第9話
「あぁ~疲れた。流石に初めての場所は緊張するな」
そういって大樹は自室のベッドへ制服のままダイブする。
ここは大樹が契約した一室で新しくも古くもないどこにでもあるアパートだ。その二階最奥の一室がこの部屋である。夏休みの全てを祓魔士としての鍛錬に費やしていたせいで、つい二日前にようやくこちらへ引っ越ししてきた。そのため、未だ開封されていない段ボールの山が複数個ある。
「先に夕食でも食うか」
学校から家までの道にあるスーパーで安売りしていたおにぎりと弁当。そしてプロテインバーを新品の机に広げ食べ始める。すると……
『我が主様は随分と呑気のようだな。あのように人と戯れるとは』
「……黙っていろ。俺のやることに指図するな。黙って従え、妖怪風情がッ!」
誰も居ないはずの空間から突然ゆったりとした……それでいて、どこか威厳を感じさせるような声が頭の中に響き渡る。その声に対し、大樹はご飯を食べる手を止める。そして、憎々しい表情で声を荒げ言い放つ
『そう硬いことを言うでない、我が主よ。今は亡き主はもっと寛容だったぞ?』
そんな大樹の言葉を飄々と受け流す。
すると大樹の胸に真っ黒い穴が出現し、そこから一振りの刀が姿を見せる。
「……何度も言うが勝手に俺の中から出てくるな。例えそれが部屋の中だったとしてもだ。俺を主というのであれば俺に従ってろ」
『まったく……我が主よ。これは忠告だ。早急に今は亡き主……初代と同等の力を手に入れろ。かろうじて1割の力しか出せない主では、これから先死ぬぞ?』
一割……それが俺の現在地か。
夏休み中、休憩時間に興味本位でコイツに聞いたことがある。現在で言うところの1級以上の魑魅魍魎共が日常的に徘徊する江戸時代を生き、それらをただ一人で切り伏せ続けたのが先代……というか初代らしい。ちなみにその時に討伐された妖怪で唯一この刀にその人格が宿ったのがコイツらしい。
『一人で特級を含めた2級以上の妖怪100体を一瞬で祓った時はこの妾も刀身がうずいたのう』
恐ろしい……何度聞いてもそう思ってしまう。初代の領域に果たして俺は踏み込むことが出来るのだろうか
そんな考えが頭をよぎる。
ピピピピピッ‼
「ッ⁉」
静まり返っていた部屋に突如としてけたたましい電子音が鳴り響く。
「この反応、7級相当だな……行くぞ」
大樹は空中に浮かぶ刀を手に取る。そして、さらに春風から餞別として貰ったお手製の羽織に腕を通す。これには、春風が全力の防御の術が仕込まれていてそこら辺の妖怪では傷すらつかない。軽くて丈夫な代物だ。
玄関を出てると勢いをつけ、そのまま空中へと大ジャンプをする。そして、一軒家の屋根部分を足場とし妖怪のもとへと急行するのだった