表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/170

偶然の出会い・1

 両手に火ばさみを握ったオデットは、虫取り網と虫篭を持ったマルセルと連れ立って、アデルより先に出かけて行った。


 夏用の帽子をかぶった後ろ姿は本当にかわいい。振り返らなくていいのに、何度でも振り返るからその度に手を振ってやる。



 虫は好きじゃないと常々言っているアデルに「お土産を取ってきます!」と火ばさみを掲げるのが、解せない。


「捕まえて満足したら、そこで放してくれるといいなあ」

ぼそっと呟く父を母が励ます。

「マルセルが上手にしてくれますわよ」


家族の誰より虫が苦手なのは父なのだった。



「アデルも早く用意しないと」


 ジェラールと出かけると伝えてあるから、母の言い方にひやかしを感じてしまう。案の定、父に聞こえない声で「デート」と言ってくる。


「そんなんじゃないの」


アデルの否定はついつい強めになってしまった。







 ジェラールとの待ち合わせは広場の休日市。いくつも出る茶店のひとつがお勧めだと言うので、そこにした。


 お天気の良い晩夏に、ひとり青空の下でお茶を飲もうと、アデルは約束の時間より一時間早く着くように家を出た。

 

 好きな物を飲むか、家では飲まないものにするかを悩んで、目に入った女の子を真似してオレンジティー。

爽やかで季節にぴったり。そして何よりお洒落だ。父とオデットが一緒では、こうはいかない。


 お出かけしてよかったと実感する。相手がジェラール先輩でも。



 ひとりの時間を楽しんでいたので、声をかけられてもすぐには気が付かなかった。

私に言ってる?


「相席よろしいですか」


 テーブルセットは数に限りがあり、他も皆、相席にしている。それに高い教育を受けた人の言葉遣いだ。問題はないと思われた。


「人と待ち合わせをしていますので、それまででよろしければ」


「ひとりではありません。待ち人が来たら席を譲ってください」を婉曲に伝えると、こうなる。


「ありがとう」


 頭の後ろから差す日により顔が陰になっていて分からなかったが、座った男性を見て驚いた。なんと、ジャマン先生だった。休日でも揃いの上下を着てとても紳士らしい。



 手に持った飲み物をテーブルへ置き、帽子を軽く持ち上げて挨拶をされる。


 こっちが一方的に知っているだけで、ジャマン先生は私を知らない。アデルは心の内で「平常心」と繰り返してから、会釈した。


 偶然ってあるもの。この辺りは気の利いた専門店が軒を並べていて、最近人気があると聞いた。

マルセルの言う「人気先行の若手研究者」であるジャマン先生に似合う地区だ。



「お近くですか」


聞かれた。家から歩いて三十分、近いと言えば近い。


「はい。お近くですか」

「この近くに用事があって途中で立ち寄った、というところです」


ジャマンは微笑した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ