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コリンヌの住んだ城壁のある村で・5

 コリンヌはもう少し警戒心があってもよかった、とは思うけれど。


「何もかもを疑って暮らすのは、無理よ。取り越し苦労がすぎると自滅しそう」


 でも田舎娘の私があんなに愛されるなんておかしいと、ちらっと思うべきだった。哀れで幸せなコリンヌ。



 カペルは「自滅」と一言を繰り返し、背中に手を回して動きを止めた。


「鞘から出さなければ、僕も剣を握ってもいいですか」


 どこか遠慮がちな聞き方。自分が剣を握っているのに、カペル君だけ棒きれを振り回せと言うはずもない。


「どうぞ」



 即答したアデルから目を逸らしたカペルは、ここからでも見える城壁へと顔を向けた。


「……怖くはありませんか」

「なにが?」


 物見の塔の脇で篝火が赤々と燃えているのは、旅行者向けの演出だそうだ。その火影の揺らめく様が怪奇的だと感じるのなら、カペル君は感受性が豊かなのだろう。


「剣を持つ僕を怖いとは感じませんか」


真顔で言われたのは思いがけないことだった。


「剣なら私も持っているけど?」


 見知らぬ大男相手なら怖いに決まっている。でもカペル君なら別に。顎をあげるアデルに、カペルが小さく息を漏らした。


「気にしているのは、僕だけですね」



 気を取り直したように声を張ると、上着の下、背中に装着していたらしい剣を取り出した。


「短剣の極意を教えてください、アデル師」



 そこの極意こそが教えたくないところ。薄暗いのをよいことに、アデルは渋面を作った。


「相手が短剣を持っている場合、すぐに短剣を奪うことが重要なの。私なら肘を使うわね、出来る限りのことをして、相手を殴る、腕を折る、投げ飛ばす」


カペルの口は「ん?」の形で固まってしまった。


 信じられないだろうが古流ではそうなのだ。短剣を使う試合は、今の時代ほぼない。実践的な使い方を習うなら、軍に入るか元軍人に習うかだ。おそらく基本的は考え方は古流と変わらない。



「襲われた時に自分が剣を持っていなかったら、剣を持った相手の手首を掴む、腕を交差して防御する、止める時は両手で止める。本気で振りおろされたら、片手で止めては手首を脱臼してしまうわ」


 短剣は一瞬で抜けるから、持っていても相手に遅れをとる場合がある。


「私は力負けしてしまうから、防御がしにくい股間を狙って蹴りを入れるしかない」

「――――」


 アデルがせっかく奥義を教えたのに、なんともいえない間ができた。


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