人を狂わせる魅力を持つ十七歳・1
体に蓄えた魔力量がいつもより多いと気も大きくなり「今ならそうそう負けない」という気分になるが、アデルは魔術が使えない。
なので攻撃力が高くなるわけではなく、強気になるだけというバランスの悪さだ。
学習発表会の開かれる街に着き、宿で荷解きをしていると、控えめに扉がノックされた。
「アデルさん、カペルです」
人目をはばかるように小声で名乗る。マリーとロザリーが同室でアデルは一人部屋。
特に気にせずに「どうぞ」と部屋に通すと開口一番、
「ジャマン先生が来ています」
なんですと。忌々しさを露骨に表したのは、好戦的な性格……ではなく溜まった魔力のせいと言うことにして欲しい。
「驚かせてすみません。弁論大会の審査員を一昨年からなさっているそうです」
カペルが急ぎ口にした理由に「なら、私とは無関係」と少し気が楽になるアデルと違い、カペルは硬い面持ちのまま。
「アデルさん、魔力を放出したほうがいいのでは。ジャマン先生は魔力の感知に長けています。それに必要とあらば、アデルさんは人前でも力を見せてしまいますよね」
「これでも一応、時と場合は選んでいるつもりなんだけど」
「そうでしょうか」
ふたつも下の男の子に「疑問である」という顔をされるのは、とても残念。
「力がなければ、使いたくても使えませんよね」
「それは、そうだけど」
アデル・ブラッスールが隠している魔力を譲渡するのは非常時のみ。正しく理解しているだろう彼が、それでも減らしておくべきと考えていることに、驚く。
「私が魔術を使えないのは、知っているでしょう。距離があり過ぎてオデットに渡すのは無理よ」
だから減らせない。アデルは主張した。
「なら、他の方法を」
カペルがじれったそうにする。
巨大ムカデの時のように胸から剣を出せばごっそりと減るが、それを見せるわけにはいかない。ただでさえ私が魔法球を持っているとカペル君は確信しているのに。
――今だって。ひとつの考えが頭をかすめる。
ジャマン先生が来ているのは本当だろうけれど、カペル君の目的は私の魔力量を正確に把握することかもしれない。
シャンタルだった時、畑で偶然魔法球を拾って人が変わってしまったようになった夫。魔法球の持つ魅力は人を狂わせる。
気を引き締めるアデルを、カペルが見つめた。
「僕でも感じるほど魔力に満ちているアデルさんを、このまま外に出すわけにはいかない」
これが歳下の男の子の発言なの? その瞳の深みもまた歳に不釣り合いなものに思えた。




