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ジェラールの考察

 例年夏の繁忙期は、独立した元従業員に助っ人を頼んで人繰りをするものだが「今年はカペル君のお陰で少し楽だ」と父が言っていた。


「毎回服を汚して帰って、家で叱られねえの?」

ジェラールが聞けば

「剣の稽古と言って出てきていますから、大丈夫です」

と微笑する顔は、つるんとした肌もあって女の子よりよほど綺麗だ。



 これであの魔力なんだからエグいよな。

ジェラールは内心舌を巻きながら、害虫駆除を行うカペルを少し離れた場所から見守っていた。


 火を使う場合は、近くに水場があれば消火用の水を引く準備をする。が、カペルの同行はこれで四度目。


 魔術操作はこの上なく的確で、まさかの備えはジェラールの水魔術でいいんじゃないかとなり、手間のかかる準備を省き、数個の桶に張った水と塩分摂取による能力の増強で済ませることとした。


 それにより片付けにかかる時間が短縮できるから、帰りも早くなる。

正直、桶の水もいらないんじゃないかと思うが、これはお守りみたいなものだ。



 それにしても。ジェラールは何度目かの疑問を抱いてカペルを眺める。


「お坊ちゃんが、なんでまたこんなに熱心かね」


 父と兄は「男の子だからな、魔術をぶっ放したいばっかりだろう」「家が厳しくて溜まるもんがあるんだろ。発散する場所が欲しいんだよ」と、したり顔で意見を一致させていたが、ジェラールにはどうにもひっかかる。


なにか忘れているような。腕を組み目を閉じた。



――オオトカゲ。オオトカゲだ。

『先輩はオオトカゲの駆除もなさいますか』

『いや、ウチじゃねえ。害獣は害獣の業者がいる』


あの会話はいつだ。目頭を揉み込んで思い出す。


――そうだ、ムカデを退治した帰りだ。その後はどうしたんだった?


『必要なら紹介する。でもオオトカゲを相手にした話は聞いたことがない』


 俺はそう言ったんだ、確か。それでカペル君は、紹介すると言った俺になんと返事をしたんだったか?

『いらない』だったか。いや違う。

『そこまでは』そう『そこまでは』だった。 


 その意味するところは「今のところは紹介はいらない」なのか「経験のない業者に頼るほど困ってはいない」なのか。



――そういうことか。

ジェラールは曇りが晴れた心持ちで、目を開けた。


 ヘタな業者より、カペル君が経験を積み相応の覚悟を持ってあたったほうが上手くやれる。



「だけど、オオトカゲ?」


 今までオオトカゲの駆除の依頼は、聞いたことがない。そこそこデカいイモリと同じ方法でいけるのか。


 イモリなら兄と父が駆除したことがあった。「家を汚してくれるな」と言われて苦労していた覚えがある。特注の檻を作ったんじゃなかったか。


 生きたまま捕獲して、処分場で焼いた。

なかなか焼けなくて「一生焼けないんじゃないかと思った」と、兄が嫌そうな顔をしていたのまで思い出す。



 カペル君は手間賃を頑なに受け取らない。だから、仕事道具を鍛冶屋で作って渡すことにした。改良を加えた「ルグラン仕様」だ。そんなものを喜ぶのだから、妙な奴だと思っていたが。


 とりあえず、でっかいトカゲについて仲間内に聞き回ってみるか。

そう決めてジェラールは、腕組みをといた。


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