八
とりあえず信虎を牢に入れて親方からの指示を待つ。どのみち氏真が生きていてもあまり関係ない。
さて、この先どうするか……。
万が一、親方からの指示なし、かつリセットなしの場合のシナリオも考えておかないといけないとね。
そんな時、荘介が戻ってきた。
「親方様からのご指示ですが好きにせいとのこと。上忍三人を遣わすとのことです」
上忍か……。
いらねえんだよ。
ただプライドが高いエリートなんて。
「うむ……」
オレが何を考えたかわかったらしく苦笑して続けた。
「ゆきな殿の件ですがわかった範囲でご報告いたします。ゆきな殿は伊勢亀山の生まれらしいです。父は確かに甲賀下忍の喜助というものなのですが……。もう少し調べる余地があるようです。それから母は旅芸者らしいです。十年くらい前から那古野の辺りに住み始めたらしいというところまで調べております」
「要はあの遺体が喜助でない可能性があるかどうかってことだな」
「左様にございます」
そう言うと荘介は消えていった。
数日後、三人の客人が駿府を訪れた。オレは例の上忍と思い込み会談に臨んだ。なんだろう。凄い違和感がある。この話し方、極端になまりを抑えた喋り方。どこかで聞いたことのあるイントネーション。
ん?
なんだ、向かって左の男。見覚えがあるような気がするが……。
まさかね。
「ところで木下殿? 尾張殿からはなんと?」
オレがそう言うと三人から笑顔が消えた。どうやら合っていたようだ。信長もまさか藤吉郎の顔をオレが知っているとは思っていなかったのだろう。
「これは、これは。さすがは小次郎殿だ。信長様より駿府の様子を見てくるように命じられて参ったのであるが……」
どうやらオレが派遣されてきた上忍と勘違いしたので話をあわせてきたらしい。いかにも秀吉らしい。ちなみに他の二人は小六と小一郎だった。実際会ってみないと肖像画だけではわからんもんだ。
「それで尾張殿は某をどうしたいのだ。まだ、信虎が謀反を起こしてから十日も経っていないんだぞ」
オレは藤吉郎に信長の真意を問いただす。藤吉郎はしばらく黙り込んでから口を開いた。
「小次郎殿はこのことを知っていたのかと……」
「このこととは?」
藤吉郎は明らかに言葉を選んでいる。オレが先に核心を突いた。
「要は一度見たものを覚えているのかと訊いてこいと尾張殿から命じられたんだろ」
三人の顔がこわばり黙り込むのでオレは続けた。
「某と氏真様は友人なのだぞ。わかっていたら尾張などに行っておらんわ! さっさとリセットするように伝えろ」
「りせとと申しますと?」
藤吉郎が訊いてくるのでオレははぐらかす。
「尾張殿に訊けばわかる。これから客人がくるんだ。さっさと帰れ」
オレはそのまま帰した。これでリセットされれば信長側にリセット使いがいることになる。
数刻も経たぬうちに例の上忍三人が駿府の屋敷に現れた。三人ともとにかく若い。こんなに若くて上忍になれるもんだろうか。早手五郎右衛門、井出英治郎、雲切兵左衛門……。間違いない。みんな偽名だ。オレもある意味偽名だし……。顔だって恐らく三人とも違うのだろう。まあ、オレも前世とは違う顔だから他人のことは言えない。ちなみにオレが兄者と呼んでいる風魔小太郎は君たちが想像する風魔小太郎ではない。その先代の風魔小太郎である。オレも結構いい歳の忍びなのだ。まあ、オレの前世の話は後でするとしてここからオレの戦国大名ライフが始まってしまう。そして……。まあいい。そんな些末なことは。
早手は知将タイプ、井出は軍師タイプ、雲切は猛将タイプだ。恐らく三人とも一騎当千級の忍びなのだろう。オレと違って兄の七光りで上忍になった忍びではないのは三人の物腰から推測できる。