人を狂わせる魅力を持つ十七歳・2
「アデルさん」
軽く両腕を広げてカペルが呼びかける。
「僕に流してください。外で放出してきます」
「お断りしたら?」
無言での含むところのある微笑は、彼の顔が整っているせいで凄みを感じさせる。
「『部屋から出してもらえない』か『ご提案に従って魔力をあなたに流して外出する』かを私が選べる、というわけね」
ジャマン先生に感づかれて奪われるのは許さないという魔法球への強い執着。
私の意見は無視ですか。アデルの笑いは乾いたものになる。
城壁のある村に立ち寄り、過去を振り返る道中になってしまったけれど、本来は学校を代表して出席する学習発表会。ここまで来て宿に閉じこもってはいられない。
そして、行き過ぎた心配をするカペル君が実は別の目的を持っていたとしても、今気をつけるべきは彼よりジャマン先生だ。
深呼吸を数度するうちにアデルは考えをまとめた。
カペル君の真意を探るより、彼の「ご厚意」に甘えて蓄えた魔力を放出するほうが私の為になる。
伏せていた目を戻すと、カペルが促すように手のひらを上向けた。
「アデルさん?」
全く気にする様子のないカペルと違い、剣も持たず体術の稽古でもない抱擁はアデルには気恥ずかしく思える。
恥ずかしいと思ったら負け。自分に言い聞かせても、既に思ってしまった後だから意味がない。
なんとはなしに手の甲を額にあてると、うっすらと汗ばんでいて、これまた羞恥心が刺激される。短剣技の稽古は平気だったのに。
「姿勢はどうでも触れてさえいれば、魔力を移すのに支障はありませんか」
返事をするより早くカペルは肩に腕を乗せるようにしてアデルを抱いた。平然とした態度を見れば、ひとりで照れているのがより恥ずかしい。
「――支障はない。私も背中に手を回していい? そうして流すと安定するの。熱いとか動悸がするとか、体に異変があったら教えて」
マルセルと様々に試したことにより、要領は掴んでいる。マルセルと違い不慣れなカペル君が酩酊しなければいいけれど。
アデルは両手のひらを意識してカペルの背中へと魔力を馴染ませるように流し込んだ。徐々に体温が上がり、彼の吐息が熱を帯びる。これは反射的なもの。
「どう?」
「たまらなく気持ちがいい」
体調の変化を聞いたのに、返ってきたのは率直な感想だった。




