子爵家次男坊の事情・2
父は書室にいた。
会うのは半年ぶり。特に変わりはない様子だった。
景色の良い保養地にある別邸にいる母も変わらず、外国を見て回る貴族子弟のための団体旅行中の兄も元気だというような家族の近況を聞いて後。
「学業は順調か。試験は」
「終わったばかりです。来週には成績がでます」
「お前はうちの誇りだよ」
「期待に添えるよう努めます」
にこりともしない父に、フレデリック・カペルは丁寧に応じた。不仲というわけではなく、これが普段通りだ。
次男の自分に父が目をかけるのは、学業が優秀であるからと理解している。
「ブラッスール伯のご息女と同級と聞いたが」
聞かせたのは侍従長だろう。
「他からの目もある、くれぐれも失礼のないように」
「はい」
言わずとも分かっているだろうが、と父が視線でも威圧する。
話はそれくらいだろうか。同じ屋敷に暮らしても生活時間帯が違うので、今だけやり過ごせば顔を合わせる機会は少ない。
「どうだ、宝珠は見つかりそうか」
ついでのような口調からして、先に侍従長から「進展がない」と聞いたのだと思われる。
反射的に思い浮かぶのは、アデル・ブラッスール。
しかし彼女を巻き込みはしないと決めている。
毒毛虫と対峙したあの日、火種をいとも簡単に提供されたことで、アデルさんが宝珠を所持していると確信した。
護るべきはオデットさんだと感じていたのに、本人には否定されたけれど宝珠を持っているのはアデルさん。はっきりしているのは、好きになってはいけないということだ。
「先日、講演を聴く機会がありましたが、空になっている宝珠も多いそうで、専門家でも入手は難しいようでした」
「お前のためではあるが、差し迫った話でもない。学生時代は交友関係を広げるのも大切なことだ」
少し沈んだ表情でも熱心に聞く態度を取る息子に、父は満足している様子で気分を変えるように口にする。
「家格の釣り合う令嬢なら交際するのに反対はしない。――誰かいるのか」
「特には」
「ブラッスールのご息女とは、親しくしないように。他から不要な注目を浴びるのは好ましくない」
「心得ました」
二度も言わなくても。ここを出たら早速、侍従長に父の耳に余計な話は入れないよう言っておこう。
フレデリック・カペルは、表情が見えないよういつもより少しだけ深く頭を下げた。




