第6話
あぁ……体がふわふわする。あれ?そういえばなんでこんな風になってるんだっけ?………
「う、ゔぅ……こ、ここは?」
そうだ。あの後、炎の玉に付いて行って……刀を取って………
そこで思考を止めようとする。あの時の光景が脳裏を浸食するから。しかし………
「あ、あれ?………いや、いやいやッ!これじゃあまるで本当に………」
大樹の意思に反し、ボロボロと大粒の涙が溢れ出す。それを必死に止めようとする。溢れ出す涙をぬぐい、止まれと心の中で繰り返し唱える。されども、涙は止まることなく溢れ続ける。
どれほどの時間が経ったのだる。あれほど溢れ出していた涙はピタリと止まり一滴すら流れない。ふと起き上がり、周囲を見渡す。自身の腕には点滴の針が刺さっており、鼻で息を吸うと独特のにおいが鼻をさす。そこでここが病院なのだと理解する。近くにあった窓からは夕焼けのオレンジ色の光が差し込んでいた。
いったいどのくらい意識を失っていたんだ?
大樹の脳裏にそんな疑問が浮かび上がる。そして、さらにもう一つ。
「刀はどこ行った?」
しかし、そんな疑問に熟考する余地もなく、誰かがドアをノックする。
「ッ⁉…………ど、どうぞ」
ノックに対し、肯定すると少しの間を置きドアがゆっくりと開く。そして、そのドアから入ってきたのは白衣をきた少し背の高いお兄さんだった
「やあ、こうして目を覚ました君と会うのは初めてだね。君のことを端としている医者だ。名前は千寿という。よろしく」
「千寿……千寿先生ですか。よろしくお願いします。それよりも俺はなんでこんなところにいるんですか⁉どのくらい寝てたんですか?」
「まぁ、まぁ……そんなに慌てなくても君が知りたいと思うことはこれから来るお客さんがすべて教えてくれると思うから」
「………お客さん?」
「そ、だから君がまずすべきことは一つ。それは精密検査だ」
ゲッ!
そこからはよくわからない機械でいろいろとデータを取られ、終わった頃には外は暗くなり、空には月が昇っていた。
…………疲れた
「じゃあ、部屋を用意しているからそっちに移動しようか」
「わかりました」
・・・・・・
20分後
コンコンというノック音がする。
「どうぞ」
「失礼するよ」 「失礼するっすね」
入ってきたのは青年と30代前半あたりの男性の2人
「ッ⁉………こんにちは」
二人を見た瞬間全身の鳥肌がブワッと立つ
なんだ⁉この悪寒。爺さんと似たような感覚ッ………色々と聞きたいと思ってたけど、これは………
「こんにちは、叉江守大樹君」
「こんにちはっす!やぁ~やっぱり挨拶は大事っすね!なんていってもコミュニケーションの基本っすから!」
二人に対し、心の底から恐怖を抱く大樹に対して、その二人はとても穏やかな表情で挨拶を始める
「………は、はぁ」
纏う雰囲気と発せられるギャップに混乱し、声が出なくなる
「まったく……すまない。こいつは常時テンションが高くてね。それに救われるときもあるがそうでないときの方が多い」
そういって男は手を額に当てて悩まし気な表情を浮かべる。
「お気になさらず」
苦労人というやつだろうか………心底この男に同情してしまう
「そうか……あぁ、そうだった。まずは自己紹介をしよう。私は形代 博人だ。そして、こっちのバカは……」
「夜兎 煉月っす。ってバカとはなんっすか!ひどくないっすか⁉」
形代と名乗った男は眼鏡をかけ、いかにもサラリーマンですよ……といった風な服装をしており、夜兎と名乗った青年は半そで短パンといった対照的な服装をしていた。しかし、夜兎の腕や太ももはとても筋肉質。何かスポーツでもしているのだろうか?形代は、線は細いが身のこなしが一般人とはかけ離れており、只者ではないことは明白だった。
この二人と戦った時………俺は勝てるだろうか?
………って、あれ?なんでこんな物騒なこと考えてるんだ?
ブンブンと頭を振り、考えるのを止める
「叉江守大樹といいます。よろしく………それで、教えてくれるんですよね?あれが何なのか」
その言葉に形代はすこし目を見開く
「……驚いた。やはり君は妖怪が見えるようだね」
「昔、色々あって見えるようになったんです。母は生まれつき見えていたようですが……」
「つまり、もともと視る才能は持っていたわけだ。っと、ソレはひとまず置いておこう。まずは君の質問に答えようか」
「………」
大樹はその言葉に静かにうなずく。頭の中には色々な感情が渦巻き、自分でも何故ここまで抑えられて、冷静でいられるのか不思議なくらいだ
今は少しでも手がかりが欲しい。
「君はあの夜見た化け物……あれは『妖怪』と呼ばれる存在だ。負のエネルギーが集まり、具象化したものだ。その中でも今回出現したのは恐らく上位の存在だ。そして、我々はそんな妖怪を祓うための組織。祓魔協会だ。」
「そんな組織が………でも、ちょっと待ってください。そんな話今まで聞いたことないんですけど!胡散臭いにも程度ってものがあるじゃないですか!」
今までの当たり前が壊れるような情報の数に大樹はさらに混乱する。
「…………大樹君。君はニュースと観ることあるっすか?」
すると、そんな様子に見かねた夜兎が横から割って入る。
「え?た、偶に観ますけど……それが何か?」
「そこで報道された死亡事件、もしくは事故……あるいは失踪。その9割が妖怪の仕業なんすよ。妖怪による一家惨殺。友人の突然の失踪。表面上はそう報道されていても、ソレは嘘で塗り固め、一般市民が安心して暮らせるようにしているってことっす」
「そ、そんな……そんなことが」
「そういうことだ。そして、我々はそれらを未然に防ぐために江戸の頃より組織された存在なんだ。」
「未然、に?………じゃあ、じゃあなんで!なんであの時もっと早く来て!父さんを、爺さんを助けてくれなかったんだ!」
形代の言葉に何かが弾けたように立ち上がり、その胸倉を乱雑につかむ。例え、それがぶつけるべきではない相手だったとしても今の大樹はそれしかできなかった。
助けてくれなかった祓魔士への怒り、唯一の肉親を殺した妖怪への憎しみ………そして、何よりもそんな場面で何もできなかった自分自身の不甲斐なさに絶望する。そんな様々な感情が混ざり合い、何かにぶつけないと自分を保ってられなかったのだ
「ッ………」
そんな大樹の気迫に形代は顔を歪ませ目を逸らす。とその時…………
パンッ!
横にいた夜兎が手を叩く
「ソレに関して、僕たちはなんの言い訳もできないっす。でも、このなんでもかんでも自分の責任にしちゃう人に代わって弁明させてくださいっす。」
そこで夜兎は一呼吸置き、ゆっくりと語りだす。その雰囲気は先ほどまでのチャラさが感じられない。
「僕ら祓魔士って基本的に人手不足なんですよ。仕事の全てが死と隣り合わせ。殉職なんてザラ。それを念頭において聞いてくれたら嬉しいっす。とはいっても、親を殺されたのに『平常でいろ』なんて無茶な話なんですけど………この際、ソレは無視させてもらいます。」
「ッ!」
そう語る夜兎の目には、微かに怒気が感じられた
大樹は掴んでいた形代の胸倉を離し、席に着く。
「感謝するっす」
そういうと先ほどまでの真剣さは消え、お茶らけた雰囲気へと戻る。そして、また一呼吸置きゴホンッ!と強めに咳払いする
そこから語られることに大樹は唖然とする。
祓魔士の組織の成り立ち、理念、体制、緊急時の対応……さらには殉職率、生き延びたとしても前線に戻れる確率。
「…………」
全てを聞き終えた大樹は言葉を詰まらせ、脱力する
ハッキリ言って、己惚れていた……自分だけがこんな目に合って、さも悲劇のヒロインかのように振舞って………オコガマシイニモテイドトイウモノガアル
「すいませんでした。怒鳴ってしまって……」
「いや……いいんだ。無理もないことだ」
僕でもわかる。それは無理をしている時の顔だ。それに、よく見ると目の下にも隈が出来ている。そんなに過酷な仕事なのか………
「次は、我々の質問に答えてほしい。辛いかもしれないがあの時の鬼を祓うために必要な情報なんだ」
………祓う。祓う必要?
「……」
「?どうしたっすか?」
黙り込む大樹に夜兎は問いかける
「その必要は、ない。アレは、モウハラッタ」
「「ッ⁉」」
その瞬間、二人が席を立ち臨戦態勢に入る
「春風の勘が当たったな」
「そうっすね……で、明らかに大樹君の雰囲気が変化した……っていうか妖怪の魔力を感じるんですけど。コイツ何者っすか?」
「さぁな、だが……ヤバいのは確かだ」
「違いないっすね」
二人は魔力と共に異様なオーラを放つ大樹を見て冷や汗をかくのだった
前回を帳消しにするくらい長めに作ってみました。こっちの方がいいのかな?
どれくらいが丁度いいのかわからないので気が向いたらコメントで教えてください"(-""-)"