第1章 数字を奪う夜
――人間の価値は、生まれた瞬間に決まる。
背中に刻まれた「ナンバー」が、全てだ。
俺の数字は――10023。
雑魚。塵。歩く価値無し。
この世界では、そんな呼び方をされる。
だけど、今日からは違う。
俺は――奪う側になる。
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「カイ兄……たすけて……」
牢の奥から聞こえた、妹の声がまだ耳に残っている。
彼女の数字は412。本来なら国の騎士団にだって入れる低さだった。
だが、父の借金と引き換えに“売られた”。
奴隷商人は笑いながら言った。
「数字が高くなるほど、女は安くなる。412なんて、宝だな」
その場で俺は悟った。
数字が全てのこの世界で、数字を奪われた者は命を奪われるも同然だと。
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路地裏の酒場。
俺は安酒を啜りながら、向かいに座る男を睨みつけた。
「……お前、昨夜ギルドの新人を殺したな?」
「さあ、どうだったかな。で、俺に何の用だ?」
この男――通称《数字喰い》レイス。
人間のナンバーを“削る”スキル持ち。
ただし、その方法は暗殺、契約詐欺、裏取引……どれも血の匂いしかしない。
「俺にその技術を教えろ。代わりに――」
「代わりに?」
「俺の命、くれてやる」
レイスは一瞬だけ笑った。
「バカなガキだ……いいだろう。だが教えるのは“最初の一撃”だけだ。あとは勝手に生き残れ」
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その夜、俺は初めて数字を奪った。
ターゲットは、賭場でイカサマを繰り返していたチンピラ冒険者。
酔っていたそいつに接近し、レイスから教わった“逆計術”を使う。
【逆計術】――相手の持つ数字を、契約の形にすり替えて奪う魔術。
条件はただひとつ。相手がその契約を“自ら受け入れる”こと。
「一勝負だけだ。俺が勝ったら、その“数字”一つくれ」
酔ったチンピラは笑いながら手を握った。
その瞬間、俺の背中の数字が脈打つ。
10023 → 9999
「……っ!」
背筋を走る電流。
頭の奥で、何かが“削れた”音がした。
チンピラは叫び声をあげ、自分の背中を押さえる。
彼の数字は、8021 → 8022に跳ね上がっていた。
――数字が高くなるほど、弱くなる。
彼はもう雑魚だ。俺と同じ、いや、それ以下に。
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「お前……何をした……!」
「死ぬか、下がるか……選べ」
俺はその夜、初めて人の“価値”を奪った。
そして理解した。
この世界で妹を取り戻すには、俺は悪魔にだってなるしかない。
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ナンバーを下げるほど、人は強くなる。
だが――その心は、確実に壊れていく。
俺は《数字狩り(ナンバー・ハンター)》になる。
最終的に、一桁――いや、ゼロを狙うために。