コリンヌの住んだ城壁のある村で・1
ほぼ完全な形で城壁の残る町は少ない。長く戦のない時代が続き住民が増えれば、城壁は邪魔になる。
崩して場所をつくり石材を利用して町を拡大する。
そうせずに城壁の外側に住居や宿を建てた町は、旅行先として人気がある。学校を出て二日目はこの町に泊まる。
昼過ぎに着いて馬車を降りるまで、ここがコリンヌとして暮らしていた村だと、アデルは気が付かなかった。
当時は村に名前らしい名前もなかったので、行程表を見ても分からなかったのだ。
「あの三角屋根ですか」
アデルの視線を追った案内役の宿の主人が聞く。
城壁の所々に物見の塔のような部分があり、特徴的な円錐形の屋根がのる。「コリンヌ」には見慣れないものだ。
「あれがないと、ただの石塀みたいでしょう。だから『元はこうだったんだろう』ってことで、復元したんです。お越しくださったお客さんには『お城っぽい』と好評なんですよ」
まさかの理由だった。それを復元と言っていいのだろうかと疑問が残る。
城壁の内側は道が変わっていないので案内はいらないけれど、家々はどれも手入れがされていて古さを感じない。
むしろコリンヌがいた頃より小綺麗になっている。あれからどれくらいの年数が経っているのか、アデルには見当もつかなかった。
そこここに旅装の人がいて、周囲を見回すとコリンヌの知人が住んでいた家も、一階部分は土産物屋だ。
「はい、みなさん。ここで自由行動にします。三時間後に夕食ですから、それまでに宿に戻ってください」
引率の教師が手を打つ音を合図に解散となった。
アデル以外のふたりマリーとロザリーは何やら話しながら、そのまま道を行く。引率の先生は近くでお茶を飲みそうな雰囲気だ。男子三人の姿はもうない。
残ったアデルは宿の主人に話しかけた。
「城壁のほかに見どころは、どちらでしょう」
「領主様の館が一部復元されています。まだできたばかりで綺麗なので見てください」
これもまたコリンヌの時代には廃墟となっていたもの。
「大門は夜に閉めるんですか」
「鎖が錆びついていて、閉めようと思ったら大変なことですよ」
「狼とか盗賊は?」
「城壁の外に住む者の方が多いんです。狼はこんな人の多いところには近寄りませんよ」
これだから街の子は、というように宿の主人は笑った。




