前前世の恋 私がコゼットだった時・3
「尋問は誰にさせる」
自白剤を使うことの是非は検討されず、尋問を担当するのは誰かと、聞くのも恐ろしい会話が平然と続く。
痩せた体を縮めて下着のまま胸を両腕で隠すようにしているコゼットに、遠慮のない視線を浴びせるのは、増えてきたように思える神官達だった。
蔑む目、好奇の目。嬲るような目。コゼットには顔を上げる勇気がない。
幾重にもなった人垣の後ろから進み出た人がいた。
「そのお役目、お任せいただけませんか」
驚いて声の主を見れば、レイノー様だった。
コゼットを厳しい眼差しで一瞥し、すぐに神官長へ視線を移す。
「発言する失礼をお許しください。出過ぎた真似とは承知しておりますが、神官が綺麗ごとのみの世界ではないと知る良い機会になると考え、志願いたします」
神官長は思案顔で顎を撫でた。
「自白剤の使用で効果を得るには、いくつか注意点があったと記憶しております」
レイノーの淡々とした声音だけが響く。
「心を開かせるのには、雑談めいた会話が効果的とか。神官のうちで彼女に最も歳が近いのは私です。必ずやお役に立ってみせます」
――まさか。コゼットの頭にひらめくものがあった。
レイノー様を押し上げようとする派により、彼の立身出世の為に私が嵌められたのか。そう考えれば筋が通る……唖然とした。
これまでずっと優しくしてくれたのも施しも全部、全部。
世界が色をなくすなかで、レイノー様だけが白く浮かび上がって見える。自分のバカさ加減が呪わしかった。
この部屋は四階。なので窓には鍵がなく、内側から押せば開く。
自白剤は絶対に飲まない。レイノー様に心を寄せていることを、人に知られてしまっては、ご迷惑をかける。
レイノー様にどんな思惑があったとしても、私が嬉しかったのは本当だ。
始めから筋書きが決まっていて私にはどうすることもできないなら、せめて有効に使って欲しいと願う。
やるなら今しかない。雪と氷に閉ざされた土地にレイノー様を行かせるわけにはいかないのよ、コゼット。
そう言い聞かせて自分で自分を奮い立たせる。
さん、に、いち、さあ!
コゼットは窓に向かって駆け、全力でぶつかった。あっけないほど簡単に体が空中に投げ出される。
誰の声も聞こえない。
ところで宝珠はどこにあるのだろうと思ったところで、暗転した。