偶然の出会い・3
それは今ここでの会話のことなのか、それとも講演の事を言っているのか。
講演で「ひとり浮いていたあなた」と名指しされたわけじゃない。落ち着くべきだと、アデルは表情を保つことに気を配った。
「楽しく伺いました」
どちらとも取れる言い方にする。
「さて、あまり長話をしてもご迷惑でしょう」
まだ続くかと思われた会話を切り上げて、ジャマンは立ち上がった。
アデルからは逆光で表情が読めない。
「あなたとはまたお会いする、そんな気がします」
一度帽子に指先を添え、来た時と同じようにカップを持って立ち去るジャマンを、アデルは見送るでもなく眺めた。
なんだろう、予言? 予告? 怖さはないが得体が知れない。考えようもなく、ぼんやりとしてどれくらい経ったか。
「俺も早く来たつもりだったけど、アデルちゃんのほうが早かったか」
会いたさに待ちきれなくて早く着いたなら嬉しいね。などと、明るい声を響かせるのはジェラール。
立っているのはさっきジャマン先生がいた位置だ。
「あ、こんにちは」
アデルの間の抜けた挨拶を気にすることなく、ジェラールの視線はカップに移る。
「ほとんど空だ。おかわり? それか別の店で――お!?」
ここで待ち合わせてお茶を飲んだ後移動するつもりだったのだから、先輩もなにか……と勧めようとして、ジェラールの視線が固定されていることに気がついた。
今度はジェラール先輩の知り合いが? まさかまだジャマン先生がいるとか。
座ったままで腰をひねって振り返る。
「オデット?」
「お姉ちゃま、見っけ」
少し離れた所で虫取りセットを両手に握ったオデットが、にっこりを通り越してにまにまと笑っている。
その後ろから、虫取り網と共に買ったばかりらしい飲み物をふたつ持ったマルセルが来る。
これは、どういうことなの。アデルの非難を一身に浴びたマルセルが口の動きだけで「ごめん、仕方なかった」と謝る。
「オデットが『こっちにいい虫がいる感じがする』とどんどん行ってしまって、着いたのがここだった」
なんてこと。確かにマルセルにはジェラール先輩との待ち合わせ場所を伝えてなかったから、責めるのは筋違い。
オデットには出かけることも内緒にしていたのに。
そのオデットはジェラールが座るはずだった椅子にちゃっかりとおさまってしまった。おじゃま虫にも自然に椅子をひいてやる先輩の紳士ぶりには頭が下がる。
「悪いね、ルグラン君。よかったら、これ。アデルは同じものでいい? ちょっと待ってて」
マルセルはテーブルに置いたカップをジェラールに勧めると、すぐにまた買いに戻る。
「オデットは、お茶なんて飲まないくせに」
「でもお姉ちゃまと一緒がいいです」
アデルが睨んでもオデットは満面の笑みを浮かべて屈託がない。帰る気はなさそうだし、嫌味も伝わらない。
「まあ、こうなるんじゃないかとは思ってた。予想が当たってちょい嬉しい気もする。帰れとも言えないしな」
ジェラールはオデットの肩をポンとして、さっぱりとした笑みを浮かべた。
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