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偶然の出会い・2

 当たりさわりのない会話をし、あとは無言。


 近くで見たジャマンは深黄色の瞳をしていた。暖色といえば暖色か。

マルセルと同じ年齢で「知人だが友人ではない」仲。




 講演の後にマルセルに聞いた話によると、演題はお任せで「妖精伝説について」の予定が、当日には魔法球の話メインに変わっていたらしい。


「ジャマンは魔法球を研究しているから、アデルに顔を見せておこうと思ったんだ。でも、魔法球の話をするとは思わなかった」


マルセルが難しい顔つきになる。


「よくないこと?」

「ハンターは獲物の匂いに敏感だと聞くよね。ジャマンの最近の研究報告を読んで『民俗学者からお宝ハンターに職を転じたか』とこき下ろした学者がいたよ。何かを嗅ぎつけて、出どころを探ろうとしてたのでなければいいけど」


 私から妙な匂いが出てるなんてこと、ある? アデルは思わず自分の手の甲を嗅いでみた。よくわからない。


「剣の練習をしておくわ」

「それまでになんとかするのが肝要だ」


 知ってる、そんなこと。でも最後の最後は剣じゃない?




 注目の人、ジャマンを前にして無言のうちにアデルはそんなことを考えていた。


「私は仕事柄、人前で話すことが多いんですよ」

ジャマンが唐突に口を開いた。

「内容を任された時は、その場の雰囲気で変えることもあります。聴衆によっては話し方も変える。人前で話すことを苦手とする人は多いようですが、あなたはいかがですか」


「機会がないので、わかりません」

アデルは素っ気なく返した。



 返事は何でもよかったのか、ジャマンは気分を損ねた風もなく話し続ける。


「会場全体を把握することは大切ですが、コツは『ひとりに分かってもらうよう話すこと』です。『皆に』と思うと趣旨がまとまりにくく、無難になってしまう。だから『この人』と定めて反応を見ながら進めてゆく」


 ならば、その「ひとり」はどう目星をつけるのだろう。


「先日の講義なら、興味もなく付き合いで参加している風情の女性に定めました。他の女性は私に注目しているか友人とおしゃべりをしているなか、彼女だけ少し違って見えた。それが私の目には気高く感じられて」


ジャマンは口元だけで笑みを形作った。


「よし、今日は彼女が『来てよかった』と思うような話をしよう、と」



 ジェラールはまだ来ない。一時間も早く来たのだから当然だ。


 アデルがお茶を飲むのに合わせて、ジャマンもカップを口に運ぶ。うっすらとした笑みのままで、問われた。


「私の話は、あなたを退屈させましたか」


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