安堵したが、大名同士の争いにおいてはそれは弱体化に他ならなかった。やがて、全国の雄藩は口々にこう嘲った。
――「赤紅の血塗れ狼は死んだ」と。
義姫と過ごす日々は確かに幸福だった。ツンデレな振る舞いに隠された妻の愛情、政宗や小次郎、五郎八姫といった子らの成長を見守る時間は、彼が失った母の面影を取り戻す温もりでもあった。
しかし、その幸福はあまりにも脆く、そして唐突に断ち切られる。
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ある日、豊臣家への挨拶のため上洛した輝宗を待っていたのは、悪夢であった。
別行動をとっていた義姫と子らは、豊臣家家臣の邸宅付近で消息を絶った。侍女も護衛もろとも、まるで大地に飲み込まれるように消え失せた。輝宗は豊臣に問いただしたが、「知らぬ」「我らに非ず」と冷淡に突き放されるばかり。
胸の奥で、久しく押さえ込んできた赤紅の衝動が揺らいだ。
――家族を失ったのではないか。あの時、母を奪われたように。
狼は再び血を欲した。
輝宗は決断する。豊臣を討つと。
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伊達軍は開戦当初、勢いに乗った。輝宗の指揮は依然冴え渡り、初撃では幾つもの砦を落とし、豊臣方を蹴散らした。一時は大阪城の手前まで伊達家の勢力圏を広げた。だが、時代は彼に牙を剥く。
戦場に現れたのは、彼の知るどの武器よりも異質な「轟音の兵器」。
ガトリング砲。
野戦砲。
重機関銃。
時代錯誤のはずの鉄の嵐が伊達兵を薙ぎ払い、狼の牙を折るかのごとく無惨に人を倒してゆく。輝宗も馬上から見た。かつて刀槍で押し崩せた陣列は、銃火器の前では無力であった。狼の直感が告げる――これはもはや戦ではない、虐殺だと。
伊達軍は次第に押され、血に染まった大地の上で、かつての「赤紅の血塗れ狼」は膝をついた。
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その時、彼の前に現れたのは石田三成であった。
三成はかつて少女の頃、戦場を駆ける輝宗の姿を遠目に見て、武士を志した女武将である。瞳には崇拝と憧憬が混じり、敵であるはずの彼女はなお輝宗を「武士の鑑」と仰いでいた。
三成は静かに手を差し伸べた。
三成「立って、輝宗さん。貴方はここで死ぬべき人じゃない。」
疲れ果てた狼は、その手に救いを見た。
しかし――その瞬間。
腹を裂く痛み。
背後から突き出た刃。
それは加藤清正の一文字槍であった。背を貫かれ、血潮が胸元や口から溢れ出す。膝を折った輝宗の視界に、紅に染まった雪原が広がる。あの日、母を失った時に見た光景と重なる。
輝宗「……ここで、終わるのか……」
絶命の直前、三成は輝宗の頬を抱き、唇を重ねた。
それは彼女にとって、最初で最後の愛の告白であり、憧れの狼を己の胸に刻むための、禁断の接吻であった。
狼の耳は頭巾の下で最後に震え、尻尾は陣羽織の奥で微かに揺れた。
誰にも知られることのなかった秘密を抱えたまま、伊達輝宗は静かに瞼を閉じた。
――享年五十四。
戦国を駆け抜け、血に染まり、愛に縛られ、そして新しき時代の兵器に討たれた狼の物語は、こうして幕を閉じた。
しかし運命の歯車は狂いだしそのまま回りだした。輝宗を新天地、学園都市キヴォトスへと送りながら。
ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン
輝宗『………ここは?私は死んだはずじゃ………?』
???『……私のミスでした。』
輝宗『っ!?いつの間にっ!?』
???『私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況、結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったこをと悟るだなんて……。』
輝宗『何?私はお主とは初対面だが………………。』
???『……今更図々しいですが、お願いします。先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。』
輝宗『!お主、左肩が……!』
???『何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……。ですから……大事なのは経験ではなく、選択。』
輝宗『………………………良い、もう良い、それ以上喋るな。失血で死ぬぞ。』
???『あなたにしかできない選択の数々。責任を負うものについて、話したことがありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが……。今なら理解できます。大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも。』
輝宗『私で………良いのか?人生の半分を戦で明け暮れ、血なまぐさくなった私で、本当に良いのか?』
???『……。』
???『ですから、先生。私が信じられる大人である、あなたなら。この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。』
輝宗『……。』
???『そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです。だから輝宗先生……どうか。』
輝宗『っ!?待てっ!?何故私の名前を………………………………』
次回に続く………………………
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