両手に剣、胸に魔法球
試験の結果は姉妹揃って同じくらいだった。マルセルが教師になってからの試験問題を全教科取っておいてくれたおかげだ。
「兄姉のいる家はみんなしていることだから、問題ない」
もう子供じゃないけれど、家庭教師は頼もしい。
今日のお昼休みはオデットをマルセルのところへ預けて、競技場でカペル君と待ち合わせた。
「カペル君が珍しいワザを覚えたいって。ぜったい、カッコいいお姉ちゃまを見たいだけ」
鼻をひつくかせたオデットを通して依頼されたので、右手に細剣、左手に短剣の組み合わせ技を説明することにした。
要所は左右両方使って相手の攻撃を封じること。理屈はわかっても、本気で剣を交えてその通りにいくと約束はできない。
学校に剣を持ってくるのは憚られたので、細剣の代わりにそのへんで拾った棒きれ、短剣の代わりに筆記具を使っている。妙な見た目になってしまうのは許されたい。
突きの速さなら私よりオデット。なんというか、ためらいがない。火ばさみをもらってすぐに「屋根裏のネズミを捕まえます」と言い張るので、必死に止めた。
火ばさみで捕まえた生きたネズミを得意げに見せでもしたら、母が卒倒する。
カチカチと鳴る楽器として楽しんでもらうのが一番だ。
オデットが「お姉ちゃまに剣を教えて欲しいって、カペル君」と言った時には不思議だったけれど、週末ジェラール先輩の仕事に同行する時の言い訳を「剣の稽古」にすると聞けばなるほどだ。
実用性には拘らないならと選んだ見た目の派手な技。一連の流れを覚えたところで、今日はここまでとした。
「魔力測定の結果を聞いてもいいですか」
アデルの数値が予想より低かったのだろう、カペルは意外そうな顔をした。
「測る時の体調に左右されるみたいで」
体が弱いから魔術が使えないという話を思い出したらしく、それで納得してくれた。
これだけ剣を振るっておいて病弱? などと思わないところが、カペル君のいいところだ。
「オデットさんも受けますか」
「あの子はまだ成長期だから、今のところ予定していないの」
この半年オデットの身長は少しも変わらない、とは言わずにおく。ブラッスール家としては、私が受けておけばいいという考えでもある。
「カペル君は?」
「僕もまだ背が伸びるので、卒業間近まで受けないつもりです」
「魔力測定がどうかした?」
話題が唐突だと感じたので、そのまま聞いてみる。
一拍おいてカペルは真摯な眼差しを向けた。
「先日、ジャマン先生が父を訪ねていらして。空の宝珠に魔力を込めることのできる人を探す計画があり、賛同者を募っている……と」
空の魔法球に再び魔力を込める方法はない、とされてきた。でも私ならやれてしまうかもしれない。
――それはまた、面倒事の香りがプンプンとする。
アデルとカペルは黙して歩いた。




