前前世の恋 私がコゼットだった時・2
その神官がレイノー様だったら。暗闇のなかにいるような不安が消えたのは、噂を聞いてから数日後にレイノー様の姿をお見かけした時だった。
いつものように微笑を浮かべて、他の神官の方々と歩む様子には、お変わりがない。
コゼットは涙が出そうなほど安堵した。
その後もコゼットは床掃除を続け、たまにこっそりお菓子をもらう。
いまだに女中頭から渡されないことは言わなくてもご存知で、ここでは必要以上の食べ物は与えられないのだとコゼットも知っている。
お姿が見られたら幸せ、こんな日々が続けばいいと思っていた。
そして、事件が起こったのはコゼットが十五歳の時。
神殿で重要なものとされる宝珠がなくなったのだ。箱の中に箱と、箱が入れ子状態となった内に宝珠は収められていたらしい。
「らしい」と言うのは、コゼットが見たことはないからだ。そこにあるとはつゆ知らず、他の部屋と同じように床掃除をしていたコゼットに、疑いの目が向けられた。
一室に閉じ込められ、ベッドとわずかしかない荷物を検分された。もちろん宝珠は出てこない。
お菓子を隠しておいたりせずに食べてしまっていて良かったと、胸を撫でおろす。残していたら、盗みを疑われるどころかレイノー様にまでご迷惑がかかる。
これで嫌疑が晴れたかと思えば、神官長や上級使用人達の前で女中頭に服を脱がされた。
ほつれを繕って長く着ている下着一枚にされ、隠し持っていないことを確かめられた。
死ぬほど恥ずかしいと思っても、身の潔白を証明しなければ追い出されるので我慢する。
涙をこらえるコゼットの頭に浮かんだのは、殴られ髪を短くされたと聞く年上の女中の話だ。
裸同然のコゼットをそのままに、大人達が次の相談を始める。
「自白剤」という聞き慣れない言葉が耳に飛び込んだ。
「あれは、後に響きます」
「下働きのひとりくらい、かまわんだろう」
男性使用人頭と神官が世間話をするように軽く語るさまに、ショックを受けつつも、私はその程度なのだと諦めに似た気持ちを抱く。
親に大事にされない子供が他人様に尊重されるはずもない。
ひょっとしたら宝珠はもうずっと前から箱の中にはなくて、私を犯人に仕立てるのにちょうどいいのが今日だったということもある。
聞き耳を立てながら、コゼットは絶望した。