才能ある後輩と競争率の高い彼女
「獲物を狙うような目をしてんじゃねえよ」
「は? なんだそれ。やり方聞いても初めてじゃどうするかと思って、見てただけだ」
兄に背中を叩かれたジェラールは、即座に言い返した。
兄が大げさに情けない表情を作ってみせる。
「なんつーか、経験とか慣れとかそういうモンを軽々と越えてくるのが、才能ってヤツか?」
兄弟の視線の先には、フレデリック・カペル。今日初めて巨大害虫駆除に同行し、大邸宅の庭池に発生したやけど虫を退治したところだ。
死骸も幼虫も有害なので、この後も取り扱いには注意が必要だ。カペルはそこもよく理解していて、慎重に扱っている。
「坊っちゃんが興味本位についてきたって、邪魔になるだけだ」と、カペルに合う前から文句を垂れる兄を、ジェラールは「見ればわかる」の一言で黙らせた。
毛虫を焼く場を実際に目撃してはいないが、結果を見れば実力のほどは明らかだ。
アデルちゃんが手を貸したと決めつけたのは、今日の仕事ぶりを見る限り誤りだったかもしれない。カペルの手際は驚くほど良かった。これで一年生なのだから、さすがの飛び級生と感服すべきか。
妬みそねみが滲んじまったかな。ジェラールは眩しいふりをして額に手をかざし、意識的に瞬きを繰り返した。
「あれ、でもお前、才能あるの女の子って言ってなかったか」
「女の子にもいるんだよ」
「は―、さすが高等専門学校、できるヤツがゴロゴロしてんの? すげえ」
脳天気な兄に「ちげーよ、このふたりだけだ。こんなの、そこらにいてたまるかよ」と、内心で毒づく。
先週、オデットちゃんに約束の火ばさみをプレゼントした。アデルちゃんとひとつずつと言っていたのに、両手に持って離さない。
アデルちゃんは欲しくなさそうだったから、それでいいんだろうが。
カペル君はオデットちゃんの彼氏、ということになっている。が、本命はアデルちゃんで彼女の為にオデットちゃんの彼氏役を引き受けているんじゃないかという気が、ずっとしている。
オデットちゃんの彼氏である俺に遠慮しているなら。ジェラールは目を細めて考える――ずっと遠慮しててくれ。
アデルちゃんはしっかり者なのに強く出られると譲るところがある。身分的に釣り合うのは、カペル君だ。俺は不利。
「はとこ」だと言っていたドブロイ先生だって、親の手前「女として見てません」って顔をしているだけで本音のところは分からない。
「さて、どうすっかな」
声に出したジェラールを、不思議そうに兄が見る。
「忘れたのか、この後もう一件入ってるぞ」
「兄貴の彼女はいいよな、競争率低くて」
この上なく失礼な発言をしたジェラールに、兄は目を見張り次の瞬間怒りをみなぎらせた。




